自己破産をすると借金の支払義務が免除されます。
これを「免責」といいます。
自己破産の手続には大きく分けて「同時廃止事件」と「管財事件」があります。
「管財事件」の場合には、「債権者集会」というものが開催されます。
今回は、「債権者集会」がどういったものなのか、免責決定までの流れを解説します。
自己破産とは?
自己破産とは、裁判所に申立てをし、借金返済ができない状況を認めてもらうことで、借金の返済が免除されます。
裁判所に認めてもらうためには借金をすることになった経緯や、支払いができない現在の生活状況をしっかりと説明する必要があります。
原則として、財産(家・車等)が処分されることになりますが、返済が免除されますので、生活の立て直しができます。
自己破産手続の種類
自己破産には大きくわけて「同時廃止事件」と「管財事件」があります。
手続きによってかかる期間や費用が大きく違います。どちらの手続きになるかは、裁判所の判断となります。
ここでは、同時廃止事件と管財事件の概略についてご紹介します。なお、管財事件について詳細に解説した記事がありますので、そちらも併せてご参照ください。
同時廃止事件
自己破産手続は、原則的に債務者の財産を調査し、財産があれば換価(売却)して、債権者に公平に配当する必要があります。
債務者に財産が全くなく、清算手続をしても債権者に配当すべきお金が出てこない場合も少なくありません。
そこで、「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」と規定されています。(破産法216条1項 e-GOV法令検索より)
破産手続の廃止とは、破産手続を終了させることです。
破産手続の開始と同時に債権者への配当という目的を果たすことができないため、破産手続を廃止(終了)させることから、「同時廃止」といいます。
管財事件
「管財事件」では、裁判所が選任した破産管財人が債務者の財産を調査し、管理・処分を行い、債権者への配当や免責許可の可否を調査(免責調査)します。
破産法第31条では、自己破産申立ての原則的対応として、「裁判所は、破産手続開始決定と同時に、一人又は数人の破産管財人を選任しなければならない」と定められています。
破産管財人は通常、弁護士の中から選任され、管財人報酬を含む破産手続き費用を裁判所に納付する必要があります。
そのため、「管財事件」は「同時廃止事件」よりも裁判所への納付費用が高額になります。
「同時廃止事件」の費用が約2万円前後であるのに対し、「管財事件」では別途約20万円(裁判所により異なる)の管財費用がかかります。
また、手続き完了までにかなりの時間を要します。
「同時廃止事件」の手続き期間が2~4か月程度であるのに対し、「管財事件」では6か月~1年程度が一般的です。
さらに、「管財事件」になると以下のような、「同時廃止事件」にはないデメリットがあります。
- 管財人による債務者の財産調査・処分
- 管財人などからの説明要求に応じる義務
- 郵便物が管財人に届く
- 引っ越しや旅行の際に裁判所の許可が必要
債権者集会とは
「管財事件」となった自己破産手続きでは、「債権者集会」が開かれます。
「債権者集会」とは一体どのようなものなのでしょうか。
まずは、「管財事件」の流れを見ていきましょう。
自己破産の申し立て~債権者集会までの流れ
自己破産の申立後、「管財事件」に決定すると破産管財人が選任されます。
そして、破産管財人が債務者の財産を調査し、処分する手続きが行われます。
破産管財人による財産調査が完了すると、その調査結果や破産者の財産状況を報告するために「債権者集会」が開催されるのです。
債権者集会とは、自己破産手続きが「管財事件」として進む際の重要な手続きの一つで、破産管財人が裁判所で開く集会のことです。
破産管財人はこの集会で、破産に至った経緯や破産者の財産状況、破産手続きの進捗状況などを債権者に報告します。
同時に、債権者からの意見や質問も受け付けられ、債権者と破産管財人が対話する場となります。
通常、第1回債権者集会は破産手続き開始から約3カ月後に開かれます。
なお、自己破産手続きが「同時廃止事件」として処理される場合、破産管財人が選任されないため、この集会が行われないこともあります。
債権者集会の必要性
債務者の自己破産により、債権者は回収可能な金額が大幅に減少するという不利益を被ります。
債権者集会は、債権者がそのような不利益を受ける際に、正確な情報を得て自らの意見を表明する機会もなく終わってしまうことを防ぐために行われるのです。
債権者は債権者集会に参加することで、破産手続きが公正に進行しているかを確認し、自身の権利を守ることができます。
債権者集会では、破産管財人が破産者の財産状況や手続きの進捗について詳細な報告を行います。
また、破産法第40条では、破産者等の説明義務を認め、「債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない」と定められています。これにより、債権者は破産者の現状を深く理解し、破産手続きの透明性を確保できるようになります。
このように、債権者集会は、債権者と破産者、破産管財人が一堂に会し、情報を共有し双方の立場の理解を深める場なのです。
債権者にとって、債権者集会は破産手続きの進行状況を把握し、自身の権利を主張し保護する機会です。同時に、破産管財人による財産の管理や配当の透明性を監督する役割も果たします。
要するに、破産手続き全体が公正かつ透明に進むことを保証し、債権者の利益保護と破産者の公平な処遇を実現するのが、債権者集会の目的なのです。
債権者集会では何が話し合われるの?
債権者集会では、以下のような事項が主に話し合われます。
- 破産者の財産状況の報告: 破産管財人は、破産者の財産や資産の現状、およびその評価について報告します。
- 破産手続きの進捗状況: 手続きの現在の進行状況や今後のスケジュールについての情報が共有されます。
- 債権の確認: 債権者の主張する債権の額やその根拠について議論され、必要に応じて破産管財人や裁判所によって確認されます。
- 配当に関する議論: 配当可能な財産がある場合、その配当方法や割合についての議論が行われます。
- 債権者の質問や意見: 債権者は破産者や破産管財人に対して質問をしたり、特定の懸念や意見を表明する機会を持ちます。
- その他の重要事項: 破産手続きに関連するその他の重要な事項
が話し合われることもあります。
これには、特定の法的手続きや申立て、個々人状況に対するの特別な側面に関する議論などが含まれることがあります。
債権者集会は欠席できる?
破産手続きでは、破産者には債権者集会への出席と説明義務があります。この集会で破産者は自身の財政状況について説明する必要があり、破産者を代表する弁護士も出席することが求められます。
正当な理由なく債権者集会を欠席すれば、破産者の説明義務を果たそうとしなかったなど、手続に関する免責不許可事由に該当する(破産法第252条)となることがあります。
ただし、病気などやむを得ない事情がある場合は、欠席が許されます。
その際には、事前に裁判所に診断書を提出するか、急病などで事前提出が難しい場合は事後に提出して状況を説明すれば問題ありません。
しかし、仕事の忙しさだけでは、債権者集会の欠席や日程変更の理由とは認められません。
一方、債権者は集会に出席する権利がありますが、出席義務はありません。
実際、個人の破産案件では債権者の出席は稀で、特に配当の見込みがない場合は出席する動機が少ないのが現状です。
債権者集会の内容
「債権者集会」とは、「管財事件」として決定された場合に、債権者に破産管財人が、破産手続の進捗状況、破産申立てに至る経緯や破産者の財産状況の報告をし、債権者から意見を聴く集会です。
「同時廃止事件」の場合には「債権者集会」は開催されません。
第1回債権者集会は、だいたい破産手続開始決定から3カ月後に開催されます。債権者集会には、破産者、破産管財人の出席は必須です。
債権者は債権者集会に出席する義務はありません。
個人の破産事件では、債権者は出席しないことが多いです。
配当の見込みがない場合にわざわざお金と時間を使って裁判所に行く理由がないからです。
破産者は、破産に関して説明する義務があるため、債権者集会が開催される場合には毎回出席して、何か聞かれた時にきちんと説明をする必要があります。
裁判所は、破産手続きに必要な調査等が終わるまでは債権者集会を定期的に開き、破産管財人から調査結果や進捗状況の報告を受けたり、それに応じて破産者に追加で説明や資料の提出を求めます。
財産がほとんどなく、調査に時間がかからないような場合は、債権者集会が1回で終わることもあります。
債権者集会の流れ
「債権者集会」の流れは下記です。
① 破産管財人による財産状況の説明
↓
② 破産手続の廃止に関する意見聴取
↓
③ 質疑応答
↓
④ 計算・配当に関する報告(配当がある場合)
↓
⑤ 免責審尋
それぞれ解説していきます。
破産管財人による財産状況の説明
破産管財人が債権者に対して、破産者が破産申立に至った事情や財産状況について報告します。
破産者が所有していた財産、どの財産について換価を行ったかなど、管財人の行った業務についても報告します。
破産手続の廃止に関する意見聴取
財産調査の結果、破産手続きを以後継続するために必要な財産を破産者が持っていない場合、破産手続きは廃止(終了)されます。
その場合、破産手続きの廃止(終了)について債権者の意見を聴きます。
質疑応答
債権者は、破産管財人からの説明に対して質問することができます。
債権者から質問には、破産管財人または破産者(弁護士が申立代理人の場合は弁護士)がこれに回答します。
計算・配当に関する報告(配当がある場合)
破産管財人が債権者に各債権者へ配当される金額を計算し、結果を報告します。
配当が完了した場合には、破産管財人が任務終了を報告します。
免責審尋
「管財事件」の場合は、多くのケースで債権者集会の場で引き続いて免責審尋が行われます。
まず破産管財人が免責についての意見書を提出します。
そして、裁判官からの質問を破産者が答えます。
破産管財人から免責が相当であるとの意見書が提出されていれば、基本的には裁判所は免責決定を出します。
債権者集会が1回で終わらない場合
債権者集会は1回で終了することが多いです。
債権者集会までに破産管財人がすべての財産について換価と配当が終了していれば、債権者集会は1回で終了しますが、まだ業務が残っている場合には、2回目の債権者集会が行われることになります。
例えば、破産者が所有する自宅不動産を売りに出しているがまだ買い手が付いていないような場合や債権者への配当手続が終了できなかった場合などに2回目の債権者集会が行われます。
2回目の債権者集会は、1回目の債権者集会の2~3か月くらい後に開催されることが多いです。
2回目の債権者集会でも終わらない場合にはさらにその2~3か月後に3回目と、同じような頻度で開催されることが多いです。
債権者集会は怖い?
破産手続きにおける債権者集会は、破産者にとって不安な場面かもしれません。
しかし、この集会では破産者が大量に話す必要は通常ありません。
開始時に短い挨拶や謝罪をすることがある程度で、その後の進行は破産管財人や裁判所が主導します。
多くの人は債権者集会を、破産者が多数の債権者に厳しく問い詰められる場と想像しがちですが、実際にはそうした状況は生じません。
この集会の本質的な目的は、破産者の財務状況を明らかにし、手続きを前進させることにあります。
集会は、破産手続きの公正かつ効率的な進行を目指すもので、破産者を不当に扱うことはありません。
不安があれば、事前に代理人と話し合い、何を期待すべきかを理解しておくことが重要です。
このように準備をすれば、債権者集会に対する不安は大きく軽減されるでしょう。
借金が返せないことを責められたりはしないのか?
破産手続きの一環である債権者集会は、多くの人が想像するような緊張した場ではありません。
この集会は、破産者に再出発の機会を与えるための手続きの一部であり、破産者を非難する場ではないのです。
実際に、破産者が詳細に話したり、多くを説明する必要があるわけではありません。多くの場合、破産者自身が想像するほど重苦しい雰囲気ではなく、手続きは思ったよりも短時間でスムーズに終わることが一般的です。
また、申立代理人としての弁護士が一緒に出席してくれるので、サポートを受けながら進行することができます。
このように、債権者集会は破産者にとって恐れるべきものではなく、むしろ新しいスタートに向けての手続きと捉えることができます。
手続きは簡易的なものであることがほとんど
債権者集会は、一般的には簡易的で時間もそれほど長くありません。
多くの場合、集会は20〜30分程度で終了し、破産者にとって負担が大きいものではありません。
手続きの進行に応じて複数回の集会が開催されることもありますが、これも一般的には短時間で終わります。
破産手続きの目的は、破産者の財務状況を明らかにし、債務の整理を進めることであり、不必要に破産者を負担にさせることはありません。
したがって、債権者集会に対して特別な心配をする必要はなく、手続きをスムーズに進めるために必要な情報提供を行うことが重要です。
弁護士に依頼している場合弁護士は破産者の味方として発言を行ってくれるため、不安なことがあれば都度相談を行うのがよいでしょう。
大切なのは借金を繰り返さないこと
破産手続きにおいて、借金を再び繰り返さないことが最も重要で大切なことです。
時折、債権者集会において参加者が破産者の気持ちを尋ねることがあります。
その際、率直で真摯な謝罪が肝要です。
過去の経済的な課題を整理する過程で、同じ過ちを繰り返さない強い意志を伝えることが必要です。
この破産手続きを通して、破産者は新たなスタートを切る機会を手に入れています。
この経験を真摯に受け止め、将来に向けて堅実な財務管理を実践し、同じ問題に再び直面しないようにすることが非常に重要な課題です。
そして、債権者集会を通じて、この決意を債権者に理解してもらうことが期待されます。
もう同じことを繰り返さないという信頼を築き、再出発のステップをより確固たるものにすることができるでしょう。