債務整理を行うと、借金の返済がしやすくなったり、一部の借金が免除されるなど、借金問題の解決に大きく近づくことができます。
しかし、その一方で、債務整理は信用情報に影響を与えるため、手続きが終わった後もしばらくは新たな借り入れが難しくなります。特に自己破産を選んだ場合、さらにいくつかの制限が生じます。
ただし、債務整理による新規の借り入れに関する制限は、期間が定められています。自己破産の影響も、手続きが進むにつれて徐々に解除されていきます。
この記事では
- 債務整理がもたらす影響について
- 債務整理による「ブラックリスト」の登録期間
- 債務整理による制限が続く期間
について詳しく解説します。借金の悩みを抱えている方や、債務整理を検討している方にとって、参考になる情報を提供したいと思います。
債務整理をすると、どんな影響が出る?
債務整理をすると必ず出てしまうのが信用情報への影響
債務整理をすると必ず出てしまい、避けて通れないのが信用情報への影響です。
例えば、債務整理を行うと、以下のような制限が生じます。
- 車のローンや住宅ローンが組めない
- 新たなクレジットカードの契約ができない
- 新規のキャッシングができない
- スマートフォンの分割払いができない
- 銀行等の金融機関からの借入の保証人になれない
- 現在契約しているクレジットカード等が解約になる場合がある
また、クレジットカード決済を必須としている商品やサービスも、クレジットカードが使えない以上、事実上使えなくなってしまいます。
例えば、一部の賃貸物件等では、クレジットカード決済を必須にしている場合があります。(参照:Lifull HOME’S「ブラックリストは賃貸借契約に影響する? 入居審査に通りやすい物件選びのポイント」)他にも、一部の格安スマホブランド(例:mineoやJcomモバイルなど)では、クレジットカード決済が必要なケースがあるなどの理由から、これらの商品の契約は難しくなるでしょう。
このような影響が出るのは、信用情報に異動情報が載るから
このような制約が出るのは、債務整理をしたという記録が異動情報として信用情報に載ることで、審査の際に信用情報を参照する必要のある契約(貸金契約やクレジットカードの契約等)が結べなくなるためです。
信用情報は、金融機関が顧客の「信用性」を評価するための重要な資料となります。登録される情報には、個人情報(名前や生年月日など)、契約申し込みの履歴、契約したローンやキャッシングの内容、毎月の支払状況などが記録されます。
そして、信用情報には「異動情報」という項目があります。これは、債務整理の手続きの他にも、支払いの延滞や遅延や強制解約などに、この異動情報に該当します。いわゆる事故情報が載るのです。
これらは、審査にマイナスの影響を及ぼす情報で、この事故情報があるために、審査に通りづらくなる状態を俗に「ブラック」「ブラックリスト」と呼ばれているのです。
なお、しばしば、債務整理をすると「ブラックになる」「ブラックリストに載る」と言われることがありますが、実際には、ブラック債務者のリストがあるわけではありません。
ブラックリスト入りやその影響については、当サイトの記事「信用情報のブラックリストとは?登録情報や影響を解説します」で詳しく解説しています。合わせてご参照ください。
債務整理の影響は?
任意整理や個人再生の場合は信用情報への影響が中心
次に、債務整理自体が及ぼす影響について解説します。とはいえ、これにはあまり多くの項目はありません。といいますのも、債務整理によって受けるマイナスの多くは信用情報に関するものであり、それ以外のマイナスはあまり大きくありません。
ですが、信用情報以外には影響が全くないかと言われるとそうではありません。
なお、債務整理のデメリットについては当サイトの記事「債務整理はデメリットがやばい?債務整理のデメリットと影響を解説!」で詳しく解説をしていますので、ここでは概要を述べるにとどまりますことご了承ください。
債務整理の対象となった借金に担保が付いていた場合
まず、債務整理の影響として、債務整理の対象となった借金に担保が付いている場合や、所有権留保が付いている場合に、財産等を引き上げられるリスクがあるということが挙げられます。
担保とは、債務者が債務の履行をしなかった際に、債権者の損害を補うために設けられたものことです。
典型的なのが、保証人です。(参照:民法第446条 e-GOV法令検索)また、土地を債務者や設定者の手元に残しつつ担保にする抵当権(参照:民法第2編第10章e-GOV法令検索)や、物品を担保に入れる質権なども担保の一環です。(参照:民法第2編第9章e-GOV法令検索)さらに、所定の物品を分割払いで販売(割賦販売)する場合に、売主が買主に物品を引き渡した後も、支払い代金が残っている間は、その所有権は売主に残ることを契約によって定めることも担保となり得ます。(所有権留保)
このような担保が付いた借金に関しては、債務整理をすると担保権を実行されることとなります。保証人がある借金の場合は保証人へ請求が行きますし、土地や建物を担保としている場合は、それらの不動産が競売の対象となります。また、所有権留保の場合も物品を売主に変換しなければなりません。
簡単に言うと、ローンを組んだ物品を債務整理すると、その物品を手放さなければならないリスクがあるのです。たとえば、債務整理を行うとローンの残った自動車は返さないとなりませんし、住宅ローンが残った住宅の債務整理をすると、住宅を売却されることがあるということです。
自己破産をすると、特別の制限を受ける可能性も……
他にも、自己破産をする場合には、任意整理や個人再生とは異なる別の制約を受ける場合があります。
まず、手元に財産が残せない可能性があるというのは、自己破産手続きを行う際の大きな特徴の一つです。
価値のある財産を保持できなくなることとなります。自己破産は、自分の収入だけでは借金を返すことができず、持っている資産を売っても債務を完済できない場合に利用される制度です。
そのため、自己破産では、ある一定額以上の財産や資産、通常は20万円前後を清算しなければならず、価値のある財産を清算せずに残すことは許可されないのです。
ただし、破産法第34条には、自己破産をしても残せる自由財産が定められており、これらは破産をしても残すことが出来ます。
また、自己破産には各職業や業務に必要な資格を定めた法律に「破産手続き中は資格を停止する」「業務を行うことが出来ない」などの形の欠格事由が規定されていることがあります。これにより、手続き中には、一時的に職業に制限がかかることがあります。
さらに、管財事件が選ばれると、居住制限や通信の秘密の制限といった特別な制約が課されます。
居住制限は、居住地を離れる際に裁判所の許可が必要になることを指し、例えば自由に旅行や出張に行けなくなります。通信の秘密の制限とは、破産者宛の郵便物が破産管財人に転送され、その内容が開封されて見られることを意味します。
この通信の秘密は憲法で認められた重要な権利ですが、破産手続き中にはこの権利が制限されるのです。
まとめると、自己破産をすると、他の債務整理とは異なる制約を受ける場合があり、その制約は非常に強力なものが含まれるということです。
債務整理による影響はいつまで続く?
ここまでの話を簡単にまとめます。
債務整理をすると、信用情報への影響が避けられません。具体的には、ローンやクレジットカードの利用、スマホの分割払いなどに制限が生じます。これは、債務整理の記録が信用情報の異動情報として登録されるためです。
また、債務整理の対象となった借金に担保が付いている場合、その担保物件を手放さなければならないリスクがあります。
特に自己破産の場合は、一定額以上の財産を清算しなければならず、職業上の資格停止や居住制限、通信の秘密の制限など、他の債務整理とは異なる強力な制約を受ける可能性があります。
では、この影響はいつまで続くのでしょうか?一度ブラックリストに登録されてしまったら、一生、ブラックのままなのでしょうか?そんなことはありません。一定の期間が経過すれば、信用情報から事故情報は消えるのです。
また、債務整理の影響に関しては基本的には手続き中に限られます。
ここからは、事故情報や債務整理の影響がいつまで続くかについて解説をしていきます。
事故情報の期間は手続き内容や信用情報機関によって異なる
さきほど、ブラックリストに登録されてしまっても、一定の期間が経過すれば、信用情報から事故情報は消えると言いました。
そして、その期間は
- 「どの信用情報機関で情報が管理されているか」
- 「どの債務整理手続きを取ったか」
によって変わります。
ポイント1.どの信用情報機関で情報を管理しているか
まず、どの信用情報機関で情報を管理しているかについてです。
貸金業者やクレジットカード会社は、それぞれの活動の根拠となる法令(例:割賦販売法第38条、貸金業法第13条など)に基づき、顧客と契約を結ぶ時に、返済能力等を調査しなければなりません。この際に利用されるのが、信用情報です。そして、この契約内容については、記録を作成して信用情報機関に登録をすることが義務付けられています。(例:割賦販売法第35条の3の3、貸金業法第13条第4項等)
これらの情報を管理するのが、信用情報機関です。
日本には、主に以下の3つの信用情報機関があります。
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
これらの機関は、それぞれ加盟している金融機関が異なり、保有している情報も多少異なります。
信用情報機関 | 特徴 | 主な加盟金融機関 |
---|---|---|
JICC(株式会社日本信用情報機構) | クレジットカード会社等を中心に、幅広い金融機関が加盟。個人向け融資の審査に利用されることが多い。 | クレジットカード会社、消費者金融など |
CIC(株式会社シー・アイ・シー) | 消費者金融等を中心に、幅広い金融機関が加盟。個人向け融資の審査に利用されることが多い。 | カード会社、消費者金融など |
KSG(全国銀行個人信用情報センター) | 銀行系金融機関の加盟が多い。 | 銀行、信用金庫など |
この3つの信用情報機関によって、異動情報の取扱や登録期間が異なります。言い換えると、事故情報が消えるまでの期間が決まる理由となりうるのです。
なお、どの情報機関にあなたの情報が登録されているかは、あなたが取引している金融機関によって異なりますが、一般的に、クレジットカード会社や消費者金融を利用している場合はJICCやCIC、銀行を利用している場合はKSCに情報が登録されていると言えます。
ポイント2.どの債務整理手続きを取ったか
2つ目のポイントは、どの債務整理を取ったかによって登録期間が変わるというものです。
債務整理には、
- 「任意整理」
- 「自己破産」
- 「個人再生」
という3つの手続きがあります。そして、どの手続きを取るかによって、登録期間が異なります。
信用情報機関名 | CIC | JICC | KSC |
任意整理 | 登録されない※1 | 5年※2 | 登録されない※3 |
個人再生 | 登録されない※1 | 5年 | 7年※4 |
自己破産 | 登録されない※1 | 5年 | 7年※4 |
※2 JICCでは、任意整理の情報は2019年(令和元年)9月30日以前の契約分については、登録から5年間登録されます。2019年(令和元年)10月1日以降の契約分については、契約終了から5年登録され、完済から5年経たない限り任意整理の情報は消えません。
※3 KSCでは、債務整理の事実自体は登録事項とされていません。(KSC「情報の登録期間」を参照)ただし、滞納した債務が保証会社等により代位弁済がされた場合や長期の延滞が生じた場合には、それらの事実は事故情報として登録されます。
※4 KSCでは、官報情報を登録情報としており、官報に公告された破産・民事再生開始決定等の情報が7年間登録されます。なお、以前は登録期間は10年でしたが、現在では7年間に短縮されています。
任意整理の場合は5年、法的整理は7年が目安
上記の表を見ていただくと、CICやKSCでは、信用情報に異動情報等が登録されないケースもあるように見えます。
ただし、これにはからくりがあります。あくまで、債務整理の記録は残らないだけであり、支払いの延滞や保証会社等の代位弁済、強制解約等の記録は残るのです。
信用情報機関名 | CIC | JICC | KSC |
入金期限から3カ月以上延滞 | 延滞解消から5年 | 延滞解消から5年 | 延滞解消から5年 |
代位弁済 | 5年 | 5年 | 5年 |
強制解約 | 5年 | 5年 | 5年 |
つまり、債務整理を依頼したこと自体は記録には残りません。しかし、債務整理を開始したことで契約通りの返済が出来なかった期間がある場合や、滞納した債務が保証会社等により代位弁済がされた場合、または裁判所が破産を宣告した場合には、それらの情報は完済後5年間「異動情報」として登録されます。
そして、債務整理をした場合は、最短でも数か月程度の延滞期間や、保証会社等による代位弁済が生じるのが通常であるため、実質的には手続き終了から5年間は「異動情報」は残ることとなるのです。
つまり、債務整理をすること自体は問題がないが、その他の理由でブラックリスト入りとなり、完済から5年間は新たな借り入れ等は難しくなるということです。
債務整理の期間に関しては、当サイトの「債務整理は何年かかる?債務整理の手続き別に解説します」をご参照ください。
また、自己破産や個人再生と言った法的整理を行う場合は、官報に掲載をされるのは避けられません。
具体的には、民事再生法第10条では「民事再生法の規定による公告は、官報に掲載してする。」と定められており、民事再生法第35条では、「裁判所は再生手続開始の決定をしたとき、直ちに、次に掲げる事項を公告しなければならない」と定められています。破産法も同様に、「破産手続開始後」と「破産手続廃止及び免責許可決定後」の際に官報に掲載されます。(破産法第32条,同法第217条第4項)
つまり、KSCに最大で7年間、事故情報が登録される可能性があるのです。
これらのことから、「任意整理の場合は5年間、法的整理の場合7年間はブラックリスト入りしている可能性がある」と言えるでしょう。
債務整理の影響は手続き期間中に終わるものが多い
次に、債務整理による影響です。
これは、多くのものが債務整理の手続き期間中のみで終わることが多いと言えます。
「債務整理の対象となった借金に担保が付いていた場合」で説明をしたものに関しては、債務整理の手続き内で財産を処分したりすることで、借金の金額を確定することが手続きに含まれるため、債務整理後には影響は残りません。ただし、保証人が分割返済をする場合には、影響は残ると言えます。
また、「自己破産特有の制限」に関しても、影響が生じるのは破産開始決定~免責許可決定までの間であり、手続き終了後には制限されることはありません。
職業制限を例に出すと、警備員は職業制限のかかる職種ですので、破産手続き中は警備員になれません。しかし、手続きが完了すれば再び警備員になることが可能です。
つまり、債務整理の影響は、手続きの期間中には制限がかかるが、手続きが終わってしまえば、その後に影響は残らないことが多いと言えるでしょう。
法的整理後7年間は再度の法的整理が法律で禁じられている
ただし、「法的整理後7年間は再度の法的整理が法律で禁じられている」という点には注意が必要です。
自己破産の手続を定める法律である破産法の第252条には免責不許可事由が定められていますが、同法第252条第1項第10号では、「前回の手続から7年以内に免責許可の申立てがあったこと」が免責不許可事由として定められています。これに該当する場合、自己破産による免責許可を受けることが出来ません。
手続きの種類 | 起算点 |
自己破産による免責許可の決定 | 免責許可決定の確定の日 |
給与所得者等再生(民事再生法第239条) | 再生計画認可の決定の確定の日 |
再生計画遂行が極めて困難となった場合の免責(民事再生法第235条) (いわゆるハードシップ免責) | 再生計画認可の決定の確定の日 |
また、民事再生法第第239条第5項第2号でも上記と同様の制限があり、給与所得者等再生を利用することが出来ません。
ただし、個人再生の手続には「給与所得者等再生」のほかに「小規模個人再生」という手続きがあり、小規模個人再生の場合は上記のような制限はありません。従って、「小規模個人再生」の後であれば、2回目の破産や個人再生を行うことが出来ますし、破産や給与所得者等個人再生の後に、「小規模個人再生」を利用することもできます。
なお、2回目の債務整理については、当サイトで「2回目の債務整理はできるの?注意点と失敗しないためのポイントを解説!」という記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
最後に
最後に、これは対策の一つではありませんが、信用情報の早期の回復を諦めることも時には重要です。確かに、債務整理の影響で不便さを感じることはあります。
債務整理を経て、信用情報が悪化すると新たな借入れが難しくなることで、借入れができない状況は、多くの人がこれをデメリットと感じるかもしれません。必ずしも悪いことばかりではありません。
借金が増えないという点でプラスに働く面もあるのです。
信用情報に関する心配をする債務者は、「債務整理をすると借り入れができなくなる」と考えることが多いです。これは、借入れに依存する考え方であり、必ずしも良いとは言えません。このように考えていると、「せっかく借金と縁を切ったのに、再度借り入れをしてしまった」という結果になりかねません。
債務整理の本当のゴールは不必要な借金との縁を切り、貯金を作る方法や収入の範囲内で生活する方法など、お金との適切な付き合いを学び、実践することにあります。
信用情報に影響があり、借り入れが出来ない期間は、学習の時間としてポジティブ捉えることが大切です。