個人再生は、借金の悩みを抱える方にとって、大変有効な債務整理の方法の一つです。しかし、手続きの流れや条件など、分からないことも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、個人再生に関してよく寄せられる質問を一挙に紹介し、それぞれ詳しく解説します。個人再生の対象となる借金の種類、手続きにかかる期間や費用、そして個人再生後の信用情報への影響など、気になるポイントを分かりやすくお伝えします。
借金でお悩みの方はもちろん、個人再生について理解を深めたい方も、ぜひ参考にしてみてください。少しでも皆さまの不安や疑問が解消され、前向きな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
個人再生 よくある質問~基本的な事柄について
個人再生とは?
個人再生とは、借金返済にお困りの個人の方が利用できる民事再生手続きのことです。
裁判所に申し立てを行い、再生計画の認可決定を受けることで、借金を大幅に減額してもらえます。その減額された借金を、通常は3年かけて支払っていくことになります。
個人再生には、借金の返済額を元金の5分の1程度まで、最大で10分の1まで減額できるという大きなメリットがあります。また、自己破産とは異なり、財産を処分する必要がありません。さらに、住宅ローンを対象から外して手続きを進めることも可能です。
つまり、個人再生は、自己破産で生じるような大きなデメリットを回避しつつ、借金を大幅に減額してもらえる制度なのです。借金返済義務から解放されるという点が、個人再生の最大の魅力だと言えるでしょう。

個人再生ではどのくらい借金が減額になる?
個人再生では債権者の利益を保護するために、最低限支払わなければならない金額が定められています。これを最低弁済額と呼び、原則として3年36回分割で、返済することが求められるのです。
そして、個人再生における返済すべき金額は、債務者が作成した再生計画案が裁判所から認可決定を受けることにより決まります。
その基準は民事再生法で以下の3つが定められています。
- 最低弁済基準
- 最低弁済基準は、法令で定められた金額のことです。(民事再生法第231条第2項第3号、同第4号(e-gov法令検索より))
- 清算価値保障基準
- 清算価値保障基準は、保有資産を基準とする弁済額のことです。(民事再生法第174条第2項第4号(e-gov法令検索より))
- 可処分所得基準
- 可処分所得基準とは、再生申立人の所得を基準として返済額を決めるという基準です。(民事再生法第第240条第2項第7号(e-gov法令検索より))
この三つの基準の内、最も高いものを基準として利用し、最低返済額を決定することとなります。
例えば、借金総額400万で、預貯金50万円と価値90万円の車を持っているケースでは、①の最低弁済額は100万円。②の保有資産は合計140万円です。この場合、より高い②の140万円が最低弁済額となります。
なお、①の最低弁済額は、具体的には以下の表のとおりです。
借金総額 | 最低弁済額 |
100万円未満 | 減額されない |
100万円以上 500万円以下 | 100万円 |
500万円超 1,500万円以下 | 借金総額の1/5 |
1,500万円超 3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円超 5,000万円以下 | 借金総額の1/10 |

個人再生のメリット
個人再生には、次のようなメリットがあります。
- 借金を大幅に減らせる
- 個人再生では、借金の元金を大幅に減額できます。状況にもよりますが、再生計画案が認可されれば、債務は5分の1から10分の1程度まで圧縮されることが多いのです。この減額された債務を分割返済し、完済すると残りの債務は免除されます。
- マイホームや車、生命保険等の財産を残せる
- 自己破産では、自由財産以外の財産は処分して換価・配当する必要がありますが、個人再生では財産を保持したまま手続きが進められるケースもあります。
特に、住宅ローンについては住宅資金特別条項があり、一定の条件を満たせば、住宅を失うことなく他の借金を整理できます。また、自動車や生命保険等のその他の財産も、ローンの支払いが終わっていれば残せる場合があります。
- 自己破産では、自由財産以外の財産は処分して換価・配当する必要がありますが、個人再生では財産を保持したまま手続きが進められるケースもあります。
- 裁判所を通すので債権者が決定に従う必要がある
- 任意整理とは異なり、個人再生は裁判所を通す手続きなので法的強制力があります。再生計画案が認可されれば、債権者はそれに従わざるを得ません。債権者の意向に左右されにくい債務整理方法と言えるでしょう。
- 借金の理由を問わない
- 自己破産では、ギャンブルや浪費が原因の借金は免責されない可能性がありますが、個人再生にはそのような制限がありません。借金の理由が問題視されることはないのです。実際、日弁連の調査した2020年破産事件及び個人再生事件記録調査によると、個人再生では「浪費・遊興費(24.10%)」「ギャンブル(19.28%)」による借り入れが理由として借金を作ってしまったというケースが目立ちます。これは、自己破産の免責不許可事由を回避するために、個人再生を選んでいるという事情があると思われます。

個人再生の他の手続との違いは?
債務整理の方法には、任意整理、個人再生、自己破産などがあります。それぞれ手続きの内容や借金の減額幅、職業への影響などが異なります。
任意整理は、裁判所を通さず柔軟に進められる一方、借金減額の幅は小さい傾向にあります。個人再生は、借金を大幅に減額できる可能性がある反面、手続きが厳格で時間がかかります。自己破産は、借金を免除してもらえる代わりに、財産はすべて処分しなければならず、手続き中は職業に制限がかかります。
債務整理は、その人の状況に合わせて慎重に選ぶ必要があります。


個人再生と任意整理の違い
まず、個人再生と任意整理の主な違いは以下の4点です。
- 裁判所を利用するか
- 借金の元金が減額されるか
- 債務整理の対象を選べるか
- 家族や保証人への影響の有無
裁判所を利用するか
任意整理は、貸し手と直接交渉して、金利の再計算や借金の減額を取り決める方法です。裁判所を通さず、比較的柔軟に手続きを進められます。
一方、個人再生は裁判所を通じて行う厳格な手続きで、書類や資料の提出が必要となります。任意整理に比べ、手続きに時間がかかる傾向にあります。
借金の元金が減額されるか
任意整理では、将来の利息を削減することはできますが、借金の元金を減らすことは難しいとされています。
これに対し、個人再生では、一定の条件を満たせば、借金の元金を最大で10分の1まで減額できる可能性があります。借金の総額が大きく減る可能性が高いのが特徴です。

債務整理の対象を選べるか
個人再生では、住宅ローンを除いたすべての借金を対象としなければなりません。債権者平等の原則により、特定の借金だけを整理の対象から外すことはできません。
一方、任意整理では、債務整理の対象とする借金を選ぶことができます。住宅ローンや保証人付きの借金など、整理の対象から外したい借金がある場合に適しています。

家族や保証人への影響の有無
個人再生では、保証人が付いている借金や、家族からの借入も対象にしなければならず、手続きの影響は避けられません。また、手続きには家計収支表の提出が必須で、家族の協力が必要になる場合があります。
任意整理では、保証人のある借金を対象から外せるため、保証人への影響を避けられます。また、手続きに家族の協力は必須ではありません。

個人再生と自己破産の違い
次に、個人再生と自己破産の主な違いは以下の4点です。
- 減額される借金の大きさ
- 免責不許可事由の有無
- 財産を清算することの有無
- 職業制限の有無
減額される借金の大きさ
自己破産では、原則としてすべての借金が免除されます。(破産法第253条)つまり、返済額は0円になります。ただし、一定以上の価値がある財産は処分しなければなりません。(破産法第34条)
個人再生では、最低弁済額という、必ず返済しなければならない金額が定められています。借金を免除してもらえる割合は、自己破産に比べて低くなります。
免責不許可事由の有無
自己破産には、免責が許可されない場合があります。例えば、ギャンブルや浪費が原因の借金、裁判所への虚偽報告などです。(破産法第252条 免責許可の決定の要件等)
個人再生にはこのような免責不許可事由はありません。ただし、債権者の利益を大きく害する場合は、再生計画が認可されないことがあります。(民事再生法第174条第2項第4号)
財産を清算することの有無
自己破産では、一定以上の価値がある財産はすべて処分しなければなりません。生活に必要最低限のものだけが手元に残せます。破産法第34条)
個人再生では、財産を手元に残せます。ただし、財産の価値に応じて、最低弁済額が上がることがあります。

職業制限の有無
自己破産の手続き中は、警備員や銀行員など、一部の職業に就けなくなります。資格に制限がかかることもあります。ただ、これらの制限は手続き中だけで、手続き後には解消されます。
個人再生では、このような職業の制限はありません。

個人再生と他の手続の違いについてのより詳しい解説は以下の記事でも掲載されています。

個人再生 よくある質問~手続きについて
個人再生が出来る条件とは?
個人再生には「小規模個人再生」と「「給与所得者等再生」(参照:民事再生法第13章第1節「小規模個人再生」および同章第2節「給与所得者等再生」(引用:e-GOV法令検索))の2種類があるため、分けて解説します。
小規模個人再生の条件
小規模個人再生は主に自営業者や個人事業主向けの制度です。将来にわたって継続的な収入が見込めること、借金総額が5,000万円以下であることなどが利用条件となります。
小規模個人再生の開始要件
- 債務者が法人ではなく、個人であること。
- 債務者が将来において反復・継続した収入を得る見込みがあること。
- 借金の総額が住宅ローンを除いて5,000万円を超えていないこと。
小規模個人再生の再生計画認可要件
- 債権者の半数以上または債権総額の2分の1を超えた、再生計画案に不同意回答をした債権者がいないこと。
- 再生計画を実行できる見込みがあること。
- 計画弁済総額が最低弁済額を下回っていないこと。
小規模個人再生の特徴は、収入に関して比較的緩やかに認定される点。事業による収入が不安定でも、数ヶ月に1回程度の継続した収入があれば利用できる可能性があります。無職の人でも近く就職が決まっているなど、将来的に収入が見込める状況であれば、個人再生が認められることもあるのです。
しかし注意点もあります。債務者が作成した再生計画案について、債権者による書面決議が行われます。一定数以上の債権者が反対した場合、再生計画案は否決され、個人再生の申し立てが認められないリスクがあるのです。
給与所得者等再生の条件
一方、給与所得者等再生は会社員など安定した収入がある人を対象とした制度です。こちらも借金の総額が5,000万円以下であることが条件。加えて、定期的に給与を受け取っているか、その見込みがあること、収入の変動幅が小さいと予想されることが必要です。
給与所得者等再生では、最低弁済額の基準が小規模個人再生よりも厳格に定められているため、再生計画案の債権者同意は不要とされています。その代わり、過去7年以内に自己破産や個人再生の手続きを行っていないことが条件になっている点には注意が必要です。
個人再生では住宅を残せるってホント?
個人再生は、住宅ローンを除く借金を大幅に減額できる債務整理手続きの一つです。そして、個人再生には「住宅資金特別条項」という規定があり、一定の要件を満たせば、住宅を手放さずに住宅ローンの返済を続けながら、他の借金の整理ができるのです。
つまり、住宅資金特別条項を使えば、自宅を維持したまま債務整理が可能になります。ただし、この条項の利用には以下のような要件があります。
- 住宅ローンとしての借り入れ(住宅資金貸付債権)であること(民事再生法第196条)
- 再生申立人が所有する住宅であること(民事再生法第196条)
- 申立人が実際に住んでいる建物であること(民事再生法第196条)
- 住宅ローン以外の借金の担保になっていないこと(民事再生法第198条)
- 保証会社の代位弁済から6ヶ月以内に申立てをすること(民事再生法・第198条2項)
つまり、投資用物件ではなく、自分が所有し居住している住宅の住宅ローンであり、他の借金の担保になっていない場合に、住宅資金特別条項の利用が認められるのです。
もし、あなたが住宅ローンを抱えていて、他の借金の返済に窮しているのであれば、個人再生と住宅資金特別条項の利用を検討してみる価値は十分にあるでしょう。

個人再生では財産を残せる?
個人再生において財産を残せるかどうかは、財産にローン残債があるかどうかによって異なります。ローン残債のある財産・資産は、基本的にローン会社によって競売や引き揚げの対象となります。例えば、ローン残債のある車は引き揚げられるのが一般的です。
一方、ローンを完済済みの財産・資産については、個人再生では強制的な売却はありません。つまり、所有し続けることが可能です。
ただし、車などを所有し続ける場合は維持費等の支出が必要となり、債務返済に影響する可能性もあります。
また、個人再生でも清算価値保障原則に注意が必要です。この原則によると、自己破産した場合に支払われるべき財産・資産の価値分は弁済しなければなりません。したがって、高額な財産を手元に残すと、この原則により返済最低額が上がる可能性があります。その結果、借金の減額幅が狭まり、手続きの効果が限定的になるリスクがあるのです。
このように、ローン完済済みの財産は所有し続けられる一方で、高額な財産を残すと返済額が上がるリスクもあります。
小規模個人再生の債権者による書面決議はどのようなときに否決される?
債権者の議決が否決される条件は以下の2つです。(民事再生法第230条)
- 反対した債権者の人数が総債権者の半数以上の場合
- 反対した債権者の債権額合計が総債務の半分を超える場合
つまり、債権者の過半数が反対するか、債権額ベースで反対が多数を占めると、再生計画案は否決されます。
ご提示の3つの事例で見ていきましょう。
ケース1: 債権者5社中3社が反対。債権額は過半数に及ばないが、反対者が過半数のため否決。
ケース2: 反対は1社のみだが、その1社の債権額が約60%を占めるため否決。
ケース3: 反対は2社で過半数に達せず、反対債権額も約30%にとどまるので可決。
このように、再生計画の可否は、反対債権者の数と債権額の両面から判断されます。債権者の理解と協力を得ることが、再生計画の成立に不可欠だといえるでしょう。
なお、2020年の日弁連による調査では、小規模個人再生事件の93.9%で債権者の不同意はゼロでした。2005年以降、不同意なしの割合は常に9割を超えています。言い換えれば、決議で個人再生が失敗する可能性は、10%以下と言うことです。
ただし、債権者の半数以上が反対した場合や、反対債権額が全体の半分を超えた場合は再生計画が否決されます。2020年は、債権者の半数以上が反対したケースは0件でしたが、債権額ベースでは11件(1.9%)で否決されています。
つまり、債権者の反対多数で個人再生が認められないリスクは低いものの、大口債権者が強硬に反対した場合などは、再生計画の成立が危ぶまれるかもしれません。