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債務整理

自己破産したら保険は解約される?生命保険の解約を阻止する方法を解説

生命保険

私たちの生活には様々なリスクが潜んでいます。

  • 突然の死亡
  • 病気
  • ケガ
  • 介護

などの予測不可能な出来事により、経済的な困難が生じることもあります。

それによって、思い描いていた生活が実現できなくなる可能性があります。

こうした予測不能な状況に備え、保険に加入している方もおられるでしょう。

ただ、自己破産をする場合、解約返戻金のある保険は資産と見なされます。

そのため、自己破産をすると、生命保険を解約しなければならないケースがあるのです。

本記事では、

  1. 生命保険と自己破産の関係
  2. 自己破産した場合に生命保険の解約が必要になるケース・ならないケース
  3. 生命保険を解約せずに自己破産を進めたい場合の対処法

について、詳しく解説していきます。

個人が自己破産手続きを進める際、生命保険の解約が必要? 

資産と評価される保険については解約をする必要がある

自己破産の手続きを進める際には、所有する財産を処分し、清算することが求められます。
つまり、自分が持っている財産を売却して、そこで得たお金を債権者に分配しなくてはなりません。
財産といえば、すぐにお金に変えられそうなもの、例えば、車や不動産、株式や預金を連想するかもしれません。
ところが、この財産の中には、積立型の生命保険なども含まれているのです。
それというのも、保険の中には一定の期間が過ぎるとお金が戻ってくるタイプがあるからです。(東京海上日動あんしん生命保険株式会社「あんしん生命保険 用語集」を参照)
例えば、積立型生命保険や積立保険と呼ばれる種類の保険がそれに当たります。
こうした積立型の保険は、解約すれば積み立ててきた資金を返金してもらうことができます。
その返金されるお金のことを「解約返戻金」と言います。
言い換えれば、積立型保険に加入している人は「お金を返してもらう権利」を持っているのです。
そのため、生命保険も状況によっては資産の一部とみなされることがあるわけです。

なぜ生命保険を解約する必要があるのか?

それでは、なぜ生命保険を解約しなければならないのでしょうか。
その理由は、自己破産の手続きと深く関わっています。

自己破産とは、裁判所に「破産申立書」を提出し、「免責許可」を得ることで、非免責債権以外の全ての債務を帳消しにする手続きのことです。
この自己破産は、「支払い不能」の状態に陥った時に行うものとされています。

支払い不能というのは、持っている資産を全て売却しても借金を完済できない状況を指します。
そのため、裁判所では家計の収支状況をチェックしたり、預金口座の残高を調べたり、財産の有無を確認したりすることになります。

そして、一定以上の価値がある財産については、現金化が行われ、金融機関などの債権者に「分配」されることになるのです。

破産手続きでは、こうした清算作業を全て終えて初めて、支払い不能であると認定されるわけです。

先ほど、積立型生命保険は解約すれば返金を受ける権利があると説明しました。
これも一定以上のお金になる可能性のある、価値ある財産の一つとみなされます。
そういった理由から、積立型生命保険も破産手続きにおいて解約が必要になるのです。

生命保険があることを黙って自己破産をするとどうなる?

ここで、悪いことを考える人がいたとします。

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契約している生命保険があることを黙っていよう

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生命保険を別の家族の名義に変更しよう

このようなことを行った場合、どのような結果が待ち受けているでしょうか?

結論として、こうした行為は裁判所や管財人に簡単に見抜かれてしまう恐れがあります。

その理由は、保険料の支払いは銀行口座からの自動引き落としで処理されるため、その取引履歴が銀行の記録として残るからです。
自己破産の申立てを行う時は、添付書類として保険証券や銀行通帳の明細を提出しなければなりません
これを意図的に隠したり、その内容に不審な点があれば調査の対象になり、保険の支払履歴はバレてしまうでしょう。

また、生命保険契約の存在を意図的に隠したり、解約や返戻金の事実を秘密にしたり、名義変更を行ったりするのは、破産法第252条第1項第1号に規定された「財産隠し」に当たります。

これは破産法で定められた「免責不許可事由」の一つであり、こうした行為が発覚すれば、免責が認められない可能性があるのです。(破産法第252条「免責許可の決定の要件等」e GOV法令検索より)


加えて、破産法では、

  • 債権者に損害を与える目的で債務者の財産を隠したり損壊したりする行為
  • 破産手続開始決定後や保全管理命令後に債務者の財産を取得する行為

などを処罰する「破産詐欺罪」という規定があります。(破産法第265条「詐欺破産罪e GOV法令検索より)

破産詐欺罪が成立すると、破産手続開始決定が確定した時点で、その行為者(破産法265条1項4号の場合はその相手方も)は、1ヶ月以上10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられます。

場合によっては、懲役と罰金の両方が科されることもあるのです。

このように、意図的な秘匿や手続き前の財産移転が発覚すれば、財産隠しとみなされ、最悪の場合、自己破産手続きでの免責が許可されなくなってしまうばかりか、刑事罰を科される危険性があります。絶対にやってはいけない行為だと肝に銘じておきましょう。

自己破産した場合に生命保険の解約が必要になるケース・ならないケース

生命保険の解約が必要になるケース

ここからは、解約する対象となる生命保険の契約について説明します。

最も重要なポイントは、生命保険が清算の対象となるのは「解約するとお金がもらえる場合」ということです。

具体的には、

加入している全ての保険の解約返戻金が合計で概ね20万円を超える場合

は、売却が必要な資産とみなされ、清算の対象となります。

そのため、破産者が自ら保険契約を解約し、受領したお金を破産管財人に渡すか、破産管財人が保険を解約してそのお金を直接回収する必要があります。

以下は、清算が必要になる可能性のある保険の一覧です。

(1)貯蓄型・積立型保険

先ほどからお話している生命保険の典型的ケースです。

支払う保険料が貯蓄されて、死亡時や契約を解約する際に返金が受けられるものです。

(2)掛け捨て型保険(解約返戻金がある場合)

掛け捨ての保険契約でも、解約返戻金が発生するケースがありえます。

これらは、破産手続きで解約の対象となる可能性があります。

ただし、契約後すぐに解約返戻金が発生しない場合や、返戻金が発生しても金額がわずかな場合は、解約しないでもよいことがあります。

(3)学資保険

お子さまのために加入した学資保険も、解約する対象となります。

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学資保険って子供のためのお金じゃないの?

という疑問を持たれた方もおられるかもしれません。

確かに、子供のためのお金まで持っていかれてしまっては可哀想です。

ただ、清算が必要かどうかは、契約名義人が基準になります。

ですので、契約名義人が破産者であった場合は精算の対象となり得ます。

また、家族のうち、破産者以外は働いておらず、学資保険が実質的に破産者のお金で積み立てられていたことが明らかな場合にも、清算の対象となる場合があることにも注意が必要です。

自己破産の際に、家族の財産が対象になるかについては、以下の記事で詳しく解説をしています。合わせてご参照ください。

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(4)個人年金保険

個人年金保険は、一定の年齢まで毎月支払うことで、満期以降は一定期間(または亡くなるまで)年金をもらえる保険のことです。

この個人年金保険も、保険金を積み立てて返戻金を受け取る保険ですから、解約すると返戻金が発生する場合があります。

そのため、自己破産の手続きに際しては、保険会社に確認することをおすすめします。

(5)養老保険

死亡時の保証と老後の生活の貯蓄を兼ね備える養老保険も、通常は解約するとお金がもらえる仕組みがあります。

ですので、返戻金がある場合は、解約が必要となる場合があります。

生命保険の解約が不要なケース

自己破産において生命保険が解約されない事例も存在します。

上では解約返戻金が概ね20万円以上の場合は解約されると言ってきました。

反対に言えば、返戻金が20万円を下回る場合は、解約しなくても良いかもしれません。

また、契約しているのが掛け捨て型の保険の場合なども、解約が不要な場合に該当します。

(1)解約返戻金が20万円を越えない場合

自己破産の手続きでは、原則としてすべての財産を処分することが求められます。破産法第34条第1項でも、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とする」と定められています。

しかし、全ての財産を没収されてしまっては、生活再建が困難になってしまいます。

そこで、同法第34条第3項、第4項では、生活に不可欠な財産や裁判所が除外を認めた財産については回収の対象外とする制限が設けられています。 これを自由財産と呼びます。

自由財産に該当するものとしては、例えば以下のようなものがあります。

  • ・生活に必要不可欠な家具や家電製品
  • ・収入を得るために必要な仕事の道具類
  • ・先祖の遺影や仏壇など、祭祀に関連するもの
  • ・破産手続開始の後に得た財産「新得財産」
  • ・一定額以下の現金
  • ・破産財団から放棄された財産

そして、解約返戻金が20万円以下の生命保険も、この自由財産に含まれると考えられています。 そのため、保険を解約せずにそのまま加入し続けられる可能性があるのです。

ただし、ここで2つの注意点があります。

1つ目は、返戻率が保険会社によって異なるという点です。 「返戻金は8割くらいだろう」と予想していたのに、想像以上の金額が返ってきてしまった、といったトラブルを避けるために注意が必要です。

2つ目は、20万円というのはあくまでも基準であり、最終的な判断は裁判所に委ねられるという点です。 「返戻金が19万8000円だったからセーフ」というわけにはいかないのです。

以上の点に気を付けながら、自由財産に関する制度を適切に活用していくことが大切です。

自由財産については、以下の記事も併せてご参照ください。

自己破産をしたら財産は残せない?自己破産しても残せる自由財産を解説自己破産をすると、原則として全ての財産を失うことになります。しかし、身の回り品など生活に最低限必要なものは「自由財産」として手元に残せるほか、裁判所の判断で「自由財産の拡張」が認められれば、より多くの財産を守ることができます。そこで今回は、自己破産で財産が残せるケースと、財産が残せない場合の対処法について解説します。...

(2) 掛け捨て型の契約

自己破産において、生命保険が解約されるのは、解約返戻金が財産と見なされる場合に限られます。

生命保険には掛け捨て型と貯蓄型(積立型)の2種類があり、解約返戻金が発生するのは貯蓄型を選択した場合です。

そのため、掛け捨て型の生命保険は自己破産によって解約される可能性は非常に低いと言えるでしょう。

生命保険を解約せずに自己破産を進めたい場合の対処法

では、保険を解約せずに自己破産を進める方法はないのでしょうか?

これには、いくつかの対処法が考えられます。

  • 【対処法その1】 解約返戻金を20万円未満に抑える
  • 【対処法その2】 保険法の介入権を利用
  • 【対処法その3】 自由財産拡張を裁判所に認めてもらう
  • 【対処法その4】 自己破産以外の方法で借金問題を解決する

本項では上記の対処法について、解説していきます。

【対処法その1】解約返戻金を20万円未満に抑える

自己破産手続きには、「同時廃止」と「管財事件」の二つの進行形式が存在します。

所有する財産の評価が少ない場合、通常は「同時廃止」が採用されます。

一方、管財事件では、裁判所が指名した破産管財人が債務者の財産の調査、管理、処分を行い、債権者に対して「弁済・配当」を進めます。

しかし、「同時廃止」ではこの手続きがないため、生命保険を解約する必要がありません。

生命保険などが資産と見なされるのは、解約返戻金が20万円以上の場合です。

そのため、解約返戻金の額を総額で20万円より少ない金額に抑えることで、資産として扱われないようにすることが考えられます。

これには、契約者貸付を活用することが考えられます。

例えば、生命保険の契約内容により、「契約者貸付制度」を利用することで解約返戻金を20万円未満にすることが可能です。

ただし、これが裁判所から資産の隠し立てと指摘される可能性があります。

しかし、通常はこのお金が生活費や破産手続きに必要な経費に充てられている場合、契約者貸付は通常の用途として認識され、裁判所や破産管財人から問題視されることは少ないです。

ただし、これを説明できるためには、支払った弁護士費用や管財人への費用、生活費など用途が明確であることが重要であり、その流れを通帳の記録や領収証で明確に保管しておく必要があります。

【対処法その2】保険法の介入権を利用

2010年に行われた保険法の改正により、「介入権制度」が導入されました。(引用 日本損害保険協会「介入権制度とはどのような制度ですか。」より引用)

この制度は、保険の加入者が自己破産する際に、生命保険の保険金受取人を保護する必要があることから創設されました。

具体的には、破産管財人が保険契約を解除する通知が発し、それが発効するまでの1ヶ月以内に、保険金受取人が返戻金相当の金銭を支払うことで契約の解除を防ぐことができると定めています。(保険法第89条「契約当事者以外の者による解除の効力等」e GOV法令検索より)

この「介入権」の制度を活用することで、保険を解約することなく自己破産を勧めることが可能です。

【対処法その3】自由財産拡張を裁判所に認めてもらう

破産者が重篤な疾患を抱えている場合、破産後に新たに保険に加入することが難しくなることがあります。

そのような状況では、破産法第34条第4項に基づいて、財産の範囲を拡張する申し立てを行うことで、保険を解約せずにそのまま継続できる可能性があります。

つまり、破産者からの申し立てに対して、裁判所が保険を処分・清算しなくてもよいと認めた場合には、保険への加入を維持できるということです。

ただし、後述する99万円の上限基準には注意が必要です。
例えば、自動車保険のように短期間(通常1年)の保険で、保険料を先払いしているケースでは、途中解約した場合、解約日以降から保険期間満了までの保険料が返金されることがあります。
この返金額が20万円以下であれば、保険を解約しなくてもよいのです。
一方、不動産を所有していて長期の火災保険に加入し、保険料を先払いしている場合、解約のタイミングによっては、返金される保険料が20万円を超えてしまうことがあります。
この場合は、保険を解約するか処分しなければなりません。
ただし、自己破産の際には通常、不動産そのものが処分の対象となります。
解約返戻金が20万円を超えることが多い代表的な保険としては生命保険があげられます。
生命保険は通常、長期の契約であり、長年にわたって保険料を支払うため、解約返戻金が高額になる傾向にあります。
しかし、解約返戻金が20万円以上であっても、自由財産の合計額が99万円以下であれば、自由財産の拡張が認められ、解約する必要がない限り(裁判所の判断次第)、そのまま保険への加入を継続することができるのです。

【対処法その4】自己破産以外の方法で借金問題を解決する

自己破産手続きを進める場合、通常は生命保険などの資産となる保険は解約しなければなりません。

しかし、債務整理には自己破産以外にも「任意整理」と「個人再生」という手続きがあります。

これらの手続きを選択する場合は、保険を解約することなく手続きを進めることができます。

ただし、自己破産と比較すると、減額できる範囲が制限されたり、減額された借金を返済する必要がある点に留意する必要があります。

どの手続きが適切かは、個々の状況や個人のニーズ、要望によって決まります。

また、法的な知識や経験も欠かせません。債務整理のプロである弁護士や司法書士に相談することで、より適切な手段を選択できる可能性があります。

ですので、相談をすることを強くお勧めします。

まとめ

自己破産手続きを進める際には、生命保険の解約が必要となる場合があります。

特に、資産と評価され、配当、清算の対象とされる保険については解約が必要です。

自己破産した場合に生命保険の解約が必要かどうかはケースバイケースです。

解約が必要なケースとしては、解約返戻金が一定の金額以上の場合が挙げられます。

しかし、解約が不要なケースも存在します。

たとえば、解約返戻金が20万円未満の場合や、保険法に基づく介入権を利用する場合には、生命保険の解約の必要がないことがあります。

生命保険を解約したくない場合にはいくつかの対処法が考えられます。

まず、解約返戻金の金額を総額で20万円より少なく抑える方法があります。

また、保険法の介入権を利用することで、解約を回避することも可能です。

さらに、自己破産以外の方法で借金問題を解決する選択肢もあります。

これらの対処法については、専門家である弁護士や司法書士との相談が重要であり、個別の状況や法的な知識を考慮した適切なアプローチが求められます。

  • 記事監修者
  • 弁護士 近藤 裕之
  • 翔躍法律事務所 所属
  • 第一東京弁護士会 所属
  • ※法律問題に関するテキスト監修に限る