債務整理の前とは言っても、普通の買い物程度であれば、それによって債務整理の障害になったり、問題が生じることはほとんどありません。
ただ、買い物と言っても現金で一括で支払うもの、クレジットカードを利用するもの、ローンを組むもの、お金を借りて購入するケースなど様々あり、借金をして物品を購入することや、金額によっては債務整理に不利益となる場合があります。
この記事では、債務整理前の買い物が問題を起こす場合と、問題になるケース、問題がない買い物について解説していきます。
債務整理前にお金を借り入れしたらどうなるか?や、債務整理中にお金を借りてはいけない理由については、以下の記事をご参照ください。
債務整理前に買い物はしてもいい?
前提として、自分で稼いだお金で、「常識的な範囲」の買い物をすることが問題となることはありません。
また、カードの利用やキャッシングによる借り入れを伴う、債務整理前の買い物であっても、「常識的な範囲」の買い物をすることは、問題化する可能性は小さいでしょう。
では、どのような買い物が「常識的な範囲」と言えるのでしょうか?
基準として「日用品の購入や光熱費等の必要費の支払い程度ならば問題にならないことが多い」「債権者が問題視するような買い物はしてはいけない」と考えられます。
つまり、債権者が「このような買い物は問題だ」と意見を述べるような場合は、手続きがうまく進まないリスクが生じてしまうということです。
債務整理中に債権者が意見を述べることが出来る場合とは?
債務整理手続中、債権者はいろいろな段階で意見を述べたり、手続きを認めるかどうかを判断することができます。
例えば、自己破産の手続中には、免責に関する意見を債権者が述べることのできる意見申述制度というものがあります。これは、裁判所に対して「この人はこんな理由でお金を借りているのに、自己破産を認めるのは不当だ」という意見を表明できる権利です。
また、個人再生の手続中には、再生計画の策定段階で、過半数以上の債権者が再生計画に賛成する必要があります。お金の使い方が問題だと感じる債権者が多ければ、個人再生が認められづらくなるということです。
さらに、任意整理の場合は、和解をするかどうかは債権者の意思によるものです。ですので、このような場面で問題となるようなお金の使い方や買い物をしていると、相手が合意をしてくれないリスクが高まるということです。
債務整理前の買い物が問題になる可能性のあるケース
上記の通り、債務整理前の買い物は、債権者が問題視しないような「常識的な範囲」であれば、問題は大きくはないと考えられます。
では、具体的にはどのようなケースで、問題視されるような買い物となるのでしょうか?
必要以上の高額な買い物
問題のあるケースの一つ目は、必要以上に高額な買い物をしてしまうことです。
例えば、自己破産をすることを見越して、貯金を使い切ったり、定期預金や生命保険を解約して返戻金を使ってしまうようなケースが考えられます。
そもそも、債務整理は、「借金を返すことが出来ないので、返済条件を変えてください」ということを、債権者に直接交渉したり、裁判所を通じて法的に評価してもらう手続きです。
必要以上の買い物が出来るお金はあるのに、「借金は返せません」というのは通らないということです。
必要以上の高額な買い物は自己破産で特に問題になる
このような返礼金や現金を使い切ってしまうケースと言うのは、特に自己破産の際に問題になり得ます。
破産法では、債務者が不正な行為をした場合には借金の免除を認めないという「免責不許可事由」として規定しています。
そして、破産法252条1項1号では、自己破産手続きの直前から概ね2年程度前までの期間に、手元にあるお金や価値のある財産を処分することは、免責不許可事由に該当すると規定しています。
例えば、
- 自己名義の口座のお金を配偶者や子供の口座に移して隠した
- お金を無条件で他人に譲った
- 口座にあったお金を自己破産前に使い切ってしまう
このような行為が「処分」に当たる可能性があるのです。
ただ、債務整理をする人は、そもそも借金を返しきれるほどのお金がないから債務整理をするのであって、貯金やお金が返ってくる定期預金、生命保険があったら、借金が膨らむ前に返してしまうのが普通の行動でしょう。
ですから、手元にある現金や返戻金等を使い切ってしまうようなケースは例外的だと言えるかもしれません。
クレジットカードを利用した買い物
第二に「クレジットカードを利用した買い物」をすることが、問題となる場合があります。
例えば、
- 債務整理をすることを見越して、利用可能限度の残りの枠をすべて使い切る
- 数十万円するようなスマートフォンを購入する
- 飲食店などで高額の支払いをする
などのケースです。
そもそも、クレジットカード会社が債務者にカードの利用を許すためには、「使った分は約束どおり返済してもらう」という前提があります。
債務整理をする予定であるのにもかかわらず、クレジットカードを駆け込みで利用するということは、「カードを使った分を約束通りに払うつもりはない」というように判断をされてしまっても仕方ありません。
債務整理前のクレジットカードの利用も自己破産で問題になる
債務整理前のクレジットカードの利用も、自己破産手続きを行う場合に、特に問題になる可能性があり得ます。
先ほどもご紹介しました免責不許可事由の問題となり得るためです。
例えば、破産法252条1項5号では、破産開始までの過去一年間に、破産をするとわかっていながら、相手を騙して信用させて財産を得る行為をした場合は、借金の免除を認めないという規定をしています。
自己破産をすることを知りながらクレジットカードを利用することは、まさに相手を騙して財産を得る行為といえるため、特に問題視されてしまうリスクがあるのです。
任意整理にも悪影響を及ぼす
また、債権者と直接に交渉をして返済条件を変更してもらう任意整理という手続きでも問題となる場合があり得ます。
クレジットカード会社と交渉する際には、相手方は「クレジットカードの利用履歴」を持っています。
そのため、「依頼の前に駆け込みでカードを使った」ということが明るみになると、不当なクレジットカードの利用をしたとして、任意整理に応じなかったり、長期の分割払いを認めてもらえないこともあり、和解内容に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
キャッシングでお金を借りて買い物
債務整理前に、消費者金融などからキャッシングをして買い物をするケースも問題となりえます。
キャッシングローンもクレジットカードと同様に、「借りたお金はちゃんと返す」という約束で契約をしています。
それにもかかわらず、債務整理をすることをわかっていてお金を借りるということは、「契約通りに返済をするつもりがなかった」と言われてしまうことがあるということです。
先ほども述べたように、このような借り入れは破産法252条1項5号の「詐術による信用取引」に該当する可能性があり、免責不許可事由となりえます。
また、任意整理の際にもクレジットカードと同様の問題を生じる原因ともなるのも、クレジットカードと同様です。
実際にあったケースですが、消費者金融A社の債務整理をすると決めた後に、手続を始める前に、借り入れ上限までの融資枠50万円ほど残っていたことから、この全額を引き出してしまったということがあります。
A社は大変にお怒りになって、「絶対に和解しない」「民事訴訟のみならず、刑事事件として告訴する」と強気の姿勢に出たため、和解交渉は非常に難航しました。
結局、この案件では、任意整理前に借り入れた全額を頭金として一括して返済することで和解をしましたが、このようなトラブルの原因となる借り入れは、決して行うべきではないというよくわかるでしょう。
債務整理前にお金を借り入れしたらどうなるかについては、以下の記事をご確認ください。
買い物の際にローンを組んだ
ローンを組んだ買い物が、債務整理の障害となるケースも存在します。
信販会社でローンを組んだ際、「返済が出来なかったときや、債務整理をするときには、購入した物品を返還する」という契約となっていることがあり、これを「所有権留保」といい、車のローン、着物や装飾品などの高級品の分割購入のローンに、この条項が付いていることが多いです。
自己破産や個人再生の前に所有権留保のあるローンを組んだ場合、物品を返還したうえで、不足があるときは残りの借金を返済しなければなりません。
また、ローンを組む際には、保証人を付けることを条件とされたり、担保を供与することを求められる場合があり、債務整理の手続きが複雑化するリスクがあります。
そのため、債務整理に前に買い物の際にローンを組むことは望ましくないと考えられます。
買い物の際に保証人を付ける
保証人とは、主たる債務者が借金やローンの返済が出来ないときに、主たる債務者の代わりに支払いをする義務を負う人のことです。
保証人が付いている借金やローンを債務整理の対象とすると、保証人に請求がいくこととなりますから、自己破産や個人再生の前に保証人を付けるような買い物をすることは、保証人に借金を押し付ける行為となる可能性があるほか、保証人となってくれた家族や知人に債務整理をしていることを知られてしまうきっかけになりかねません。
借金問題はセンシティブな問題ですから、他人に知られたくないと思う方が多いのも事実です。
借金を知られたくない、保証人に迷惑をかけたくないと考えているのであれば、債務整理前に保証人をつけるような買い物をするべきではないでしょう。
債務整理前の買い物が問題になる可能性が低いケースとは?
ここまでは、債務整理前の買い物をした際に、問題が起きる可能性があるケースを紹介してきました。
これらは、債務整理の手続きに悪影響を及ぼす可能性があるため、穏当に債務整理を終わらせたいと考えている場合は、避けるべき事柄と言えるでしょう。
ただ、もしも債務整理前に一切の買い物が禁止されてしまったら生活が出来ません。
それに、多くの人は公共料金や携帯電話代をカード払いに設定したりすることも多く、どうしても引き落としなどが発生してしまう可能性はあるでしょう。
では、どのような買い物やカードの利用であれば、問題が生じないのでしょうか。
日用品の購入や、必須のお金を支払う
まず、日用品の購入や、必須のお金を支払う場合のカードの利用などであれば、問題になる可能性は低いと言えます。
例えば、
- 債務整理前に、クレジットカードで光熱費や家賃の引き落としがあり、変更が間に合わない
- 給与日までの1週間分の食費や日用品代等の必要費の借入
といった場合であれば、大きな問題とはならない可能性が高いと言えます。
建前を言えば、債務整理をすると決めた後は、カードの利用等は止めて、必要なものは現金で支払いをするのが理想的ということです。
ただ、現実的な話をすれば、電気もガスも水道も止まった家で生活するわけにはいきませんし、家賃の支払いを滞納すれば、数か月後には追い出されてしまいます。
食事をしないと生きていけませんし、トイレットペーパーなしでトイレに入るわけにもいかないでしょう。
また、現代では支払いの多くをクレジットカード払いに頼ることがあり、支払い方法の変更を済ませる前に、支払日が来てしまうことも決して珍しくありません。
クレジットカード会社や消費者金融も、このような日用品の購入や生活に必要なお金の支出に関しては、争わないことが多いように感じます。
ただし、カードの利用を推奨するわけではありませんので、その点には注意をしましょう。
ローンを組んだ場合で任意整理を選ぶとき
第二に、ローンを組んだ場合で、任意整理を選ぶときです。
任意整理は自己破産や個人再生と異なり、手続きの対象を債務者が選ぶことができます。
たとえば、消費者金融A、B、C社から借り入れをしている場合、A社のみを対象にすることも、A、B、C社をまとめて対象にすることもできます。
そのため、債務整理前に信販会社D社でローンを組んだ場合でも、A、B、C社だけを債務整理の対象とし、D社については従来通りに返済を続けることができます。
しかし、このことはあくまで「手続き上は問題ない」という側面に過ぎません。
2、3年で返済すべきローンを組むとすると、任意整理を行った後に、D社に加えて、A、B、C社に対して返済が必要となり、結局、債務整理のメリットが限定的になり、返済の負担が増加する可能性があります。
そのため、任意整理を検討する前にローンを組んで買い物をすることは、手続き上の問題はないかもしれませんが、決しておすすめできない選択であることはご承知おきください。
債務整理すると決めたら、クレジットカード等は使わないのが得策
債務整理の前に買い物をすること自体は、問題がないと言えます。ただし、借り入れを伴う買い物には、注意が必要だと言えるでしょう。
債権者が問題視する可能性がある借り入れやカードの利用は、債務整理をすると決めた後は、手続き上も、道義的にも問題となるリスクがあることから、たとえ少額であっても避ける方が無難だと言えるでしょう。
そもそも、債務整理は借金問題を解決するための方法であり、カードの利用やキャッシングは借金を増やす行為です。
たとえて言うなら、債務整理前の借り入れは、車のアクセルを踏みながら、ブレーキを踏むような行為なのです。
債務整理をすると決めたら、二度とカードは使わず、キャッシングをしないと心に誓い、きっぱりと利用を辞めることです。
それが、理想的な姿と言えるでしょう。
まとめ
一般的に言えば、借金をしていない買い物や、常識的な範囲での買い物は問題になりません。
しかし、債務整理前の買い物が問題になる可能性のあるケースも存在します。
例えば、手持ちの現金をすべて使い果たしてしまうような必要以上の高額な買い物や、債務整理前にクレジットカードを利用した高額な買い物などは、問題となることがあります。
また、キャッシングでお金を借りて買い物をすることも、あまりに高額な借り入れがあると、問題となってしまいます。
さらに、手続き上は、買い物の際にローンを組んだときや買い物の際に保証人を付けるときには、手続き上の問題が生じる恐れがありますので、避ける方が良いでしょう。
一旦債務整理を決定した場合、クレジットカードなどの借金を増やさないよう注意することが賢明です。