弁護士が債務整理の相談を受けるときには、相談者の方から借金の原因や借入状況、資産内容、現在の生活状況など様々な話を確認します。
中には、あまり他人に知られたくない事柄や言いたくない事情があるかもしれません。
たとえ言いにくい事情であっても、弁護士からの質問には本当のことを話してください。
もし、嘘を伝えたり、真実を隠したりして弁護士に債務整理を依頼するとどうなるでしょうか。
今回は、債務整理をする際に弁護士に嘘をついた場合のリスクについて解説します。
目次
債務整理に必要な信頼関係
債務整理手続きを進めるために弁護士や司法書士は依頼者の為に尽くしますが、最初は弁護士や司法書士でも依頼者のことを全く知りません。
依頼者のことを何も知らなければその人に合った手続きをすることができないので、たくさんの質問をします。
ここで、弁護士や司法書士と依頼人の間に強い信頼関係が重要となってくるのです。
債務整理を成功させるためには、依頼者は弁護士や司法書士に、包み隠さず正直に全てを伝えましょう。
正しい情報が債務整理を正しい方向へ導いてくれます。
間違った情報を伝えれば、債務整理も間違った方向へ行ってしまう可能性があります。
弁護士や司法書士が聞いてくる質問は、全て債務整理を行う上で必要な情報です。
弁護士や司法書士に相談した内容は守秘義務によって守られているので、他人にばれる心配はありません。
安心して正直に話しましょう。
どんなことを聞かれるのか?
借入や借金の状況
債務整理を進めるときには、どこの会社からどのような種類の借入があるのか、借金総額がいくらになっているのかを把握する必要があります。
面談時には債権者名や連絡先、借金の種類や現在の負債残高などを確認します。
財産状況
債務整理の際、どのような財産を持っているのかも重要です。
手続きによっては財産が失われてしまったり、借金の減額率に影響するからです。
面談時にも財産状況はきちんと確認します。
家計の状況
家計状況により、どの程度の返済が可能かを判断します。
面談時には世帯全体における毎月の収支の状況を確認します。
借金の理由
自己破産をするときには借金の理由が問題になることがあります。
面談時にもどのような経緯でなぜ借金ができてしまったのかを確認します。
しかし、今までの状況を根掘り葉掘り聞いたり過度にプライバシーに踏み込んで聞くことはありません。
嘘をついてもすぐバレてしまう
そもそも債務整理をする際に嘘をついてしまったら、誰かにバレるのでしょうか。
債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産など、様々な手続きがありますが、どの手続きをしても嘘をついていると分かってしまいます。
例えば、任意整理で嘘をつく例としては、毎月2万円の支払いしかできないにもかかわらず、どうしても自己破産が嫌で、月に4万円の支払いができると嘘をつくと、いざ支払いの時になって「やっぱり支払いができません…」となってしまいます。
また、個人再生や自己破産をするときに、実は自分名義で保険を契約しているにもかかわらず、妻名義に黙って変更した、という場合には、提出書類となる通帳の引き落としの明細から保険契約していたことが判明し、それがどうなったのか聞かれることになります。
債務整理において弁護士に嘘をつくとどうなるか?
1.債権者の数や名称で嘘をつく
再生手続や破産手続といった裁判所を使う債務整理の場合、「全ての債権者を平等に扱う」という原則あるため、債権者の数や名称を正確に申告しなければなりません。
弁護士や司法書士は依頼人の申告に基づいて申立書などを作成しますが、このときに嘘をついている方が多く見られます。
例えば「自己破産をすると借金の返済義務がなくなるけれど、そうするとお世話になった人に迷惑がかかってしまう。この人への借金だけは支払い続けよう」と考えて、故意に一部の債権者を除外する人がいます。
また、「家族からお金を借りているけれど、自己破産をすると債権者に連絡が行くのでバレてしまう。バレないように家族を債権者から外して申告しないようにしよう」と考える人もいるようです。
債権者を隠すと、裁判所に提出する書類に嘘の内容を書くことになります。
嘘がわかった時点で手続きが打ち切られてしまうなどのペナルティが課せられるおそれがあり、債務整理手続きに失敗する可能性が高くなります。
最悪の場合、詐欺破産罪などの犯罪にあたります。
任意整理の場合でも、弁護士や司法書士に正しい債権者の情報や負債状況を告げなければ、事務処理や交渉に時間がかかることになります。
効率的な任意債理をするには全体像を確認して、どのように毎月の資金を配分するか等を判断する必要があります。
隠し事をすると大きな失敗に繋がりかねませんので、自分の判断で嘘を伝えないようにしましょう。
2.保有資産の額で嘘をつく
所持している資産額を少なく申告する人は「財産の隠匿」を目的としている場合が多いです。
自己破産では一定以上の財産が処分され、個人再生では保有している財産額が多いと手続き後の返済額が上がってしまいます。
その為財産を少なく見せかけるために、一時的に他人に安く売却したり譲ったり、直前で名義変更する例が多くなっています。
財産の資産額を少なく申告するということは、財産を隠して申告したということになります。
財産の隠匿などは個人再生や自己破産で禁止されているため、手続きが打ち切られる可能性があります。
また、個人再生や自己破産では裁判所が「否認権」という権利を使って、手続きの直前に他人に譲った財産の所有権を債務者の元に戻す手続きをされることがあります。
例えば自動車を他人へ譲っていた場合、裁判所が譲り受けた人へ、「その取引は無効なので自動車を返却してください」と通知し、管財人の権限で強制的に回収します。
譲り受けた人に迷惑がかかりますし、借金問題の解決まで手続きの時間が伸びてしまいます。
3.借金の理由で嘘をつく
借金の理由が本当は浪費やギャンブルなのに、「生活が苦しいため」「学費の支払いのため」などという嘘を言う人がいます。
本当の理由を弁護士に知られたくないと考えてしまい、嘘を伝えるケースが多いようです。
借金の本当の理由が発覚してしまうと、特に自己破産では問題が出てきてしまいます。
自己破産では「免責不許可事由」という免責が許可されない事項が定められており、これに該当する事情のある人は自己破産しても免責されません。
浪費やギャンブルなどによる借金は、免責不許可事由に該当します。
裁判官の裁量で借金をゼロにする「裁量免責」を受けられる可能性もありますが、裁量免責をするかどうかは裁判官の判断次第です。
弁護士に正直に伝えていれば、弁護士が裁量免責を受けやすくなる対策を考えてくれます。
しかし、弁護士に嘘をついた場合は何の策も伝えられなくなり、悪質であると考えられる為、裁量免責が受けられなくなる可能性が高まります。
4.偏頗弁済を隠す
偏頗弁済とは、一部の債権者のみに返済する行為です。
偏頗弁済の自覚がない方もいますが、偏頗弁済していることがバレると問題になることを知っているため、敢えて嘘をつく人がいます。
「偏頗弁済していることはどうやってバレるの?」と思うかもしれませんが、個人再生や自己破産の手続き中に財産の減り方などを調べると、必ずどこかで辻褄が合わなくなりわかってしまいます。
個人再生や自己破産では偏頗弁済が禁止されており、場合によっては手続きが打ち切られてしまいます。
また、手続きが進んでも、個人再生の場合は偏頗弁済した金額が個人再生の返済額に上乗せされることがあります。
債務整理手続きにおいて裁判所・管財人・再生委員に嘘をつくとどうなるか?
裁判所等の印象が大きく悪化する
まず、裁判所等は個人再生・自己破産をするにあたって法律に反したことをしていないか?ということを厳しく見ています。
債務者が嘘をついていることが判明すると、「後ろめたいことが他にもあるのではないか」という目で見られてしまい、より詳しく調べる必要があると判断され、詳細に説明をしなければならない事項、提出する書面が増えるなどの事態に陥る可能性があります。
本来なら免責されたはずのものも免責されなくなってしまう
ギャンブルや浪費などが原因の借金については自己破産においては免責不許可事由として、免責されなくなることになっています。
しかし、免責不許可事由に該当する場合でも、裁判所が相当と認める場合には裁判所が裁量で免責を許可する「裁量免責」という制度があります。
現実的にはこの裁量免責によってほとんどのケースで免責が認められていますが、その大前提として、手続きに対してきちんと協力をして真摯な反省を見せていることが必要となります。
にもかかわらず、手続き中に嘘をつくと、手続きへの協力姿勢や真摯な反省意思もないと評価されかねません。
嘘の程度や頻度によっては、免責に値しないと裁判官が判断し、裁量免責されなくなるでしょう。
場合によっては詐欺破産罪にあたることも
破産法265条は、破産手続きへの信頼を失わせる行為を上げており、その行為を行った者に対して刑事罰に処する内容を規定しています(詐欺破産罪)。
たとえば、実は保険に加入していて解約返戻金がある場合に、この保険の存在を隠すなどして申立てを行った場合には、解約返戻金は財産になるので、「財産の隠匿行為」として同条1項1号に該当します。
詐欺破産罪の最も長い懲役は10年となっており、犯罪の程度としては業務情横領罪・窃盗や詐欺などと同等の重大な犯罪であるということを知っておきましょう。
まとめ
この記事では、債務整理手続きにおいて嘘をついた場合、どのようなことになるのかについて説明しました。
家計の立て直しをする以上、少しでも手元に財産を残して債務整理したい…という気持ちはあると思いますが、嘘が悪質な場合は、債務整理の手続きが厳格化される可能性があります。
そうなると余計な時間や費用がかかり、手続きが途中で打ち切られてしまうこともあります。
更に、破産法には「詐欺破産罪」というものが定められており、1ヶ月以上10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が課せられる重い罪になります。
財産の隠匿などでも、悪質であれば詐欺破産罪にあたることがあります。
借金は他人に話しづらい内容です。
初めて会う弁護士に正直に言いづらい気持ちもあるでしょう。
しかし、弁護士は借金についてたくさんの悩みを相談され、解決しているプロの専門家です。正直にお話していただければ判断を誤ることはまずありません。
先述のとおり裁量免責制度があるので、多少ギャンブルや浪費などの問題行為があっても正直に申告すれば、裁判所は免責を出してくれることも多いです。
一方、嘘の申告をされてしまうと正しい判断ができず、結果的にご依頼者様の不利益になってしまいます。
自分に不利なことを伝えたとしても、弁護士には守秘義務があるため外部に漏れることは絶対にありません。
ぜひ安心してお問い合わせください。