任意整理を行った後、病気や怪我、あるいは解雇などの理由で収入が減少することがあります。このような状況では、和解契約に基づく支払いを続けることが難しくなることも少なくありません。
そのゆな任意整理での完済が難しい場合には、任意整理から自己破産への手続の切り替えを考えることが有効な手段となります。
任意整理から自己破産に手続きを変更することで、借金の支払い義務が免除され、効果的に借金問題を解決できる可能性があります。しかし、自己破産前に行っていた任意整理が免責不許可事由に影響する可能性があるため、注意をするべきでしょう。
さらに、自己破産の際には、自分の財産が処分される可能性があることも理解しておくべきです。例えば、自宅や貯金が取り上げられることがあります。この点をよく考慮することが重要です。
そこで、本記事では
- 自己破産への切り替えの可否
- 自己破産へ切り替えることによるメリット・デメリット
- 自己破産へ切り替える場合に注意すべき点
について解説します。
目次
任意整理では返済は無理!自己破産への切り替えはできる?
任意整理から自己破産への切り替えはできるの?
そもそも、任意整理ができなくなった場合、自己破産に切り替えることは可能なのでしょうか?
結論を先に言えば、任意整理から自己破産への切り替えは可能です。
任意整理から自己破産への切り替えが認められるためには、自己破産をできる条件を満たしていることです。主に以下の三つの要件を満たしていることが求められます。
- 支払不能又は債務超過であること(破産法第15条,同法第2条11項)
「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、支払いの時期に返済が出来ない状態が継続していることをいいます。具体的には、収入や財産が不足しており、返済の見込みが立たない状態です。 - 借金が非免責債権でないこと(破産法第253条)
自己破産をしても免除されない借金のことを「非免責債権」といいます。これには、税金や国民健康保険料、養育費などが含まれます。非免責債権は免責されないので、支払い義務は残り続けます。 - 免責不許可事由に該当しないこと(破産法第252条)
免責不許可事由とは、特定の行為などがあった場合、免責を認めない理由となることを法令で認めた事由です。たとえば、財産の差し押さえを逃れるための行動や虚偽の情報を提出することです。ただし、破産法第252条第2項では、裁判所が一切の事情を考慮して免責を許可することが出来ると定められています。そのため、免責不許可事由に該当するから破産はできないというわけではない点に注意してください。
これらの条件の中でも最も重要なのは、「支払不能であること」です。そして、支払い不能と言えるためには、完済の見込みが立たないことが必要です。
- 借金額が収入を大きく上回っている
- 総資産の売却をもってしても借金完済が見込めない
- 最低限の生活費を考慮すると、返済原資が十分に満たない
- 借金の原因が生活が困難や医療費などのやむを得ない事情であったこと
このような場合には支払不能と判断されやすくなります。
任意整理から自己破産への変更でも「支払不能」は重要な条件
自己破産への切り替え前に任意整理をしていても、この「支払不能」であることが重要となります。
例えば、債務整理の方法として任意整理を選んでも、思っていたよりも借金の額が多かったり、途中で仕事を失って収入が減ってしまったりすると、任意整理での返済が難しくなる場合もあるでしょう。また、病気になって医療費がかさんでしまい、返済が厳しくなるケースもあるでしょう。
このような状況であれば、支払い不能と判断される可能性があると言えるでしょう。
なにより、支払い不能の状況下で、無理して任意整理を続けても、毎月の支払いが大変な状態が続くと、本来の目的である生活の立て直しが達成できなくなってしまいます。債務整理において、何より大切なのは、借金を抱えている人が安定した生活を取り戻すことです。これは、破産法の目的でもあります。(破産法第1条)
任意整理と言う手段では、債務者の経済的な安定という目的が実現できないのであれば、他の選択肢を考えることが必要不可欠でしょう。そんな時は、自己破産への方針変更が認められる可能性は高いと考えられます。
任意整理から自己破産に切り替えるメリット
そもそも、任意整理と自己破産の違いとは?
そもそも、任意整理と自己破産の違いはなんでしょうか?
任意整理は、将来の利息をカットしたり、返済方法を変更したりすることで、毎月の負担を減らす手続きです。つまり、借金を完済することを前提としています。
一方、自己破産は、裁判所から免責許可決定を受けることで、原則として借金をゼロにできる手続きです。つまり、借金の支払いを免除してもらうことが目的なのです。
言い換えると、任意整理は返済条件の変更の手続きで、自己破産は支払いの免除の手続きだといえるでしょう。
自己破産は、借金を大幅に減額できるという点で強力なメリットがあります。しかし、その一方で、財産の処分などの大きなデメリットを覚悟しなければいけない手続きでもあるのです。
これに対して、任意整理は、日常生活に生じるデメリットが比較的小さいのが特徴です。ただし、支払いを継続する必要があり、借金減額効果という観点では効果は限定的でしょう。
つまり、任意整理から自己破産に切り替えることで、借金地獄からは脱却できるものの、日常生活にはいろいろな不具合が生じる可能性があります。
このように、自己破産には借金を大幅に減額できるというメリットがある一方で、様々なデメリットがあることも事実です。任意整理から自己破産に切り替える際には、これらのデメリットを十分に理解し、覚悟しておく必要があるでしょう。
自己破産 | 任意整理 | |
借金減額効果 | 原則、借金全額の返済を免除 | 利息・遅延損害金のカットが中心 |
手続き後の返済 | 不要 | 必要 |
手続き期間 | 半年~2年程度 | 1~3ケ月 |
財産の処分 | 必要 (一部の自由財産は残せる) | 不要 |
裁判所の利用 | 必要 | 不要 |
家族への影響 | 同居家族や、家族からの借り入れがある場合は影響あり | 同居家族等に影響なく進められる |
手続きの対象 | 全ての借金 | 債務者が自由に選べる |
連帯保証人への影響 | 避けられない | 配慮可能 |
仕事への影響 | 手続き中、職業制限を受ける仕事はある | なし |
自己破産の大きなメリットは借金の返済免除
自己破産には、いくつかの大きなメリットがあります。
まず、免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産開始決定前に生じた借金やローンなどの債権について、返済の義務を免除されることとなります(破産法第253条)。
これにより、借金の返済をする必要がなくなるほか、債務者は借金の返済に悩まされることがなくなります。
自己破産は、借金返済で困っている方にとって非常に強力な手段です。正しい手続きを踏むことで、再出発のチャンスを得られるでしょう。もし、任意整理や他の手段での解決が難しい場合は、自己破産を検討してみる価値があります。
督促や請求、強制執行を受けることがなくなる
さらに、破産手続開始決定がなされると、特別の定めがある場合を除き、破産手続きに則らずに破産債権を行使することはできなくなります(破産法100条1項)つまり、債権者は借金を返せと請求や督促をするこことが出来なくなるということです。
これは、強制執行が行われている場合でも同様です。自己破産の手続きが開始されると、個別債権の行使はすべて停止され、強制執行は失効します(破産法第249条)。これにより、債権者が個別に権利行使することができなくなります。また、破産手続きの開始後に払ってしまったお金などは、不当利得として返還請求の対象となり、取り戻すことが出来るのです。
ただし、払ってしまった借金や、既に執り行われた強制執行は失効しないため、否認権の行使(破産法第160条)が認められない限りは取り戻すことはできません。そのため、しっかりと状況を把握しておく必要があります。
また、お金を取り戻せるからと言って、それが必ずしもあなたのものになるわけではなく、財団債権として債権者に配当される(破産法第191条等)可能性もあることには注意しましょう。
任意整理から自己破産に切り替えるデメリット
手続きの対象外にしていた債権者も含めなければならない
自己破産に切り替える際の第一のデメリットは、任意整理の対象外にしていた債権者も含めなければならないことです。
任意整理では、手続きの対象に含める債権者を自由に選択できます。そのため、保証人がいる債務や不動産担保のある債務を除外して手続きを進められるのです。
しかし、自己破産は裁判所を利用した手続きになるため、「債権者平等」の原則が強く求められます。
そのため、全ての債権者を自己破産手続きの対象に含めなければならないのです。
つまり、保証人が付いている債務の返済義務は、保証人に移ることになります。そして、保証人に対して一括請求されてしまうのです。
また、担保にしていた不動産は、競売に掛けられてしまう可能性もあります。
このように、任意整理から自己破産に切り替えると、任意整理の対象外にしていた債権者にも影響が及ぶことになります。保証人や担保不動産に悪影響が生じる可能性があるのです。
そのため、自己破産への切り替えを検討する際には、これらの悪影響を十分に考慮する必要があります。
保証人に迷惑をかけたくない場合や、担保不動産を守りたい場合は、任意整理を続けるべきかもしれません。一方、借金問題を早期に解決したい場合は、自己破産を選択することも考えられます。
生活必需品等を除く財産を処分しなければならない
自己破産手続きでは、借金全額の支払い義務の免除を受けられるという強力な効果がある一方、手続きを利用するためには特別の制約があることに注意が必要です。
まず、所有する財産の処分が必要である(破産法第34条)という点です。自由財産に含まれない住宅や車等の財産は、すべて手放さなければなりません。自己破産の手続きでは、一定以上の価値のある財産や資産を清算し、借金の返済に充ててもなお、借金を返しきれないことを証明する必要があるのです。
そのため、自宅や車、保険等、清算すれば金銭に換算できる可能性があるものを手元に残したまま自己破産をすることはできません。
ただし、すべての財産を売却清算の対象としなければならないわけではありません。例えば、大工をしている人が破産をするとします。この人が破産を認められるために工具まで売らなければならないとなると、仕事ができなくなってしまいます。これでは、破産法の趣旨である「債務者の経済的再生」を図ることができないのです。
そこで、破産法第34条第3項では、手元に残せる財産(自由財産)を規定し、例外的に破産者の手元に残せる財産を定めています。自由財産の例としては、破産手続き後に取得した財産、差押禁止財産、99万円以下の現金等があります。
つまり、自己破産をする際には、自由財産以外の財産はすべて処分しなければならないのです。これは、債権者に対して公平に弁済するためであり、自己破産の制約の一つといえるでしょう。
自由財産の例としては、破産手続後に取得した財産、差押禁止財産、99万円以下の現金等などがあります。なお、自由財産の詳細は以下の記事をご参照ください。
官報に掲載される
自己破産では、「破産手続開始後」と「破産手続廃止及び免責許可決定後」の際に官報に氏名や住所が掲載されます。(破産法第32条,同法第217条第4項)
そのため、官報を読んでいる人には、自己破産をしているという事実を知られてしまうリスクはあります。
任意整理で支払ったお金が無駄になる
任意整理から自己破産に切り替える際には、任意整理で支払ったお金が無駄になるという点も考慮しなければなりません。
債務整理をする際には、弁護士等の専門家に依頼をすることがほとんどですが、この場合には着手金等の報酬を支払う必要があります。これらのお金は、任意整理から自己破産へ切り替えたとしても、返還されることはありません。例えば、任意整理の着手金が30万円かかったとしましょう。仮に、全社和解が済んで返済をしていたところで自己破産をした場合は、30万円は返還されず、自己破産の費用を追加で支払わなければならないのです。
また、任意整理の場合は借金の元金の支払いは必要になることから、例えば、500万円の借金があり、任意整理で3年間、毎月5万円ずつ返済したとして、その後、自己破産に切り替えたとしても、すでに払った180万円は戻ってきません。任意整理中にいくらか借金を払ってから自己破産に切り替えても、それまで返済していたお金が戻ってくるわけではないのです。
実際、何年も任意整理を続けてから自己破産に切り替えた人もいます。彼らは、多額のお金を返済して借金を減らしてから破産しているのです。
そのような事例を見ると、最初から破産をしておけば返済総額は少なかったのにと思ってしまいます。
そのため、自己破産への切り替えを検討する際には、これまでの返済額が無駄になることを理解した上で、今後の見通しを立てることが必要となるのです。
任意整理を続けることで借金を確実に減らせる見込みがある場合は、任意整理を続けるべきかもしれません。一方、返済が困難な状況が続くようであれば、早めに自己破産に切り替えることで、無駄な返済を避けられる可能性があります。
任意整理で返済ができなくなった場合、自己破産に切り替えることも可能!
切り替えのメリットは、任意整理では完済できない借金の問題を解決できること
デメリットは手続きをする債権者を選べないこと、任意整理で支払ったお金は無駄になること、財産の処分が必要なこと
任意整理から自己破産に変更する際の注意点
任意整理から自己破産に変更するときには、はじめから自己破産を利用して債務整理を行うのとは違ったデメリットが生じる点に注意をしなければいけません。
具体的には、次の2点がポイントです。
- 任意整理後に自己破産を申し立てても免責されない可能性がある
- 自己破産の費用をふたたび用意しなければいけない
それでは、それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
任意整理後に自己破産を申し立てても免責されない可能性がある
まず、任意整理後に自己破産を申し立てても、免責されない可能性があることは重要な注意点です。自己破産は債務者に大きなメリットをもたらす一方、債権者に負担を強いるものです。そのため、誰でも当然に免責許可されるわけではありません。
裁判所は、本当に救済が必要かどうかを破産手続きを通じて見極めてから、免責許可決定によって返済免除を与えることとなります。ただ、中には、
- 財産隠しをしようとした
- 換金行為を繰り返した
- 特定の債権者だけにお金を返して破産しようとした
- 借金の原因がギャンブルや浪費、無駄遣いだった
- 返済可能性がないのにもかかわらず、詐欺的な借り入れをした
というような、「こんな人に免責を認めるのは正義に反する」と思われる行為が存在します。そこで、法律では「免責不許可事由」という、免責を与えない事情を定めています。(破産法第252条)
この免責不許可事由に該当する事実があれば、原則として破産手続きの申立てをしても借金の返済義務が残ることになるのです。
実は、任意整理後の自己破産は、この免責不許可事由の一つである、破産法第252条第1項第3号に該当する場合があります。つまり、特定の債権者を優先して返済を進める行為(偏頗弁済)が問題になるリスクがあるのです。
これは、任意整理は対象とする貸金業者を選べるため、一部の貸金業者には返済を続けながら、他の貸金業者には支払いをストップすることがあるからです。任意整理から自己破産に切り替える前に、特定の債権者を優先して返済し続けていると、偏頗弁済を疑われる可能性があるのです。任意整理から自己破産に切り替える際は、偏頗弁済を疑われないように注意する必要があります。
ただし、任意整理後にきちんと返済を続けており、最初から意図して自己破産に切り替えたわけでなければ、基本的には問題になることはありません。
また、仮に偏頗弁済行為と見なされて免責不許可事由に当たると指摘をされても、破産法252条第2項では「裁量免責」を認めています。裁量免責とは、免責不許可事由があったとしても、裁判所の判断によって免責許可を与える制度です。
例えば、債務者が十分に反省していること、破産手続きに協力的な姿勢であること、生活再建に向けて真摯な姿勢を見せていることなどの個別の事情を総合的に考慮して、自己破産で更生の道を与えても良いと判断されると、裁量免責が認められることになります。
ただし、裁量免責は必ず認められるわけではなく、免責審尋などの態度によっても裁判所の印象が違う可能性があります。
自己破産の費用をふたたび用意しなければいけない
任意整理から自己破産に切り替える際には、費用面でのデメリットについても、十分に理解しておく必要があります。これまでの任意整理の費用や返済が無駄になるだけでなく、自己破産にも多額の費用がかかるのです。
任意整理で専門家に着手金(場合によっては成功報酬も)を支払っている場合でも、自己破産を依頼するときには別途着手金・成功報酬・裁判所への費用が必要になるのです。
自己破産をするだけでも、弁護士への報酬や裁判所への予納金等がかかるため、任意整理の費用が無駄になってしまうのは大きなデメリットと考えられます。
もちろん、任意整理後に問題が生じてしまったために自己破産を余儀なくされた場合は仕方のないことです。ただ、できれば最初から自己破産一本に絞って債務整理手続きに踏み出すのが理想でしょう。
まとめ
任意整理から自己破産への切り替えは、支払不能の状態にある場合に可能です。
自己破産には借金の支払い義務を免除できるという大きなメリットがありますが、一方で財産の処分や信用情報への影響などのデメリットも伴います。
切り替えの際には、任意整理の対象外だった債権者も含めなければならないこと、これまでの返済額が無駄になること、免責が認められない可能性があることなどに注意が必要です。
また、自己破産には多額の費用がかかるため、任意整理の費用に加えて自己破産の費用も用意しなければなりません。
自分の状況をよく見極め、弁護士など専門家のアドバイスを参考にしながら、最適な選択をすることが重要です。できれば最初から自己破産一本で手続きを進めるのが理想ですが、状況に応じて適切な方法を選ぶことが、借金問題の解決につながるでしょう。