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事案の概要
ファクタリング利用者が、債権の存在を偽装し、ファクタリング会社との間で譲渡契約を締結した事案として、東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第39127号、令和元年(ワ)第26420号を紹介します。
この事案では、ファクタリング会社が、利用者(法人)及び法人の代表者に対して、損害賠償請求権を行使しました。
地方裁判所の判断においては、ファクタリング会社が勝訴しましたが、この事件は、控訴され、東京高等裁判所令和2年(ネ)第2146号事件において、ファクタリング会社が敗訴することになりました。
この事例では争点は他にもありますが、ここでは、ファクタリングに関する論点に絞り解説していきます。
この記事は、弁護士赤瀬康明(東京弁護士会)に監修して頂いております。https://www.bengo4.com/tokyo/a_13113/l_198854/
地方裁判所の判断
ファクタリング利用者の主張
ファクタリング利用者は、「第三債務者からの回収不能のリスクをファクター(債権を買い取る者)が引き受けるノンリコース型ファクタリングは、債権の単なる売買であるため許認可は不要であるが、上記リスクをオリジネーター(原債権者)に負わせるリコース型ファクタリングは、貸金業法の規制を受ける。」
「本件債権譲渡契約は、・・・(第三債務者)が弁済しなかった場合の解除権が規定されているから、ノンリコースの性質を有しない。」
「また、ファクタリング会社は、利用者に預金通帳を質入れさせていた。」
「このよう(な)・・・ファクタリングは、実質的には高利のヤミ金融であり、貸金業法42条に違反して無効である。」
「民法708条は、不法行為に基づく損害賠償請求の形をとっても類推適用されるから、原告の請求は棄却されるべきである。」と主張した。
民法708条は「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」と規定されています。
これは、クリーンハンズの原則と呼ばれていて、法は不法なものには力を貸さないというものです。
教科書などの典型例としては、賭博などが紹介されています。
賭博で負けた人が、賭け事は公序良俗で無効であり、ベッドした掛け金を返せと主張したしても、その返還請求は認められないということです。
本件で、ファクタリング利用者は、平たく言えば、お前らのやっていることは貸金業の免許がないので、たとえ、こちらが譲渡した債権が仮装債権で詐欺であったとしても、法は助力するべきではない。
つまり、損害賠償の支払責任は負わないと主張しました。
ファクタリング会社の反論
これに対して、ファクタリング会社は、「本件は、債権譲渡契約の前提となっている債権の存否に関する被告らの詐欺行為を問うものであって、債権譲渡契約自体の適否は、不法行為の成否に関連性がない。」と反論しました。
これも平たく言えば、債権譲渡契約が有効無効に関係なく、お前らは詐欺しているのだから、損害賠償責任を負えよという主張です。
結論とその理由(裁判所の判断)
地方裁判所は、ファクタリング利用会社の主張を退け、ファクタリング会社の請求を認めた。
双方の以上の主張反論に対して、「仮に(ファクタリング利用者)の上記主張を前提としても、本件請求は、(第三債務者が弁済しなかった場合の)解除権等に基づくものではないし、高利を請求するものでもない。」
「(ファクタリング利用会社)は、上記のとおり、実際には不存在である債権の存在を仮装して、ファクタリング会社をそのように誤信させ、・・・万円を騙し取ったもので、自らの故意に基づき積極的に詐欺行為を行ったものであり、その違法性は極めて高いと言わざるを得ない。」
「したがって、このような場合に、民法708条を類推適用して被告Y1らに対する請求を棄却すべきであるとは直ちに言い難い・・・」と判断した。
高等裁判所の判断
結論とその理由
高等裁判所は、地方裁判所の結論と異なり、ファクタリング会社の請求を認めませんでした。
民法708条が類推適用されました。
具体的には、「(ファクタリグ会社が支払った売却代金は)不法の原因に基づくものというべき・・・」
「その不法性は、(ファクタリング利用者)による詐欺行為と比較しても決して軽微なものということはできない・・・」と判断した。
不法の原因に基づくと判断した理由について
高等裁判所は、本件は貸し付けに該当するので、「ファクタリグ会社が売却代金を支払ったことは貸金業法及び出資法に違反し、刑事罰の対象になるものであるから、不法の原因に基づくものというべきである」と判断しました。
貸し付けに該当するとして理由としては、
・本件債権の回収は、ファクタリング会社ではなく、譲渡人・・・が行うものとされていること。
・本件債権の債務者が弁済期日に弁済をしなかった場合には、ファクタリング会社は催告なく解除することができるものとされており…したがって、少なくともファクタリング会社が利用者に対して支払った譲渡代金額分については、利用者からの回収可能性が確保されていること。
・債権譲渡について、債務者に対して通知はされず、債務者の承諾を得ることもなかったこと。
・本件債権の支払いがなった際、本来その支払義務を負わない債権の譲渡人であるファクタリング利用者に本件債権の債権額以上の金額とこれに対する完済までの年20パーセントの割合による遅延損害金を支払って、これの公正証書を作成していること。
以上のことから、ファクタリング会社は、債権の譲受人として通常すべき行為はせず、債権の譲受人が負担すべき債権不払の危険も負担せず、これらの行為をし、危険を負担するのは、ひとえに債権の譲渡人であることの4つの理由を挙げています。
ファクタリング会社はどうすれば良かったのか
相手方が詐欺をしたのに、結論は妥当なのかという印象も受けますが、ファクタリング会社に貸金業法の違反があり、この不法性は詐欺と比べても軽微なものではないと判断された結果ということになります。
貸し付けに該当するという理由として、売掛金(債権)の回収はファクタリング利用者が行うものとされていたことを要素として挙げていますが、いわゆる2者間ファクタリングの場合には、債権譲渡の事実を債務者に知られたくないという利用者のニーズによるところが大きく、これらの事実を貸し付けと判断したことは、ファクタリングに対する世間のニーズを裁判所が理解していないのではないかと思ってしまいます。
むしろ、ファクタリング会社が、債権の譲受人として通常すべき行為はせず、債権の譲受人が負担すべき債権不払の危険も負担していなかったこと、つまり、約定の弁済日に債務者からの支払いを受けなったことを前提に、契約を解除して、売買代金相当額の返還を受けられる状況にしていたこと、それを裏付けるために、利用者との間において、弁済契約書を取り交わしていたことだけの説明で足りていたのではないかと思うところではあります。
それでは、ファクタリング会社としてはどうすれば良かったのかということですが、この判例を前提にすると、債権の譲受人として通常すべき行為をしていれば良かったということになります。
ここでは、債務者から売掛金(債権)の回収が不能だった場合に、債権売買の契約を解除し、売買代金相当額を返還させるなどの条項(リコース条項)を設けておき、回収リスクをファクタリング利用者に負わせるような契約をしていてはダメだったということになります。
売掛金(債権)の売買なので、回収リスクをファクタリング会社が取るべきということです。
ファクタリング会社としては、上記のような条項を置くべきではありません。