個人再生
借金の問題を解決するための手続きである債務整理は、借金を減らしたり、支払いの猶予を得たりする方法です。
具体的には、「任意整理」「自己破産」「個人再生」という3つの方法があります。
これらの手続きは別々のものであり、利用条件や効果が異なります。
この記事では
債務整理とはどのようなものか
個人再生の手続きとそのメリット・デメリット
他の手続きとの違い
について説明します。
債務整理と個人再生はどう違う?
債務整理とは
「借金がどんどん増えて、もうどうにもならない」
「いつになったら借金が完済できるのか分からない」
「早く借金の悩みから解放されたい」
このように借金問題で悩まされる人に立ち直る機会を与える方法が「債務整理」です。
債務整理は、借金を減らしたり、支払いの免除を受けたりすることで、経済状況の立て直しと借金問題解決のサポートすることを目的としています。
つまり、債務整理は法律の力を借りて借金を整理し、完済の難しい借金を返済するための環境を改善することで、借金問題を解決につなげる手続きと言えます。
個人再生は債務整理の一つ
債務整理には、主に3つの種類があります。
- ・任意整理
- ・個人再生
- ・自己破産
これらをまとめて、債務整理と呼びます。
いずれの手続きも、借金の問題を解決する方法として有効です。
ただし、別の手続きなので条件や特徴、効果、メリットとデメリットは異なります。
債務整理はたくさんの人に利用されています。
自己破産は年間約7万人が利用し、個人再生は約1万人が利用する手続きです。
また、任意整理も年間約200万人が利用していると推計されています。
個人再生とはどんな手続きか
個人再生は住宅を保持したまま借金の減額が図れる法的手続
債務整理の中でも、個人再生は、大きな借金を抱えていて返済が難しい人や、支払いができない恐れがある人向けの方法です。
個人再生では、裁判所に申し立てをして、借金が返せないことを認めてもらいます。
その後に、借金を大幅に減らす計画を立て、裁判所が認めてもらいます。
そして、認可された計画に従って返済していくことで、借金完済を目指します。
個人再生は、財産を処分させられないので、財産を持っている人にも適しています。
さらに、個人再生では、住宅ローンを支払いながら、他の借金を大幅に減らすこともできます。
つまり、個人再生をすると、家を守りながら借金だけを整理できるのです。
個人再生は、以下のような人に向いています。
①自己破産で免責が難しい人
例えば、借金の原因がギャンブルで作ったものであっても、個人再生では借金を減らすことができます。
②住宅を維持したい人
自己破産では住宅ローンの支払いを停止するため、住宅を失うリスクがあります。しかし、個人再生では住宅ローンだけは支払いながら、他の借金を整理できます。
③財産を保持したい人
大きな財産を持っている場合、自己破産では処分しなければなりませんが、個人再生では財産を保持できます(ただし、担保に入っているものは除く)。
④資格制限に引っかかる人
自己破産では一部の職業や資格に制限が生じますが、個人再生では資格制限がありません。
【個人再生のメリット①】借金の元金を減額できる
まず、一つ目のメリットとして、借金の元金が減額をされることが挙げられます。
個人再生の手続きをすると、借金は大幅に減額され、減額された借金を3年36回での分割払いで返済することとなります。
そして、減額された借金を完済できれば、残りの借金は支払いをしなくてもよくなるのです。
どのくらい減額されるかの基準は
- ①総借金額をベースに計算する「最低弁済額基準」
- ②保有している財産額をベースにする「清算価値保障基準」
- ③収入をベースにする「可処分所得基準」
この3つの基準の中で、最も金額が大きいものを利用して決定します。
借金額が400万円の場合
①最低弁済基準をベースにすると100万円が基準となります。
下記【最低弁済額基準】を参照
この人が、150万円の資産を持っていたとしたら
②清算価値補償基準では、最低弁済額は150万円となります。
そして、②は①よりも金額が大きいので、最低弁済額は150万円ということになります。
つまり、250万円の借金減額が認められるということになるのです。
【最低弁済額基準】
確定した借金の額 | 最低弁済額 |
100万円以下 | そのまま |
100万~500万円 | 100万円 |
500万~1500万円 | 5分の1 |
1500万~3000万円 | 300万円 |
3000万円~5000万円 | 10分の1 |
【個人再生のメリット②】ローンの残った住宅に住み続けられる
個人再生のメリットのひとつに
「住宅ローンが残っていても、自分の家を手放さずに借金を減らせる」
というものがあります。
つまり、個人再生で借金を整理する場合、家を売らなくても手続きを進められるのです。
特に、お金に余裕がなくても、家を手放したくないという人には、個人再生が役に立つでしょう。
自宅を維持できるようにすることの他にも、住宅ローンを個人再生の対象外にすることにより、住宅ローンの支払いに関しては、銀行との協議により支払スケジュールを変更できます、
これにより、家や土地を差し押さえたり競売にかけたりすることを防ぐことができるという点もメリットです。
【個人再生のメリット③】財産を処分しなくてもいい
個人再生を選ぶと、基本的には財産を手元に残せます。
預金や現金、高価な家財道具などを手放す必要はありません。
また、ローンが終わっている車についても乗り続けることができます。
ほかにも、、保険や生命保険の解約も必要ありません。
退職金がなくなることもありません。
ただし、これらにはいくつかの注意点があります。
例えば、ローンを支払終えた車の査定をしたところ、50万円の価値があったとしましょう。
この場合、車の価値は「②清算価値保障基準」で考慮されます。
つまり、最低弁済額が増える可能性があるということです。
また、保険や貯金、退職金等も同様に、「②清算価値保障基準」に計上されます。
そのため、資産が多いと最低弁済額が上がってしまう可能性があるという点には、注意が必要だと言えるでしょう。
【個人再生のデメリット①】信用情報に影響が出る
個人再生の利点は、借金を大幅に削減し、同時に住宅や財産を保持できることです。
ただし、個人再生をする際にはデメリットも考慮する必要があります。
まず、信用情報への影響です。
個人再生を行うと信用情報に事故情報が記録されます。
これにより、新たな借入やクレジットカードの契約がしづらくなる可能性があります。
いわゆる、ブラックリストに載った状態となるのです。
ただ、一生ブラックのままというわけではありません。
手続きが終わってから一定期間で、この記録は回復されることとなります。
期間は一般的に5年程度ですが、銀行からの借り入れを対象とする場合は、最大で10年間も記録が残ることがあります。
また、個人再生を行った貸金業者の内部にも記録が残ります。
いわゆる「社内ブラック」と呼ばれる状態です。
このため、個人再生から5年が経過しても、社内の記録が残っている場合、個人再生をした債権者からの再度の借り入れが難しくなることもあります。
【個人再生のデメリット②】ローンの残った財産は引き上げられる
個人再生のメリットとして「財産を保持できる」と言う点を挙げました。
ですが、これには1つ大きな例外があります。
それは、ローンが残っている財産についてです。
ローンが残っている財産がある場合、引き揚げの可能性があるのです。
例えば、自動車ローンの、契約に際しては
債務整理を開始した際には、目的物を引き上げる
という条項が付いていることがあります。
また、ローンを組むような物品(例:時計や宝飾品など)も、同様に引き揚げの可能性はあります。
もっとも、これは「債務整理をした際には、目的物は引き揚げの対象となる」という契約の場合に限られます。
必ず起きるわけではないということには留意して下さい。
【個人再生のデメリット③】家族や保証人に迷惑がかかる可能性がある
第三のデメリットとして、個人再生を行うと、家族や保証人に迷惑がかかる可能性があるということを挙げられます。
保証人とは、主たる債務者が借金の支払いを出来なくなった際に、借金を支払う義務を負う人のことをいいます。
そして、債務整理はまさに
「主たる債務者が借金を借金の支払いが出来なくなったとき」
に当たります。
そのため、保証人の方に請求が行くこととなります。
また、個人再生の申し立てに際しては、家計簿を作成して裁判所に提出しなければなりません。
その際には家計収支を一緒としている同居家族の協力も必要となる場合があります。
そのため、保証人や家族に迷惑がかかる、影響が出るという場面が考えられるのです。
ただし、保証人が住宅ローンの保証人である場合や、家族がいても同居をしていないというのであれば、特に影響は出ません。
【個人再生のデメリット④】借金があまり減額にならない場合も
四つ目に「借金があまり減額できない場合がある」という点にも注意が必要です。
最低弁済額は借金額と資産額、収入などをベースに算定し、最も大きなものを基準とすると言いました。
もしも、借金が450万円あるが、資産も300万円ほどあるという状況でしたら、最低弁済額は資産の300万円を基準とするわけです。
借金は150万円の減額にとどまり、毎月の支払額も8.4万円とかなり金額が大きい状態です。
なぜこのような制約があるかと言うと、個人再生には清算価値補償の原則というルールがあるためです。
簡単に言うと、「手元の財産や資産と同額のお金を債権者に払う」ということです。
自己破産をする場合、一定程度の価値がある資産は売却や清算の処分をされます。
上記の例で言うと、資産300万円を清算すれば、債権者は300万円分の返済を受けられるわけです。
一方、個人再生には、この清算の手続きがありません。
そのため、資産や財産は持ち続けられます。
ですが、これだと債権者側からしたら
自己破産をしてくれたら、300万円は回収できたのに……
と考えるのは当然です。
ですので、個人再生においては
「財産を手元に残すことを認める」一方で、「売却、清算していれば債権者が得られたはずの金額は返済しないとならない」のです。
そのため、個人再生をしても借金返済の負担が減らなかった、というケースは生じ得ます。
個人再生とその他の手続の違い
- 1.個人再生は、住宅や財産を保持しながら借金を減額できる法的手続。
- 2.個人再生では、借金を大幅に減らす計画を立て裁判所認定してもらう、その後、計画に従って借金を返済をする
- 3.大きな借金を抱えていて返済が難しい人や、支払いができない恐れがある人にとって有益
- 4.メリットは借金の大幅な減額が可能な点、住宅や財産を手放さずに済む点
- 5.デメリットとして、信用情報への影響、財産の引き上げの可能性、家族や保証人への迷惑、そして借金減額の制限が挙げられる
ここまでは、個人再生の手続がどのようなものかなど、手続きの解説を中心に行ってきました。
ここからは、個人再生の手続は任意整理や自己破産とはどのように違うかについて、詳細に解説していきます。
任意整理との違い
「任意整理」とは、消費者金融などの貸し手と交渉して、金利の再計算や借金の減額を取り決め、返済が生活に負担にならないようにする方法です。
たとえば、消費者金融A社から100万円を借りている場合、毎月頑張って返済しても、1万円を超える利息を支払うことになります。任意整理では、この高額な利息をなくし、元金のみを支払うように手続きを進めます。
個人再生との大きな違い
①裁判所を利用するか
個人再生は、裁判所を通じて行う厳格な手続きであり、裁判所に書類や資料の提出が必要となります。
一方で、任意整理は裁判外で貸金業者等と直接に交渉をする比較的柔軟な手続きです。
そのため、資料や書類の必要量は、個人再生よりも少なく、短期間で終わる傾向にあります。
②借金の元金が減額されるか
任意整理では、将来利息を削減することはできても、元金を下げてもらえるというケースはあまり多くありません。
一方で、個人再生では借金の元金が減額されることから、返済の総額は個人再生の方が減少しやすいことが多いと言えます。
③債務整理の対象を選べるか
個人再生では、住宅ローンを除いたすべての借金を対象としなければなりません。
一方で任意整理では、債務整理の対象とする借金を選ぶことが出来るというメリットがあります。
これにより。ローンの残った自動車ローンや保証人がある借金を対象から外して、それ以外の借金を整理するという方法が取れるため、柔軟性が高いと言えます。
④家族や保証人への影響の有無
個人再生では、保証人や家族への影響があるということは、既にお伝えした通りです。
一方で、任意整理では、上記のように保証人のある借金を対象から外すことが可能であり、また、手続きをするのにも家族の協力が必要ありません。
まとめると、任意整理は、減額できる幅が小さい反面、個人再生と比べると、柔軟性が高く、家族や保証人、財産の引き上げリスクなどを軽減しながら借金を返済しやすくすることができます。
個人再生と任意整理の違いのまとめ
任意整理は、家族や保証人への影響が小さく、手続きが柔軟です。
その一方で、借金減額効果が小さいというデメリットがあります。
そのため、借金が多すぎない方に向いており、自己破産や個人再生のように支払い不能に陥る前に取るべき手続きだと言えるでしょう。
自己破産との違い
自己破産手続きは、資産や財産をすべてお金に換えて清算してもなお、借金が返しきれないことを裁判所に認めてもらうことで、残りの借金の支払いが免除される手続きです。
ただし、一定以上の価値のある持ち物を売らなければならないことや、支払いを免除する理由がない場合には、裁判所が許可しないことがあります。
また、自己破産の手続き中は特定の職業に就けなくなるという制限もあります。
個人再生と自己破産の違い
①減額される借金の大きさ
個人再生の場合、必ず最低弁済額は返済をしなければなりません。
一方、自己破産では、裁判所の許可があれば、借金を返す必要がなくなります。
借金が100万円でも1000万円でも支払いを免れられます。
②免責不許可事由の有無
自己破産の場合、支払いの免除(免責)を認められない理由が法律に定められています。
一方で、個人再生の場合は、このような免責不許可事由は存在しません。
③財産を清算することの有無
自己破産の場合は、一定以上の価値がある財産の清算が必要です。
「一定の価値」というのは裁判所によって異なりますが、およそ20万円以上ある場合は清算の対象となることが多いです。
一方で、個人再生の場合は、これらの財産の処分は必要ありません。
ただし、財産を処分しない分は、清算価値補償基準で考慮され、その分は返済を行わなければなりません。
簡単に言うと、自己破産の場合は、財産を手元に残さず、売って清算します。
一方、個人再生の場合は、「財産は持っててもいいけどその分はお金で払う」という違いがあります。
④職業制限
最後に、自己破産には、法律で定められた資格、職業の制限があります。
身近な仕事ですと、
- 宅建士
- 弁護士などの士業
- 警備員
- 保険の外交員
などを対象として「手続きの期間中は資格を失う」という対応をしています。
一方で、個人再生の場合は、このような制約はありません。
個人再生を検討するなら弁護士や司法書士に相談するのがベスト
この記事では、個人再生について、その利点や欠点、他の方法との違いについて説明してきました。
最後に、個人再生を考えているなら、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
なぜなら、債務整理はあなたの借金問題を解決し、経済的な立ち直りを支援する手続きであり、あなたが望まない方法で問題を解決することは意味がないからです。
債務整理を考える際には、自分がどのように問題を解決したいかを明確にすることが重要だということです。
個人再生には利点もありますが、家族や保証人に影響を与える場合もありますし、財産の引き揚げのリスクもあります。
さらに、申し立てには書類や資料の収集など複雑な手続きが必要です。
これらのメリットやデメリットを過不足ない形で検討するには、債務整理に詳しい弁護士や司法書士の助けが必要です。
そのためにも、個人再生を検討する場合は、弁護士や司法書士に相談することを強くお勧めします。