自己破産をすると借金の支払義務が免除されます。
これを「免責」といいます。
自己破産の手続には大きく分けて「同時廃止事件」と「管財事件」があります。
「管財事件」の場合には、「債権者集会」というものが開催されます。
今回は、「債権者集会」がどういったものなのか、免責決定までの流れを解説します。
自己破産とは?
自己破産とは、裁判所に申立てをし、借金返済ができない状況を認めてもらうことで、借金の返済が免除されます。
裁判所に認めてもらうためには借金をすることになった経緯や、支払いができない現在の生活状況をしっかりと説明する必要があります。
原則として、財産(家・車等)が処分されることになりますが、返済が免除されますので、生活の立て直しができます。
自己破産手続の種類
自己破産には大きくわけて「同時廃止事件」と「管財事件」があります。
どちらの手続きになるかは、裁判所の判断となります。
手続きによってかかる期間や費用が大きく違います。
種類別に詳細を解説します。
同時廃止事件
自己破産手続は、原則的に債務者の財産を調査し、財産があれば換価(売却)して、債権者に公平に配当する必要があります。
債務者に財産が全くなく、清算手続をしても債権者に配当すべきお金が出てこない場合も少なくありません。
そこで、「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」と規定されています。(破産法216条1項)
破産手続の廃止とは、破産手続を終了させることです。
破産手続の開始と同時に債権者への配当という目的を果たすことができないため、破産手続を廃止(終了)させることから、「同時廃止」といいます。
東京地方裁判所では、下記の基準により「同時廃止事件」と「管財事件」の振り分けをしています。
✅33万円以上の現金の有無
✅20万円以上の換価対象資産の有無
・預貯金(すべての預貯金口座の残高を合計した金額)
・退職金(支払見込み額の8分の1、近い将来退職予定の場合又はすでに退職している場合、支給見込額の4分の1相当額が20万円以上)
・社内積立や財形貯蓄等の積立金の合計額
・貸金・売掛金の合計額
・有価証券(手形・小切手、株式、社債等)の合計額
・相続財産
・保険(生命保険、傷害保険、火災保険、自動車保険等)の解約返戻金の合計額
・自動車(処分見込価額)なお、減価償却期間(普通乗用車は6年、軽自動車・商用車は4年)を経過している場合は、無価値として取り扱われます。
✅不動産の有無
不動産は、一般的に、20万円以上の換価価値があると考えられることから、原則、不動産を保有している場合は「管財事件」として扱われます。
なお、所有不動産に設定されている抵当権の被担保債権額が、不動産処分予定価格の
1.5倍以上超過している場合、資産として評価しない取扱いがされています。
✅資産調査が必要な場合
保有しているすべての財産を申告していない可能性が疑われる場合は「管財事件」として取り扱われます。
✅法人の代表者や個人事業主の場合
✅免責不許可事由がある場合
・財産隠しや不当に財産を減少させる行為
・不当に債務を負担する行為
・債権者を平等に扱わない行為
・浪費やギャンブルなどにより借金をする行為
・相手を騙して信用取引をする行為
・帳簿など業務や財産に関する書類を隠す行為
・虚偽の債権者名簿を提出する行為
・説明の拒否や虚偽の発言をする行為
・管財業務を妨害する行為
・過去7年以内に免責を受けている
・自己破産手続に協力しない
免責不許可事由が存在しても、免責不許可事由の程度が軽微であり、負債総額が多額ではなく、債権者の厳しい意見がなく、申立人(申立代理人)により十分に調査・説明があった場合、免責調査のために破産管財人を選任する必要がないと判断され、例外的に「同時廃止事件」に振り分けられる場合もあります。
管財事件
「管財事件」は、裁判所によって選任された破産管財人が、債務者の財産を調査し、管理、処分を行い、債権者へ配当、免責許可決定を出しても問題ないかの調査(免責調査)をします。
破産管財人は、一般的に弁護士の中から選任されます。
管財人の報酬を含めた破産手続にかかる費用を裁判所に納める必要があります。
そのため、「同時廃止事件」より裁判所に納める費用が多くかかってしまいます。
「同時廃止事件」の場合は、約2万円前後ですが,「管財事件」の場合には、別途管財費用が約20万円(裁判所により変動あり)かかります。
また、手続が終わるまでに相応の時間がかかります。
手続き期間は,「同時廃止事件」の場合は,2~4か月程度ですが,「管財事件」の場合,6か月~1年程度かかることが一般的です。
「管財事件」になると「同時廃止事件」にはない下記のデメリットがあります。
✅管財人が債務者の財産を調査し、処分します。
✅自分の財産、生活状況など管財人などから説明を求められるとそれに応じる義務がある。
✅郵便物が管財人に届くようになる。
✅引っ越し・旅行時に裁判所の許可が必要。
債権者集会とは?
「管財事件」となった場合には、「債権者集会」というものが開催されます。
「債権者集会」がどういったものか解説します。
まず、「管財事件」の流れを紹介します。
申立後、「管財事件」になることが決まったら破産管財人が選任されます。
そして、破産管財人による財産の調査や処分の手続が行われます。
破産管財人による財産の調査が終われば、その調査結果や破産者の財産の状況を報告するための「債権者集会」が開催されます。
「債権者集会」とともに免責審尋が行われます。
免責審尋は、裁判官が免責不許可事由がないか、免責するかどうかについて判断する場です。
免責審尋が終了し、問題がなければ免責許可が決定されます。
債権者集会の内容
「債権者集会」とは、「管財事件」として決定された場合に、債権者に破産管財人が、破産手続の進捗状況、破産申立てに至る経緯や破産者の財産状況の報告をし、債権者から意見を聴く集会です。
「同時廃止事件」の場合には「債権者集会」は開催されません。
第1回債権者集会は、だいたい破産手続開始決定から3カ月後に開催されます。
債権者集会には、破産者、破産管財人の出席は必須です。
債権者は債権者集会に出席する義務はありません。
個人の破産事件では、債権者は出席しないことが多いです。
配当の見込みがない場合にわざわざお金と時間を使って裁判所に行く理由がないからです。
破産者は、破産に関して説明する義務があるため、債権者集会が開催される場合には毎回出席して、何か聞かれた時にきちんと説明をする必要があります。
裁判所は、破産手続きに必要な調査等が終わるまでは債権者集会を定期的に開き、破産管財人から調査結果や進捗状況の報告を受けたり、それに応じて破産者に追加で説明や資料の提出を求めます。
財産がほとんどなく、調査に時間がかからないような場合は、債権者集会が1回で終わることもあります。
債権者集会の流れ
「債権者集会」の流れは下記です。
① 破産管財人による財産状況の説明
↓
② 破産手続の廃止に関する意見聴取
↓
③ 質疑応答
↓
④ 計算・配当に関する報告(配当がある場合)
↓
⑤ 免責審尋
それぞれ解説していきます。
破産管財人による財産状況の説明
破産管財人が債権者に対して、破産者が破産申立に至った事情や財産状況について報告します。
破産者が所有していた財産、どの財産について換価を行ったかなど、管財人の行った業務についても報告します。
破産手続の廃止に関する意見聴取
財産調査の結果、破産手続きを以後継続するために必要な財産を破産者が持っていない場合、破産手続きは廃止(終了)されます。
その場合、破産手続きの廃止(終了)について債権者の意見を聴きます。
質疑応答
債権者は、破産管財人からの説明に対して質問することができます。
債権者から質問には、破産管財人または破産者(弁護士が申立代理人の場合は弁護士)がこれに回答します。
計算・配当に関する報告(配当がある場合)
破産管財人が債権者に各債権者へ配当される金額を計算し、結果を報告します。
配当が完了した場合には、破産管財人が任務終了を報告します。
免責審尋
「管財事件」の場合は、多くのケースで債権者集会の場で引き続いて免責審尋が行われます。
まず破産管財人が免責についての意見書を提出します。
そして、裁判官からの質問を破産者が答えます。
破産管財人から免責が相当であるとの意見書が提出されていれば、基本的には裁判所は免責決定を出します。
債権者集会が1回で終わらない場合
債権者集会は1回で終了することが多いです。
債権者集会までに破産管財人がすべての財産について換価と配当が終了していれば、債権者集会は1回で終了しますが、まだ業務が残っている場合には、2回目の債権者集会が行われることになります。
例えば、破産者が所有する自宅不動産を売りに出しているがまだ買い手が付いていないような場合や債権者への配当手続が終了できなかった場合などに2回目の債権者集会が行われます。
2回目の債権者集会は、1回目の債権者集会の2~3か月くらい後に開催されることが多いです。
2回目の債権者集会でも終わらない場合にはさらにその2~3か月後に3回目と、同じような頻度で開催されることが多いです。
債権者集会の注意点
債権者集会は、裁判所に指定された日時に時間厳守で出席しないといけません。
弁護士に破産手続を依頼していても、本人の出席が必要です。
債権者集会を正当な理由なく無断欠席すると、裁判所に説明義務を果たさなかったと判断され、免責不許可事由に該当する可能性がでてきます。
債権者集会は、仕事が忙しい等の個人的な理由で欠席や期日を変更したりすることはできません。
やむを得ない事情(病気や事故)がある場合は、欠席できる場合もあります。
やむを得ない事情がある場合でも無断欠席はしてはいけません。
病気等でやむなく欠席する場合は、事前に裁判所に連絡し診断書等を提出し許可を得ましょう。
債権者集会に出席するときの服装に指定はありませんがラフすぎる格好、派手な格好、高級品を身に着けることは控えたほうがいいでしょう。
ある程度きちんとした格好、シャツにスラックスまたはスカート(ワンピースも可)を着て行くとよいでしょう。
免責決定とは?
免責決定とは、裁判所が債務者の借金の支払い義務を免除する決定です。
債務者が自己破産の申立てをすると自動的に免責になるのではなく、裁判所が審査を行い許可されて、免責が認められます。
自己破産をして免責決定を受けるためには、下記の条件を満たす必要があります。
✅支払不能の状態であること
支払不能とは債務者が、「支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」(破産法第2条11項)
たとえば次のような状態です。
・債務者に返済するだけの財産も現金がない
・働くことができない事情がある
・何年たっても返済の目処が立たない
✅免責不許可事由がないこと
免責不許可事由があっても裁判所は、破産申立てに至った経緯や一切の事情を考慮して、免責決定をすることができます。
「裁量免責」と呼ばれています。
✅非免責債権に該当しないこと
非免責債権とは、免責を受けた場合でも支払いの義務が残る債権です。
具体例としては,下記があります。
・各種税金
・社会保険料
・子どもの養育費
・未払いの婚姻費用
・窃盗や詐欺による損害賠償金
・暴走運転や無謀運転などによる交通事故の損害賠償請求金
・刑罰による罰金
・破産者が知りながら申告しなかった債権
免責決定までの流れ
免責決定までの流れは「同時廃止事件」と「管財事件」で異なります。
それぞれの流れは下記です。
同時廃止の場合
① 破産手続開始決定同時に手続の廃止決定
↓
② 債権者に破産手続の廃止に関する意見聴取
↓
③ 免責審尋(行われない場合あり)
↓
④ 免責決定
管財事件の場合
① 破産手続開始決定
↓
② 管財人選任
↓
③ 管財人との面談
↓
④ 債権者集会・免責審尋
↓
⑤ 免責決定
個人である債務者が破産申立てをした場合、同時に、免責許可の申立てをしたとみなされます(破産法248条4項)。
破産申立て後、裁判所は、免責にあたるかどうか調査を行います。
「管財事件」の場合は、破産管財人に調査をさせることができます。
裁判所は、破産手続開始決定後、相当期間を定めて、債権者に対し意見申述を求めます。
この意見申述は、免責不許可事由にあたる事情がないか等を裁判所が調査するために行われるものです。
もしすべての債権者が免責すべきでないと意見があっても、免責不許可事由にあたる具体的な事情がなければ、裁判所は免責決定をすることができます。
免責決定が出てから2週間くらいで免責決定が出たことが官報に掲載されます。
官報に掲載されてから2週間以内に債権者から免責許可決定に不服申立がされなければ、免責決定が確定します。