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債務整理

夫が自己破産をすることに……。妻や家族の財産はどうなるかを解説

「夫が自己破産をすることになったけれど、妻である私の貯金も差押えされてしまうの?」

という疑問を持つ方がおられるかもしれません。

結論からお伝えしておくと、夫が自己破産をしたとしても、妻や家族の財産に影響が及ぶことは基本的にはありません。

しかし、例外的に影響が及ぶ場合もあります。ただし、この影響を避ける方法もあることは知っておいて損はないでしょう。

この記事では、

  • 夫が自己破産をしたら、家族や妻の財産に影響があるのか
  • 例外的に影響があるというケース

について、解説していきます。

夫が自己破産しても妻や子供にはほぼ影響はない

自己破産は基本的にはする人だけの問題

まず、最初に原則をお話しますと、夫が自己破産をしたとしても、妻が保証人などになっていないのであれば、自己破産は当人のみの問題になります。

自己破産手続では、自己破産の申し立てをした本人の財産は処分の対象となりますが、それはあくまで本人名義のものだけであり、家族の所有物などは処分対象ではありません。

妻や子供が借金を肩代わりする必要はありませんし、妻や個人の財産を売却して返済に充てる必要もないのです。

そのため、妻が妻名義の通帳に入れている預金や、妻子名義の資産は処分対象にはなりません。

家族の信用情報への影響はない

自己破産や任意整理をした際には、信用情報機関に異動情報(事故情報)が登録されます。

これがいわゆる「ブラックリスト入り」です。

信用情報機関に登録されている情報は、クレジットカード会社やローン会社が新規申込を受け、申込者を審査するときに見るものです。

そのため、信用情報機関に異動情報(事故情報)が登録されていると、クレジットカードやローンの新規契約ができないことがほとんどです。

夫が自己破産をした場合、夫の信用情報には事故情報が載ります。

では、夫が自己破産をしたら、妻や子供もブラックリストに載ってしまうのでしょうか?

結論を言うと、これは間違いです。

自己破産は基本的にはする人だけの問題であるのと同じで、信用情報もまた、債務整理をする人だけが対象となる問題です。

ですから、夫の自己破産によって妻や子供がブラックリスト入りすることはありません。妻や子供は今まで通り、クレジットカードやローンの新規契約も可能です。

妻や子ども名義の普通預金・定期預金・保険の取り扱い

では、銀行口座や定期預金はどのように取り扱われるのでしょうか?また、保険はどうなるのでしょうか?

この点については、預金口座も保険も、考え方は基本的に同じで、名義人が誰になっているかが重要になります。つまり、原則として預金口座や保険の名義人が誰か判断されるということです。

例えば、妻が受取人名義になっている生命保険や、子供が名義人の定期預金などには、基本的に影響は出ないということです。

ただし、預金や保険の名義と出損者(実際にお金を出したひと)が異なる場合だと、実質的に誰の預金になるのかが問題になることがあります。

例えば、生命保険で契約者は妻になっているが、保険料を支払っている出損者は夫である場合、保険の解約返戻金が誰の財産になるのかという問題になります。

夫が全額出損している状況になっている場合、裁判所の判断によっては、妻名義の財産であっても夫の財産と認定される可能性があります。また、妻の財産であると認められたとしても、不当に夫の財産を減らず行為として否認権行使の対象になる可能性もあります。

保険の取扱については、以下の記事で詳しく解説しています。ご参照ください。

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夫名義の預金について妻の財産だと争う場合

では、反対に、夫名義の預金や保険があるものの、出損者が妻や子供であった場合はどうなるのでしょう?

さきほど、「原則として預金口座や保険の名義人が誰か判断される」と言いましたが、形式的には破産管財人は名義で財産の帰属を判断します。

そのため、自己破産をする夫名義の預金口座や保険は原則として夫の者として取り扱われ、破産財団を構成することとなります。結果、一定以上の価値がある場合は、夫の財産として売却、清算されてしまうことになります。

しかし、この場合、妻や子供には「名義は夫、父のものだけど実質的には私の財産である」ということを主張することが認められます。

例えば、「保険の名義は夫だけど、ずっと保険料を支払っていたのは私です」や、「父名義の預金の原資はすべて子供である私が働いて稼いだお金です」と主張し、財産の帰属を争うことは考えられます。

そして、裁判所が「これは破産者の財産ではない」と認めた場合には、売却や清算を免れることが出来るのです。

具体的な方法としては、実際に保険料を支払っていた過去の通帳履歴等の疎明資料を添付し、裁判所へ上申書を提出します。

ただし、これが認められるのは例外的なケースです。

原則的に名義で判断する以上、夫や父の名義になっているのであれば、このような主張は簡単に認められるわけではないことには注意が必要です。

預貯金が20万円未満の場合そもそも問題ないことが多い

では、上記の主張が認められなかったとして、清算を免れる方法はないのでしょうか?

これについては、「その口座や保険の金額に応じて可能性がある」と言えます。

本来、自己破産をする際には、すべての財産を清算しなければいけません。ですが、家具や調理器具のような生活に欠かせないものまで持って行ってしまうと、破産者は破産をしたのはいいものの生活が出来なくなってしまいます。

そこで、破産法第34条では、売却、清算の対象とならない財産を定めています。これを、「自由財産」と言うのです。具体的には、同条第2項第2号で「差押禁止動産(民事執行法第131条)は破産財団とならない」と定められています。(いずれもe-GOV法令検索より引用)

そして、同条第4項では、「法律で決められている差押禁止動産以外であっても、裁判所が必要と認めた場合は自由財産に組み込んでいい」と規定しています。この、破産法第34条4項に定められた制度が「自由財産の拡張」です。

つまり、たとえ破産者が預貯金や保険を持っていても、自由財産の拡張が認められる範囲であれば、手元に残せる可能性があるのです。

そして、多くの裁判所では、現金と保険の解約返戻金、預貯金、自動車などの財産を合計して99万円未満ならば、緩やかに自由財産の拡張を認める運用がなされています。

そのため、一定以下の金額の預貯金や保険であれば、手元に残すことができる可能性があるのです。

自由財産の詳細については、以下の記事をご参照下さい

自己破産をしたら財産は残せない?自己破産しても残せる自由財産を解説自己破産をすると、原則として全ての財産を失うことになります。しかし、身の回り品など生活に最低限必要なものは「自由財産」として手元に残せるほか、裁判所の判断で「自由財産の拡張」が認められれば、より多くの財産を守ることができます。そこで今回は、自己破産で財産が残せるケースと、財産が残せない場合の対処法について解説します。...

自己破産した場合に家族に影響があるケース

原則として、家族に影響は及ばないということを解説してきましたが、例外的に家族にも影響が出るケースがあります。

主には以下の4つです。

  • 家族が保証人になっている場合
  • 家族カードがある場合
  • 共有名義の資産を持っている場合
  • 財産隠しなどを疑われる場合

借金によっては自己破産後に、妻や家族が返済をしなければならないケースや、家族で利用していた物を失うことになるケースがあります。

家族が突然多額の借金を背負うことになったり、住んでいる家を失うことになるかもしれません。

ひとつずつ詳しく解説します。

家族が保証人になっている場合

妻や家族が借金の保証人になっていた場合、夫が自己破産をすると、今度は保証人になっている妻や家族に支払義務が移ります。

保証人を付けることが多い借金としては、奨学金や住宅ローンなどの高額な債権です。

そのため、夫が自己破産をすると、保証人になっている妻が多額の返済義務を負うことになる場合もあり、夫の自己破産と同時に保証人になっている妻も自己破産を行うことになります。

このように保証人も同時に自己破産をするケースも珍しくはありません。

また、債権者からの請求を受けているにも関わらず放置をしていると、保証人に対して訴訟を起こされることもあります。

そのまま放置し続けると、給与や預金を差押えられる可能性もあります。

保証人を引き受けるときには、支払義務を負うことになるかもしれないと理解した上で引き受けましょう。

家族カードがある場合

家族カードとは、クレジットカード契約者(本会員)の家族に対して発行されるカードのことです。

具体的には、夫が契約しているクレジットカードで、家族が持てるカードがある状態のことです。

家族カードについては、あくまで契約者(本会員)の支払能力を参照します。

したがって、親会員が自己破産をした場合、親会員のクレジットカード契約が強制的に解約となり、同時に家族カードの利用もできなくなります。

これにより実質的に自己破産の影響が生じていると言えます。

ちなみにですが、本会員ではなく、子会員である家族が自己破産をした場合はどうなるのでしょうか。

このケースでは、親会員が自己破産をした場合と打って変わって、何の影響もなくそのまま利用継続が可能です。

たとえ、子会員が自己破産をした場合、自己破産手続中であっても、免責許可決定が出ても、一切影響することなくカードの利用が継続できるのです。

ただし、濫用の恐れがあることから、停止することを検討する必要もあるでしょう。

共有名義の資産を持っている場合

共有名義の資産を持っている場合も、家族に影響が出る可能性があります。

原則としては、夫婦で共有名義になっている場合では、自己破産をした夫の持ち分だけが処分対象となります。ですので、本来は妻には影響は出ないはずです。

例えば、車を共有して所有していた場合、妻の持ち分は残るということです。

ただし、夫の持ち分に買い手がついたとしたら、見ず知らずの他人と車を共有する事になり、利用方法や売却を巡って共有者とトラブルになる可能性もあります。

このような場合、共有者には共有物分割請求権が認められ、共有物の各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができることとなります。(民法256条)また、共有物の分割について共有者間に協議が調わないときには、裁判による共有物の分割をすることができるなど、手間がかかる可能性もあります。(民法第258条

通常、このような場合はお金で持ち分を買い取るという決着をすることが多いのですが、そうなると今度は、妻が金銭的な出費を負わされることとなります。

また、見ず知らずの人間と特定の財産を共有することを避けるには、親族に買い取ってもらう方法もありますが、そのためには相当の資金を用意する必要があります。

ただし、この際「親族だから安く売ろう」などと絶対に思ってはいけません。

それをすると、以下に述べる、財産隠しに該当する可能性があるためです。

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財産隠しが疑われる場合

自己破産をしたひとは財産を失ってしまうため、家や自動車が夫名義の財産をなっている場合、それらを失うリスクが高まります。

そのような事態を避けるために、「夫名義の財産を妻の名義に変えればいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかし、そういった行為は「財産隠し」だと判断されてしまい、自己破産が認められなくなるリスクがあるのです。

破産法252条第1項第1号では、「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為」をしたことを、破産を認めない理由の一つとして定めています。これを、免責不許可事由(破産法第252条第1項 e-GOV法令検索)と言います。

https://finance-compass.com/saimuseiri-dekinai-taisyohou/

また、同法第265条では、「債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と、刑罰を定めています。

同条第1項第1号では、債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為を、同条第1項第2号では、債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為を罰則の対象としてます。(破産法第265条第1項 e-GOV法令検索)としています。

簡単に言えば、悪質な財産隠し行為は、違法行為として罪に問われる可能性もあるのです。

具体的にはこのような行為です。

  • 夫名義(破産者)の家や自動車の名義を妻や子供、親族の名義に変更する
  • 夫名義(破産者)の預貯金を妻や子供、親族名義の銀行口座へ移動する

ただし、一つだけ詐欺破産罪に該当する行為をしたからといって、必ずしも刑罰に処されるということはありません。数多くの破産事件を見てきましたが、そもそも破産が免責不許可になる事件が、刑事事件にまで発展したケースも、ほとんど見聞きしたほど珍しいのです。

しかし、珍しいからといって逮捕されないというわけではありません。実際、詐欺破産罪で逮捕されたという事例もあります。(破産時にランボルギーニなど車数台を財産隠しか、元社長の男を逮捕へ…時価4000万円超

このように、財産隠しは破産者本人に重大な影響を与えることから、絶対にするべきではありません。

財産隠しの家族への影響は?

では、財産隠しは破産者本人のみならず、家族にも影響を及ぼすのでしょうか?

結論から言うと、民事刑事の両面で、影響を及ぼす可能性があります。

まず、刑事責任の追及として「共犯関係」と見なされてしまうリスクがあるということです。

つまり、破産者である夫が財産隠しをしており、妻や親族が事情を知って加担していた場合は、妻や親族も共犯扱いとされるリスクはあるのです。

一方、夫が財産隠しのためにお金を移動させようとしていることを知らずに、妻が加担してしまった場合は、共犯とされることはありません。

例えば、破産をする予定の夫が預金を下ろしてきて「これを預かっておいて」と言われ、妻の側が「これは破産で清算されるお金だな」と知った上でお金を受け取り妻名義の口座にお金を入れた場合には、共犯となるリスクがあります。

一方で、破産をする予定の夫が預金を下ろしてきて「これは1か月分の生活費だから、(妻名義の)銀行口座に入れておいて」と言われ、妻が「生活費だ」と認識していた場合は共犯とならない可能性が高いと言えます。

ただし、1か月分の生活費だと言われて1000万円を渡されたら、普通は「何かがおかしい」と思ってもおかしくないでしょう。刑事事件では、このような詳細や個別事情を総合的に考慮するため、生活費だと言われて渡されたら必ずセーフだというわけではないことから、注意が必要です。

次に、財産隠しが疑われる場合は、家族にも破産手続に協力させられるリスクがあるというこ都があり得ます。

つまり、夫の生活実態を調査するうえで必要がある場合は、妻名義の預金口座についても通帳のコピーの提出を求められる可能性があります。

また、裁判所に提出する必要がなくても、夫の世帯の家計収支表を作成する必要があるため、代理人弁護士から奥さんの通帳や給与明細の提出を見せてほしいと言われることもあります。

ただし、妻名義の通帳コピーを提出する必要がある場合も、それはあくまで夫の財産や生活収支を調査するために見られるというだけです。

「破産前の夫から妻への預金移動」や「実質的に夫の預金とみなされる事情」などが無い限り、夫の自己破産手続の影響により、妻の財産が没収されるわけではないのです。

  • 記事監修者
  • 弁護士 近藤 裕之
  • 翔躍法律事務所 所属
  • 第一東京弁護士会 所属
  • ※法律問題に関するテキスト監修に限る