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債務整理

個人再生の〈最低弁済額〉とは?弁済額の基準と払えないときの対処法をわかりやく解説

個人再生は借金の返済額を大幅に減額することが可能な債務整理の方法ですが、自己破産のように返済額をゼロにできるわけではありません。

個人再生には〈最低弁済額〉というものが法律で定められており、事案によっては返済額があまり減額されないケースもありますので注意が必要です。

この記事では、最低弁済額を決める基準、最低弁済額を払えないときの対処法についてわかりやすく解説します。

個人再生とは

個人再生とは、裁判所に申し立て再生計画の認可決定を受けることで借金を減額してもらい、減額された借金を概ね3年かけて支払う手続きです。

個人再生の仕組み

個人再生は、任意整理のように個別に債権者と交渉する必要はなく、一定の条件を満たしていれば、返済額を、多くの場合は5分の1、最大10分の1まで減額することが可能です。

ただし、債権者の利益を保護するために法律で最低弁済額が定められており、最低弁済額以上の金額を3~5年で返済することにより、自己破産のように財産処分や職業・資格の制限等のデメリットを回避でき、残りの借金返済義務から解放されます。

個人再生には2種類ある

個人再生には〈小規模個人再生〉と〈給与所得者等再生〉の2種類の手続きがあります。

・小規模個人再生:主に自営業を営む個人事業主が対象

債務者が作成した再生計画案が債権者による書面決議に付され、不同意の意見が一定数を超えた場合は再生計画案が否決され、個人再生が認められないという特徴があります。

・給与所得者等再生:会社員のように安定した収入がある人が対象

月収の変動幅がおおむね2割以内であることが求められます。

最低弁済額の基準が小規模個人再生より厳格に決められていますので、再生計画案の書面決議は不要です。

最低弁済額は法律で基準が定められている

個人再生における返済すべき金額は、債務者が作成した再生計画案が裁判所から認可決定を受けることにより定まります。

ただし、再生計画案は法律で定められた最低弁済額の基準を満たしている必要があります。

その基準は民事再生法で次の3つが定められており、〈小規模個人再生〉と〈給与所得者等再生〉では基準の適用が異なっています。

①最低弁済基準
②清算価値保障基準
③可処分所得基準

個人再生における最低弁済額

最低弁済額とは、個人再生を行った人が債権者に対して最低限支払わないとならない金額のことで、最低で100万円です。

最低弁済額は民事再生法で基準が決められており、これを最低弁済額基準額といいます。

最低弁済基準

最低弁済基準とは借金の総額に応じて支払う必要がある最低限の金額を定めた基準のことです。

最低弁済基準額は、住宅ローンの残債務を除いた借金総額から算出します。

借金総額最低弁済額
100万円未満 借金総額
100万円以上 500万円以下100万円
500万円超 1,500万円以下借金総額の1/5
1,500万円超 3,000万円以下300万円
3,000万円超 5,000万円以下借金総額の1/10

最低弁済基準による最低弁済額の例

最低弁済基準による減額後の金額は次のようになります。

借金総額100万円:100万円

借金総額300万円:100万円

借金総額700万円:140万円

借金総額1,000万円:200万円

借金総額1,600万円:300万円

借金総額300万円を例にすると、表の【100万円以上500万円以下】に該当しますので、100万円が最低弁済額です。

財産がある場合、最低弁済額があがる可能性がある

個人再生手続きを行う債務者に財産がある場合や 〈給与所得者等再生〉 の場合は 〈清算価値保障基準〉・〈可処分所得基準〉が適用され最低弁済額があがる可能性があります。

〈清算価値保障基準〉における最低弁済額

最低弁済額は〈最低弁済基準〉で決められていますが、債務者が車や住宅等、財産を所有している場合は、最低弁済額に〈清算価値保障基準〉が適用される可能性があります。

高額財産を所有している場合は清算価値が高くなり、最低弁済額があがることや借金の減額の効果がなくなる可能性がありますので注意が必要です。

清算価値保障基準

〈清算価値〉とは、一定額以上の価値がある財産をすべて処分し現金化した場合の金額のことをいいます。

清算価値が民事再生法で定めた最低弁済額を上回った場合、清算価値が最低弁済額になります。

ただし、〈給与所得者等再生〉の場合は別の基準になる可能性があります。

◆清算価値として計上される財産の例(裁判所により異なる)

・99万円超の現金(100万円の場合は1万円)

・20万円超の預貯金

・見込額が20万円超の生命保険解約返戻金

・退職金見込額の1/8(退職が確定している場合は1/4)

・自動車(処分見込額が20万円を超えるものの全額)

・高価な家財道具(生活必需品を除く)

・不動産(評価額からローン残債務を控除した額がプラスになるとき)

個人再生では、自己破産のように一定額以上の価値がある財産が処分されることは基本的にありませんが、裁判所に提出する再生計画案で定める返済額は、債務者が自己破産の手続きを行ったと仮定した場合に債権者へ支払う金額より高くなければならないという決まりがあり、これを〈清算価値保障原則〉といいます。

清算価値保障基準での計算方法

住宅ローンに残債務がある場合は、住宅の清算価値がローンの残債務を上回っていれば、清算価値として差額が加算されることになります。

上記の場合、住宅の清算価値より借金が減額できないケースが生じます。

なお、所有財産の清算価値は、購入時期や市場価格等によって異なりますので、司法書士や弁護士等の専門家に確認することをお勧めします。

清算価値保障基準の適用例

借金総額400万で、預貯金50万円と清算価値90万円の車を持っているケースでは、最低弁済基準額と清算価値とを比べると次のとおりになります。

・清算価値:140万円(内訳:預貯金50万円、車90万円)

・最低弁済基準額:100万円(借金総額100万円以上500万円以下の基準)

このケースでは資産価値が最低弁済基準額を上回っていますので、債務者が支払う最低弁済額は清算価値保障基準に基づく140万円となります。

住宅等の清算価値が高い所有財産がある場合の例

住宅ローンの残債務が少なく住宅の清算価値がローン残債務を上回っている場合は、差額が財産として扱われることになります。

住宅ローンを除く借金総額700万円、住宅ローン残債務700万円で、住宅の清算価値1400万円、預貯金50万円を持っているケースでは、最低弁済基準額と清算価値とを比べると次のとおりになります。

・資産価値:750万円(内訳:預貯金50万円、住宅ローン残債務との差額700万円)

・最低弁済基準額:140万円(700万円の1/5)

上記のように最低弁済基準額は140万円ですが、債務者は清算価値分の750万円を支払う必要があり、借金を減らすことができません。

住宅ローンを完済した住宅がある場合、清算価値として住宅及びその敷地の価値がそのまま加算されることになりますので、上記と同様、借金減額効果がなくなることも見受けられます。

〈給与所得者等再生〉における最低弁済額

個人再生のうち〈給与所得者等再生〉の手続きを行う場合は〈可処分所得基準〉も加わりますので、〈最低弁済基準〉・〈清算価値保障基準〉・〈可処分所得基準〉のうち最も高額なものが最低弁済額になります。

可処分所得基準では年収から所得税・住民税・社会保険料・最低生活費を引いた可処分所得の2年分を支払う必要があります。

可処分所得基準での支払い額は最低弁済基準・清算価値保障基準のものより高額になることが多く、給与所得者等再生の場合、小規模個人再生よりも最低弁済額が高額になるケースも多く見られます。

給与所得者等再生の手続きは小規模個人再生の手続きで必要とされる債権者の過半数の同意が必要ない代わりに、最低弁済額が高額になりがちな手続きといえ注意が必要です。

可処分所得基準

〈可処分所得基準〉とは、可処分所得額の2年分以上の支払いを求める基準のことをいいます。

可処分所得とは、一般的にはいわゆる手取り収入のことをいいますが、個人再生では定義が若干異なり、手取り収入から債務者本人と扶養家族が最低限度の生活を維持するために必要な費用(最低生活費)を差し引いた金額のことをいい、求める計算式は次のとおりです。

・可処分所得額 = 収入 - (所得税 + 住民税 + 社会保険料 + 最低生活費)

最低生活費は、居住地域の自治体の生活保護基準に基づいて定められており、収入や年齢、家族構成等に応じて決まります。

計算は非常に複雑ですので、司法書士や弁護士などの専門家に相談して算出してもらうとよいでしょう。

可処分所得基準での計算方法

可処分所得基準での計算方法を見てみましょう。

◆可処分所得基準の適用例

借金総額700万円で、1年間の可処分所得:120万円、預貯金:120万円あるケースでは、最低弁済額基準、清算価値保障基準、可処分所得基準の金額を比較すると次のようになります。

・最低弁済額基準:140万円(700万円の1/5)

・清算価値保障基準:120万円(預貯金額)

・可処分所得基準:240万円(120万円×2)

上記の場合、可処分所得基準が清算価値保障基準・最低弁済基準の額を上回っていますので、債務者が支払う最低弁済額は可処分所得基準に基づく240万円になります。

◆可処分所得が高めの場合

借金総額700万円で、1年間の可処分所得:350万円、預貯金:120万ある場合では、最低弁済額基準、清算価値保障基準、可処分所得基準の金額を比較すると次のようになります。

・最低弁済額基準:140万円(700万円の1/5)

・清算価値保障基準:120万円(預貯金額)

・可処分所得基準:700万円(350万円×2)

上記の場合、債務者が支払う最低弁済額は可処分所得基準に基づいた700万円となり、借金減額効果がなくなってしまいます。

個人再生での支払期間

個人再生後は最低弁済額を再生計画に従って分割返済していくことになります。

返済期間は、再生計画認可決定確定日から原則3年ですが、特別の事情がある場合3年以上5年以内での返済を前提とする再生計画が認可されます。

原則3年の返済期間を延長できる特別な事情とは、債務者に安定した将来的な収入は見込めるものの、その収入から債務所の生活費や子供の教育費、家族の医療費等を差し引くと3年間では最低弁済額を支払うことが困難な場合等を指します。

「3年で支払うのは厳しそうだから5年だと助かる」という漠然とした要望だけでは延長は認められません。

延長を認めてもらうには、裁判所に事情を説明し納得してもらえるだけの具体的な理由が必要です。

比較的多い事例として、返済期間中に出産・育児・子供の進学といった予定があり支出が見込まれる場合などがあります。

再生計画どおりに最低弁済額を支払えなくなったときの対処法

個人再生の返済開始後に何らかの事情により返済ができなくなった場合、次のような対処法があります。

・支払期限延長を申し立てる
・ハードシップ免責お申し立てる
・自己破産に切り替える

支払期限延長を申し立てる

裁判所に〈再生計画変更申立書〉を提出し個人再生計画の変更を申し立てることにより、返済期間を最長5年まで延長することができます。

最低弁済額は変わりませんが、期間延長によって月々の返済額を減額することができます。

ただし、期間延長が認められるのは、収入の低下や本人・家族の長期入院というようなやむを得ない事情で再生計画どおりの返済が著しく困難になった場合のみです。

ギャンブルや買い物等、浪費が理由では再生計画の変更は認められません。

ハードシップ免責を申し立てる

裁判所にハードシップ免責を申し立て認められると、残りの返済を免除してもらえます。

ただし、ハードシップ免責が認められるには次に掲げる条件をすべて満たす必要があり、裁判所は相当厳しく認否を判断しますので、免責許可されるケースは少ないのが実情です。

・責任のない事態により返済ができなくなった

リストラにあった、病気や事故で入院した、個人事業主が天災等で設備を失った等、返済が困難になった理由が本人の責任で生じたものではない必要があります。

・最低弁済額の3/4以上を返済している

再生計画で決めた最低弁済額のうち3/4以上の返済が既に終わっている必要があります。

・ハードシップ免責の決定が債権者の一般の利益に反しない

ハードシップ免責をすることで債権者が損をしてはならないとされています。

具体的には、ハードシップ免責を申し立てた時点において、個人再生手続申立て時の清算価値より多い金額を支払っていることが条件です。

ハードシップ免責が認められると債務が免除されますが、住宅ローンの残債務がある場合は自宅を手放す必要があるというデメリットがあります。

ハードシップ免責を受けると住宅ローンの残債務も免除されますが抵当権の実行を防ぐことはできないためです。

また、ハードシップ免責を受けた場合、7年間は自己破産及び給与取得者等再生を行うことができません。

ハードシップ免責を検討している方は、こういったマイナス面も考慮する必要があります。

自己破産に切り替える

自己破産は、再生計画変更で返済期間を延長しても最低弁済額の支払いが困難であり、ハードシップ免責の条件を満たさない場合の手段となります。

自己破産することで残りの借金は免責されますが、ローンを完済している住宅・車を含め一定額以上の価値がある財産は手放さないとなりません。

また、手続き中は、職業・資格の制限がかかりますので一定の職業に就くことができません。

個人再生の最低弁済額や手続き費用を抑えたいなら専門家に相談

個人再生における最低弁済額が、どの基準になり、いくらになるかを自力で判断し計算することは難しいのではないでしょうか。

債務整理案件を数多く扱い解決してきた司法書士や弁護士等の専門家に相談することにより、最低弁済額を正しく計算してくれることはもちろん、最低弁済額を必要以上に高くしない方法等についてアドバイスを受けることができます。

また、個人再生は手続きが複雑なうえ、個人再生の裁判所費用は司法書士や弁護士に手続きを依頼していないと高くなってしまうことも見受けられます。

個人再生の場合、司法書士や弁護士に依頼したほうが、返済額、費用、手続きの手間を抑えられます。

個人再生を検討しているけれども費用面で不安を抱えている方は、先ずは司法書士や弁護士事務所の無料相談を利用することをお勧めします。