事案の概要
ファクタリング利用者が、ファクタリング会社に売掛金(債権)の売買は、実質的にみて金銭消費貸借契約に当たり,貸金業法42条1項により無効であるとして、売買代金相当額の返還を求めた事件として、令和2年(ワ)第32094号不当利得返還請求事件を紹介します。
なお、ファクタリング会社は破産手続きに入り、その手続きの破産管財人がファクタリング会社に売買代金相当額の返還を求めた事例です。
ここでは、ファクタリング利用者が請求したものとして説明します。
この事例の請求の根拠は、ファクタリング利用者が取引先に対して有していた売掛債権等を被告に譲り渡し、被告からの委任を受けて同債権を回収して債務者からの弁済金を被告に支払うという取引について、実質的にみて金銭消費貸借契約に当たり、貸金業法42条1項により無効であるという主張となります。
要は、取引の実態を前提に貸し付けに該当するのかという点が争われました。
結論とその理由だけを確認したい方は、裁判所の判断を見てもらえたら幸いです。
※この記事は、弁護士赤瀬康明(東京弁護士会)に監修して頂いております。https://www.bengo4.com/tokyo/a_13113/l_198854/
前提事実
被告となったファクタリング会社は、いわゆる二者間ファクタリングを業とする株式会社であり、貸金業法3条1項所定の登録を受けていませんでした。
ファクタリング利用者とファクタリング会社は、利用者が取引先に対して有する売掛金(債権)を被告に売り渡し、ファクタリング会社がこれを買い取ることにつき,売掛債権売 買基本契約書を締結し、ファクタリング会社が,本件債権売買基本契約に基づき利用者から買い取った債権の管理事務や回収事務等を利用者に委任し,利用者がこれを受任することにつき,事務委任契約書を締結していました。
ファクタリング会社は,破産会社から本件債権売買基本契約に基づいて買い取った売掛債権等につき、債権譲渡の通知を留保し、利用者は,本件事務委任契約に基づき,売掛債権を債務者から弁済金を受領し、同受領により回収した金員全額をファクタリング会社に支払う義務を負っていました。
ファクタリング会社は、利用者との間で2度の取引をしました。
利用者側の主張
二者間ファクタリングは,被告が破産会社の資金需要に応じて資金を融通するという金消費貸借契約と同様の経済的機能を有しており、貸金業法上の貸付けに該当する。
一定の場合に借主の返済義務ないし返済責任が免除されるノンリコース型の金銭消費貸借契約も存在するので、ノンリコース型だと言っても、上記経済的機能を否定するものではない。
利用者は、債務者に倒産手続開始原因が発生していないことについて表明・保証義務を負っていて、債務者の経営が相当悪化し,又はそのおそれがあると認められる相当の理由があるときには、その旨を遅滞なく被告に報告する義務を負っているところ、これらの義務に違反すると、買戻義務、損害賠償責任などに問われ、事実上リコース責任を負うことになっている。
*リコースとは、遡求という意味となります。
ファクタリング会社の主張
本件取引は,名実共に債権売買であり,金銭消費貸借契約ではなく,したがって,貸金業法は適用されない。
本件取引は,売買対象の債権が第三債務者の債務不履行や倒産のために回収不能となった場合において買主が売主に対して責任追及することができないといういわゆるノンリコース型のファクタリング取引であり,本件債権売買基本契約及び本件事務委任契約においても破産会社は売掛債権等の回収不能の責任を負わない旨が明記されている。
利用者は,第三債務者すなわち売掛債権等の債務者から現に回収することができた金員をそのまま被告に支払うという事務的な義務を負うにとどまり,第三債務者から回収することができなかった金員についてまで独自の支払義務を負うものではない。
裁判所の判断
結論として、本件各取引は,金銭消費貸借契約と同様の経済的機能を有しており、売掛債権等の額面金額と譲渡代金との差額が利息と解釈ができるところ、本件取引は制限利息を大幅に超えているので、取引として無効であると判断しました。
その理由としては、利用者側で主張していた
「債務者に倒産手続開始原因が発生していないことについて表明・保証義務を負っていて、債務者の経営が相当悪化し,又はそのおそれがあると認められる相当の理由があるときには、その旨を遅滞なく被告に報告する義務を負っているところ、これらの義務に違反すると、買戻義務、損害賠償責任などに問われ、事実上リコース責任を負うことになっている。」
の点で、支払不能等のリスクを利用者に負わせていたということが金銭消費貸借契約と同様の経済的機能を有していると判断されました。
裁判所の判断に対する感想
この裁判所の判断は、形式的に債権売買になっていたとしても、金銭消費貸借契約と同様の経済的機能を有しているかどうかが大事で、最終的に債務者の支払不能のリスクを誰が負担しているのかという視点から上記機能があるかどうかを検討していくという流れとなっています。
その上で、前提事実として認められていた
「ファクタリング利用者とファクタリング会社は、利用者が取引先に対して有する売掛金(債権)を被告に売り渡し、ファクタリング会社がこれを買い取ることにつき,売掛債権売 買基本契約書を締結し、ファクタリング会社が,本件債権売買基本契約に基づき利用者から買い取った債権の管理事務や回収事務等を利用者に委任し,利用者がこれを受任することにつき,事務委任契約書を締結していました。」
という部分については、はっきりと問題はないと判断しています。
また、興味深いことに、
「このように,債権譲渡においては,譲受人が,第三債務者に生ずる譲渡対象債権の支払不能等のリスクを全面的に引き受けるのであるから,譲渡対象債権額面額よりも低額の債権譲渡代金を支払い,その差額につき貸金業法所定の制限利率に係る利回りを超える利益を得たとしても,不当とはいえず,健全な金融秩序を害するものではない。」
と判断し、債権額面額よりも低額の債権譲渡代金を支払うことが、貸金業法所定の制限利率に係る利回りを超える利益としても全く問題はないと判断しました。
経済的取引として私的自治の範囲内ということでしょう。
この判例は、どういう仕組であれば、ファクタリング業務として適法になるのかを検証できる非常に分かりやすい素材だと思います。