ファクタリングとは、売掛金を売却して資金調達する手法で、近年、多くの中小企業のオーナー様や個人事業主の方が注目している資金調達手段のひとつとなります。
経営にとって、キャッシュフロー管理こそが最も重要となります。
ファクタリングを利用することにより、自社の売掛金の支払サイトを短縮させ、キャッシュフローを改善できる可能性があります。
以下のテキストでは、ファクタリングを利用する際に知っておきたい有益な情報を解説します。
※この記事は、弁護士赤瀬康明(東京弁護士会)に監修して頂いております。
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目次
ファクタリングとは
ファクタリングとは、自社が他社に持つ売掛金(債権)を売買する資金調達です。
例えば、AがBに売掛金(支払期限2023年5月31)を持っています。
Aは、資金繰りに困っていて、2023年5月31日よりも先に資金調達をしたいと考えていたとします。
その場合、AがBに対する売掛金(債権)をC(ファクタリング会社)に売り、資金調達を実現します。
要は、売掛金(債権)の売買です。
Cは、資金調達をしたいAのニーズを叶えるために、AのBに対する売掛金を買い受けることをサービスとしています。
Aは、C(ファクタリング会社)に、Bに対する売掛金を売却することで、その対価である売買代金を受取ることができ、その代金相当額の資金調達が実現します。
反対に、C(ファクタリング会社)がBの債権者となり、Cが2023年5月31日にBから売掛金(債権)を回収できる権利を持つことになります。
法的観点からの説明
ファクタリング利用者にとっても、法的問題を明確にしておくことは有益です。
以下ではファクタリングを法的観点から説明していきます。
上記の例を引き続き使用します。
本来的にAが、Bに対する売掛金(債権)を他に譲渡することは自由です。
Aが、AのBに対する債権をCに売却します。
そうすると、債権を買い取ったCがBの債権者になります。
ただ、民法上、CがBに債権者だと主張するためには、AがBに、Cに債権譲渡の事実を通知する必要があります。
これを債務者対抗要件と言います。
また、ファクタリングを利用する会社は資金繰りに困っていて、稀に、ファクタリング会社に売掛金(債権)の存在を偽ったり、売掛金(債権)が存在していても、他のファクタリング会社にも同じ売掛金(債権)を売却する方がいます。
前者の売掛金(債権)の存在を偽るような行為には、刑法上の詐欺罪(246条)が成立しますし、民法上の不法行為に基づく損害賠償責任(709条)を負うことになります。
後者の他のファクタリング会社にも同じ売掛金(債権)を売却する、いわゆる売掛金(債権)を二重譲渡の場合には、刑法上の背任罪(247条)が成立します。
上記の例で、AがCだけではなく、Dにも売掛金(債権)を売却した場合における優劣関係が問題となります。
CとDとの優劣関係については、第三者対抗要件を具備しているか否かで決まります。
第三者(Cにとって第三者はD、Dにとって第三者はC)に対して、売掛金(債権)の権利を主張するには、AからBに対する確定日付けのある証書による通知又はBからの確定日付けのある証書による承諾が必要となります。
C、Dいずれも、第三者対抗要件を具備している場合には、確定日付けの先後により優劣関係が決まります。
なお、確定日付けを付与する方法としては、内容証明郵便で債権譲渡通知を送る、公証人による確定日付を付与した承諾書の作成、債権譲渡登記などがあります。
債権譲渡登記は第三者に対しての対抗要件にはなりますが、債務者には通知されるものではないので、これだけでは、債務者に売掛金(債権)の権利者であることを主張することができません。
実務上の運用
法的観点からの問題は以上となりますが、AはBに資金繰りが悪いと思われると、今後、Bとの取引が打ち切りになるリスクもあります。
Aは、Bに売掛金(債権)を売却したことを知られないように資金調達をしたいはずです。
C(ファクタリング会社)は、そのAのニーズに応える形でのスキームを提供しています。
要は、上述した債務者対抗要件を具備しない方法です。
つまり、AとCとの間で、債権譲渡の通知を出さないで、債権の支払期限が到来したときに、AがCの代わりに売掛金(債権)を受け取り、Aが受け取った売掛金(債権)をCに渡すという流れを取ることが多数のようです。
あるとしても、第三者には権利を主張できるようにするために、債権譲渡登記をする方法が取られるようです。
債権譲渡登記をする場合には、債務者に通知をしないことは上述の通りです。
Aが受け取った売掛金(債権)に相当する金員(お金)はCが本来受け取るものです。
Aが使い込みをすると、その行為に対して刑法上の横領罪(252条)が成立することに注意が必要です。
また、当然のことながら、民事上の契約違反にもなります。
他の資金調達手段との比較
その他の資金調達方法として、一般的には、新株を発行したり、銀行などの第三者から借り入れるという方法があります。
新株発行には、ファクタリングと同じく、返済義務がありません。
株式を譲渡するということは経営権にも影響がでますし、ファクタリングを利用しようとしている財務状況の中では、よほどのビジネススキームなどがない限り、株式を購入してくれる第三者を見つけることは難しいと思います。
また、銀行などの第三者からの借り入れの場合には、文字通り、返済義務を負うことになります。
第三者からの借り入れの場合には審査に時間がかかるでしょうし、そもそも、債務超過の場合には借り入れ自体が難しいと思います。
ファクタリングは資産である売掛金(債権)の売却であり、その売掛金(債権)自体が存在するのであれば、対価次第では比較的審査も早く、場合によっては即日に現金化に成功する可能性もあります。
ファクタリングの種類
巷にある企業のサイトを見ると、ファクタリングの種類として、
2社間のファクタリング
3社間ファクタリング
として分類をしているようです。
こうした表現を使われた経緯については詳細を記載したものは見当たりませんでしたが、上述したファクタリングとは売掛金(債権)の売買です。
民法の債権譲渡の規律に従うだけです。
民法の対抗要件の問題と実務上における当事者のニーズを前提として、その中の事象を捉えて2社間、3社間という造語を作ったものだと予想できます。
2社間、3社間という造語でして、その定義自体は明確でもなく、サイトによって説明が統一されているものでもありません。
上記法的観点から説明した方が圧倒的に分かりやすいと思います。
あえて、2社間、3社間の言葉にこじつけて説明するならば、以下のように説明できそうです。
本来、売掛金(債権)譲渡は自由です。
上述した通り、債権譲渡の事実を債務者に対抗するには、債務者対抗要件を具備する必要があると説明しました。
債務者対抗要の具備としては、債権の譲渡人から債務者への債権譲渡の通知又は債務者の承諾が必要となります。
債権の譲渡は本来的に自由ですが、当事者の間で債権譲渡を禁止する特約を付けることも可能です。
この場合には、債務者の承諾を取ることはできません。
また、債権譲渡禁止特約が付いている以上、債務者に債権譲渡の事実をするわけにもいきません。
こうした実務上のニーズを満たすために、債権譲渡の事実を債務者に知らせない方法で対応する場合のことを2社間ファクタリングと呼び、債権譲渡の事実を通知したり、債務者の承諾を取り、債務者が売掛金(債権)の譲渡の事実を把握する場合が3者間ファクタリングと呼ぶことが正確な説明になると思います。
巷にある他のサイトも、用語の説明が不正確だと思いますので、今後は、このサイトの整理を前提にして用語の説明をしてもらえたらと思います。
2社間のファクタリング
上述の通り、2社間ファクタリングとは、売掛金(債権)の譲渡の事実を債務者に知らせないことを意味します。
債務者に知らせなくても、当事者の間では、売掛金(債権)の売買は当然に有効に成立しています。
売掛金(債権)の譲渡の事実を債務者に知らせないので、上述の例では、Cは、AからBに対する売掛金(債権)の譲渡を受けたとしても、自己が債権者であるとBに主張することができないということを意味します。
Bとしては、Aに売掛金(債権)を支払えば良いということになります。
Cは、Aとの間において、AがBから支払われた売掛金(債権)を回収する事実上の権限を与えることになります。
平たく言うと、Bが、Cの存在を知らないということが2社間ファクタリングという説明になります。
2社間ファクタリングでは、Cは債務者対抗要件を具備しないわけですし、稀に、AがBから回収した売掛金(債権)をそのままCに支払わなかったりもすることがあります。
また、Cにはその恐れもあります。
そうしたリスク回避のために、Cは、売掛金(債権)を後述する3社ファクタリングよりも割安で購入することになります。
3者間のファクタリング
上述の通り、3社ファクタリングとは、売掛金(債権)の譲渡の事実を債務者に知らせることが前提となります。
建設業界の契約書を見ると、債権譲渡禁止特約などの契約があることも多く、3社間ファクタリングが利用される場面はそこまで多くないようです。
上述の例では、Cは、Bに対して、自分が債権者であることを主張することもできますし、仮に、BがA売掛金(債権)に支払いをしても、Cの請求には応じなければいけません。
銀行系の大手ファクタリング会社などは3社間ファクタリングでなければ、売掛金(債権)を買い受けないということもあるようです。
個別ファクタリング/集合ファクタリングという用語について
巷にある企業のサイトを見ると、個別ファクタリング、集合ファクタリングなどの用語を見かけますが、これも上述した2社間ファクタリング、3社ファクタリングと同じく造語となります。
ファクタリング利用時には売掛金(債権)が発生していることが通常で、それらの売掛金(債権)をファクタリングの対象としているのか、それとも、将来発生する債権を対象するのかにより、個別ファクタリング、集合ファクタリングという言葉を用いているという印象です。
法的な用語ではないので、他のサイトでこの用語を見かけるときは定義をどのような意味で捉えているのかを明確にしておく必要があります。
ファクタリングの長所と短所
ファクタリングを利用するか否かは、メリットとデメリットを比較した上で、ご自身の事業にとって、デメリットを上回るメリットがあれば、ファクタリング会社を利用したら良いと思います。
以下では、ファクタリング会社を利用する上でのメリットとデメリットを解説していきます。
ファクタリングのメリット
キャッシュフロー改善
ファクタリングは売掛金(債権)の売買です。
特に、売買の対象となる売掛金(債権)の支払期限は先の時期にあります。
ファクタリング利用者にとって、それ売掛金(債権)の支払いを受けるまでの間に、支払義務がある経費があるとします。
こうした経費の支払いをすると現金預貯金などが足りなくなってしまうという状況にあるときに、売掛金(債権)を売却できれば、即座に現金を手にすることが可能となります。
負債を増やさず資金調達できる
繰り返しになりますが、ファクタリングは売掛金(債権)の売買です。
他社からの借り入れとは異なりますので、返済義務を負うことはありません。
利用者とファクタリング会社との間において、売掛金(債権)の債権者はファクタリング会社になっています。
ただし、上述した、いわゆる2社間ファクタリングの場合には、利用者は、ファクタリング会社から債務者に対する事実上の取り立て権限を与えられていますので、売掛金(債権)が支払われた場合には、その金員をファクタリング会社に必ず渡さないといけません。
担保や保証人が必要ない
さらに繰り返しになりますが、ファクタリングは売掛金(債権)の売買です。
ファクタリング会社からの貸付けではないので、利用者には返済義務がないので、担保を提供したり、保証人を立てる必要はありません。
スピーディーに資金調達できる
ファクタリングは利用者に売掛金(債権)がある場合に利用できるサービスであり、借り入れと異なり、審査項目は圧倒的に少なく、少ない日数での入金も実現可能となります。
ファクタリング会社によっては、売掛金(債権)の存在、債務者の財務状況が容易に判断さえできれば、即日入金をしてくれるところもあるようです。
ファクタリング会社が売掛先から債権を回収ができなくても、返済は不要
ファクタリングは売掛金(債権)の売買であり、ファクタリング会社が債権者となります。
利用者は貸し付けを受けたわけではないので、返済義務もなく、債務者からの売掛金回収のリスクはすべてファクタリング会社にあります。
債務超過していてもファクタリングを利用できる
筆者自身ファクタリング会社から相談を受けることも多いのですが、ファクタリングを利用する会社や事業者は、事業自体が債務超過になっていることが大半だと聞いています。
債務超過などは関係がなく、買い受ける売掛金(債権)が存在しているか、その売掛金(債権)の回収見込みがあるかどうかだけが関心事になります。
債務超過の会社であっても、ファクタリングを利用することは十分に可能です。
決算書への影響がない
ファクタリングは売掛金(債権)の売買であり、それが現金化されるだけで資産状況には変化はありません。
また、返済義務も追わないので、負債が増えることはなく、決算書への影響はありません。
業種や業態を問わずに利用できる
ファクタリングは売掛金(債権)の売買であり、利用者に売掛金(債権)があれば、ファクタリングサービスの提供を受けることができます。
業者や業態を問わず、利用することが可能です。
個人事業主でも契約できる
ファクタリングは会社形態をとってもなくても、売掛金(債権)さえあれば、個人事業主であっても利用できる会社も多いようです。
個人事業主であっても、ファクタリングという資金調達手段を諦める必要はありません。
ファクタリングのデメリット
手数料が割高だと収益に悪影響が出る
銀行などで借り入れができるような場合には、貸金業法などで法律上利息の上限が定められています。
ファクタリングを利用するということは銀行などでの借り入れができないような状況であることから、売掛金(債権)を割安で売却しないという傾向にあります。
売却額次第では収益に影響が出てしまうというデメリットがあります。
売却額についてはファクタリング会社ごとに異なりますので、自身の条件に合う業者を探したいところです。
利用金額が売掛金の範囲内
利用している事業者の方の中には、利用金額が売掛金の範囲内でしかファクタリングを利用できないというデメリットがあると言う方もいます。
ただ、ファクタリングは売掛金(債権)の売買であり、売掛金(債権)の金額を上限として売却しなければ、ファクタリング会社が売掛金(債権)を買ってくれるわけがありません。
その意味で、利用金額が売掛金の範囲内であることは当然のことだと言えそうです。
依存すると資金繰りが悪化する懸念がある
上述の通り、ファクタリングは売掛金(債権)を割安で売却しないという傾向にあります。
ファクタリングは即時の資金調達には役立つスキームではありますが、何度も利用すると、資産が目減りし、資金繰りが悪化するというリスクがあります。
仮装ファクタリング事業者の存在
上述の通り、ファクタリングは売掛金(債権)の売却であり、返済義務があるものではありません。
しかし、利用者の弱みに付け込み、債務者の回収リスクを取らないで、実質的に利用者に返還義務を負わせるというような事業者も存在するようです。
これは、貸金業法の潜脱ですし、売掛金(債権)の売買をしているわけでないので、ファクタリング事業者ではありません。
ファクタリングは売掛金(債権)の売買であり、利用者に返済義務はありません。
利用時には、ファクタリング会社との間における契約内容をチェックする必要があります。
ファクタリング利用時の注意点
ファクタリングを利用する際に気をつけなければならないのは、上述したデメリットの部分だと思います。
特に、返済義務を負わないにもかかわらず、返済義務を求めてくるような事業者には注意が必要となります。
また、利用者側としても、ファクタリングは売掛金(債権)があることが前提となりますので、売掛金(債権)の存在を偽ることがないようにしなければ、刑事上の詐欺罪になってしまいます。
また、いわゆる2者ファクタリングの場合にはファクタリング会社は債務者から直接売掛金(債権)を取り立てることをせず、利用者が代わりに回収するという権限を付与されているわけですから、回収した金員を必ずファクタリング会社に渡さなければ、その行為についても横領罪という犯罪が成立することになることに注意が必要です。
買取型の注意点
買取型というのは、売掛金(債権)の売買であり、即時の資金調達を実現することになります。
利用時の注意点は、上述したデメリットがそのまま当てはまります。
デメリットをクリアーできるメリットがあるかどうかを検討して利用することが必要です。
保証型の注意点
保証型というのは、売掛金(債権)の売買ではなく、ファクタリング会社に手数料を支うことにより、債務者から売掛金(債権)の回収ができなくなっても、売掛金(債権)の支払いを保証してもらうというスキームになります。
保証型ファクタリングの場合には、債務者の信用に不安があるときに利用されることが多いでしょうから、保証料設定のノウハウや保証債務を履行できる財務体制が必要です。
大手の企業でしか保証型ファクタリングサービスを提供できていない状況だと思います。
大手の企業だとすると、審査が厳しくなることを理解しておく必要があります。
相談時に知っておくべき情報
利用者が知っておくべき情報としては、上述したデメリットに関する質問になろうかと思います。
利用する段階では、切羽詰まっている状況だとは思いますが、そこは慎重にファクタリングサービスを提供する会社を見極める必要があります。
お勧めのサイト、一括見積もりの中から複数のファクタリング会社から見積もりを取るのも一つの手だと思います。
ファクタリングは違法ではない
ファクタリングは違法なサービスではありません。
資産である売掛金(債権)を現金化するだけだからです。
経済産業省のホームページにおいても、売掛金(債権)を活用した資金調達が奨励されています。
しかし下記のようなファクタリングには注意が必要です。
偽装ファクタリングとは
ファクタリングは売掛金(債権)の売却でありますが、ファクタリング事業者に返済義務を負わせるような事業者もあります。
このような業者は、本来は貸金業の免許を取得し、貸金業法の利息の範囲でしか貸し付けることができません。
利用者に返済義務を負わせ、貸金業法の法定利息を超えた手数料を請求してくる事業者には注意が必要です。
給与ファクタリングとは
いわゆる給与ファクタリングは違法です。
給与ファクタリングとは、従業員の勤務先に対する給与債権の譲渡を受けるサービスになります。
最高裁は、いわゆる給与ファクタリングを貸金業法第2条第1項、出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たると判断しました。
最高裁の事例では、貸金免許を持たず、法定利息以上の利息を取得していたことにより、いわゆる闇金と同様の業者だとして違法であると認定しました。