手順
前文 借金問題に苦しむ人々が選ぶ最後の手段として、債務整理が挙げられます。
債務整理では借金問題を抱えた人が、法的手続きを踏むことで負債を整理することができます。
債務整理には主に利用される3つの手続きがあり、それぞれ、手順が異なっています。
この記事では、債務整理の手順について、手続きごとに詳細に解説していきます。
任意整理の手順
・任意整理とは
債務整理の手続きの一つである任意整理は、借金問題に苦しむ人々が借金完済を目指すための手段の一つです。
任意整理は、弁護士や司法書士が代理人として、
消費者金融やクレジットカード会社などの債権者と交渉し、
金利の再設定や返済額の減額を行い、返済条件を有利に変更する手続きです。
例えば、消費者金融から借りた100万円の借金がある場合、金利が年15%、最低返済額が1.3万円だったとしましょう。
この時、1.3万円の返済をしたとして、およそ1万円近くが利息に当てられており、毎月の支払いの大半が利息に取られてしまうことがあります。
任意整理を実行することで、この高額な利息を削減し、支払いが元金に充てられるようになります。
これにより、毎月の支払い額が減少し、借金の返済が容易になるでしょう。
このように、任意整理は、借金問題を解決するための手段の一つであり、
完済に向けた道筋をつけることができる点で意義があります。
・任意整理のメリット、デメリット
利息や返済額が減る
任意整理の最も大きなメリットは、利息の削減によって借金の総支払額や毎月の返済額が軽減されることです。
さきほど挙げた事例で言いますと、
借金完済には元金の100万円に加えて、毎月の利息1万円近いを支払わなければなりません。
毎月の返済額が1.3万円だとすると、完済までに利息が100万円以上かかります。
ここに、元金の100万円を加えると、
借金の完済までに、計200万円以上を支払わなければならなくなります。
ここで任意整理をするとどうなるのでしょう?
任意整理をすると、この利息部分100万円については、支払いを免除されます。
さらに、支払額が毎月1.2万円と最低支払額より下がる可能性もあります。
このように、任意整理では、利息を削減することで、総支払額や毎月の返済額を減らすことが出来るのです。
手続が柔軟
また、任意整理には手続きが柔軟であるという魅力もあります。
第一に、自己破産や個人再生を行う場合は、債権者全てを対象としなければなりません。
家族や兄弟、知人や会社からお金を借りている場合、自己破産や個人再生を行うと、家族も債権者に加えなければならないのです。
一方で、任意整理の場合は手続きする業者を自由に選ぶことができます。
家族や勤務先から借金をしている場合でも、この借金を対象とせずに進められます。
結果として、家族や勤務先に迷惑をかけるリスクが少なくなるのです。
第二に、自己破産の手続きを取る場合は、手続き期間中に関しては、一定の職業に就業することのできない職業制限や資格制限が存在します。
これに対して任意整理には、このような制限がないことから、仕事には影響を与えません。
任意整理のデメリットは?
しかし、一方で任意整理にはデメリットやリスクも存在します。
まず、債務整理を行うと信用情報に影響が出て、一定期間、新たな借り入れができなくなります。いわゆるブラックリストに載るということがデメリットとして挙げられます。
また、既存の消費貸借契約やクレジットカードの契約が解約される可能性がありますし、保証人や連帯保証人がいる場合は彼らに対して請求が行われる可能性があります。
借金問題を解決するためには、自身の状況に応じて慎重に選択する必要があります。
・任意整理の手順
①まず、任意整理に関する弁護士や司法書士と言った専門家に相談、委任契約を結びます。この際、身分証明書や収入証明書などの必要書類を提出し、契約を締結します。
②契約が成立すると、弁護士や司法書士は代理人として、債権者に対して受任通知を送付し、債務者への督促を停止させます。
③その後、債権調査が行われます。この際に、過払金の有無や時効の有無などを確認します。
④返済するべき債務が残存していることを確認したら、債権者との交渉を進めます。
この交渉では、利息を全額免除することや、返済期間を長くすることで、1回の返済額を抑えるように求めることが多いです。
⑤債権者と代理人が返済条件に合意したら、和解書を交わします。
これにより、任意整理の内容が確定します。
⑥最後に、和解内容に基づいて返済を再開します。
計画通りに返済を行い、完済を目指します。
個人再生の手順
・個人再生とは
債務整理の手続きの一つである個人再生は、
裁判所を通じて、借金の一部を返済する計画を作成、認可を受け、
返済を完了することで、残部の借金については返済を免除してもらうことのできる手続きです。
個人再生の特徴的なポイントの一つに、自宅を保持しつつ進められるということが挙げられます。すなわち、『住宅資金貸付債権に関する特則』として知られる『住宅資金特別条項』がある場合は、この条項により、自宅やマイホームを手放さずに、住宅ローン以外の借金を減額や分割払いとすることが可能となるのです。
個人再生のメリット、デメリット
個人再生のメリットとしては、利息だけでなく、借金の総額も軽減されるという点が挙げられます。
具体的には、個人再生を利用した場合、多くのケースで元金の5分の1に減額されます。
また、最大の金額で借金の10分の1まで減らせることから、大幅な債務の圧縮が可能です。
また、自己破産のように財産を清算する必要がないことから、手元にある貴重品や車などは、ローンが残っているものを除いて、残すことが出来るという点もメリットと言えます。
さらに、自己破産では職業などに制約が出る場合がありますが、個人再生にはこのような制約はありません。
一方で、個人再生は複雑な手続きであり、誤解やリスクも存在します。
例えば、全ての債権者を平等に扱わなければならないことから、家族や知人から借金をしている場合は、債権者から外すことが出来ません。そのため、個人再生をしていることは家族に知られてしまいます。
また、信用情報への影響などが挙げられます。
さらに、ローンが残っていない財産は残せる一方で、ローンが残っている財産については、保有し続けることが出来ない場合があります。
加えて、財産が多すぎる場合は、「清算価値保証原則」に従い、借金の減額幅を小さくすることで、債権者を保護しようとしています。
これにより、財産が多くある場合は、思ったように債務額を圧縮できない可能性があります。
・個人再生の手順
(1)個人再生申立まで
①まず、弁護士や司法書士に相談し、委任契約を締結します。
②その後、債権者に対して受任通知が送られ、債務者の債権調査や過払い金計算などが行われます。債権調査が終了し、個人再生申立書類の準備をします。具体的には、家計の収支や保有する財産や資産の調査と、それを証明する資料の作成が必要となります。
その後、住所地を管轄する地方裁判所に個人再生を申立てます。
(2)個人再生手続開始後
再生計画案の認可までにもステップがあります。
①再生手続きの開始
申立の受理後、裁判所によっては、個人再生委員の選出や履行テストを行う場合があります。
個人再生委員は、再生計画案を作成について、申立人をサポートする役割の人です。
また、返済再開後に支払いが出来るかのテストや、個人再生委員との面談を実施する場合もあります。
これらの手続きを経て、正式に個人再生の手続きが開始されます。
なお、個人再生委員の選任や履行テストの実施の有無は、裁判所によって運用が異なります。
②再生計画案の提出
個人再生の手続きが開始されると、裁判所から各金融業者に対して、個人再生の開始決定通知書を送られ、債権がある場合は申し出るように言われます。
これにより、債権額を確定し、埼栄計画案を作成します。
③債権者の議決
小規模個人再生の場合、各債権者による、再生計画案に対する書面決議が必要となります。
簡単に言うと、「この再生計画案を認めますよ」という書面決議を行うのです。
④再生計画案の認可
債権者の議決が可決されることにより、裁判所に対して可決された再生計画案を提出し、裁判所が再生計画案の認可または不認可を決定します。
⑤再生計画が認可された後、
債務者は再生計画に基づいて各債権者に対して返済を開始します。
返済期間は通常3年です。
自己破産の手順
・自己破産とは
最後にご紹介するのは、自己破産です。
債務整理の一つである自己破産は、
手持ちの財産や資産を処分、清算しても借金を完済できない状態であることを
裁判所に認めてもらい、借金の返済を免除する手続きです。
自己破産のメリット、デメリット
メリットは減額幅の大きさ
自己破産手続きは、借金額の大きさや支払い能力を考慮しない点が個人再生や任意整理と異なる最大のメリットです。
つまり、返済能力の有無や、借金額の大きさに関わらず、
裁判所の免責許可さえ得られれば、借金を返済せずに済み、
借金の負担から解放されることとなるのです。
そのため、借金の金額が支払い能力を大きく超えている場合や、返済に多くの収入が充てている場合に特に有益です。
また、弁護士や司法書士に依頼すると、債権者からの督促が停止されるため、生活再建のきっかけになることもあります。
減額幅が大きい分、デメリットも大きい
しかし、大きなメリットがある反面、他の手続とは異なるデメリットもあります。
まず、自己破産手続きは複雑であることが挙げられます。
自己破産手続きでは、手続きが煩雑で返済不能を裁判所に認めるために多くの書類や資料が必要です。
次に、所有する財産の処分が必要もデメリットとして挙げられます。
もっとも、すべての財産を売却しなくてはいけないわけではありません。
一定程度の価値のある財産が清算、売却の対象となります。
裁判所によって異なるが、一般的に20万円以上の価値のあるものと言われています。
さらに、借金を作った理由や、お金の借り方、使い方などを調査されるというのも、自己破産の特徴です。
- 例えば
- 「詐欺をしてお金をだまし取った」
- 「自己破産をするつもりで無茶苦茶な借り入れをした」
- 「ギャンブルや投資に使った」
という理由がある場合は、破産を認められません。
上記のような、
「借金の支払いを免除するべきではない」
という理由がある場合には、破産は認められないということで、
これを免責不許可事由と言います。
ちなみに、自己破産以外の手続には、免責不許可事由はありません。
ですので、自己破産特有のデメリットと言っていいでしょう。
加えて、
- 手続き期間中の職業制限
- 居住制限
- 管財事件における郵便物の閲覧
なども制限される場合があります。これも、自己破産特有のデメリットです。
・自己破産の手順
(1)自己破産の申し立てまで
まず、弁護士や司法書士に相談し、条件が合えば依頼します。
次に、弁護士や司法書士が債権者に受任通知を送り、取引履歴などを開示させます。
そして、取引履歴などを開示させたうえで、自己破産の申立に必要な書類を準備し、裁判所に申し立てを行います。
(2)同時廃止事件の場合
同時廃止事件とは、債権者に分配するほどの財産が場合に選ばれる手続きです。破産手続きが開始されたと同時に終了するため、同時廃止事件と言われています。
同時廃止事件と管財事件のどちらが適切かを判断するため、裁判官との面接を行い、その後に、破産開始決定を出します。
同時廃止の場合は破産開始決定と同時に手続きが終了し、その後、裁判官が再度、免責審尋という免責前の面接を行い、免責許可決定を出します。
なお、同時廃止事件の場合は、裁判官面接と免責審尋が同日に行われることもあります。その場合、手続きの期間はさらに短縮されます。
(3)管財事件の場合
「管財事件」は売却、清算するべき財産がある場合や、借金の仕方に問題がある場合などに選ばれる手続きです。
この手続きでは、まず、破産管財人を選び、管財人に財産の査定や売却などの清算処分や、破産者の免責不許可事由の有無を調査させます。
破産管財人が調査を終わらせたら、次に債権者に調査の結果を報告する債権者集会が行われます。その後に、裁判所が免責の可否を判断します。なお、管財人には裁判所に納めた予納金から報酬が支払われます。この予納金の額は、負債額や裁判所によって異なりますが、30~50万円程度になります。