債務整理

個人再生ではいくら払う?最低弁済額の基準について解説します

借金返済に苦しんでいる方にとって、個人再生は新たな人生を始めるチャンスとなる制度です。しかし、個人再生には最低弁済額の基準があり、必ずしも借金が大幅に減額されるわけではありません。

個人再生には〈最低弁済額〉というものが民事再生法で定められており、個人再生を検討する際には、〈最低弁済基準〉、〈清算価値保障基準〉、〈可処分所得基準〉の3つの最低弁済額の基準を理解し、どの程度の減額が行えるかを考慮することが重要です。

これらの基準は、個人再生の種類によって適用が異なり、支払う最低弁済額に大きな影響を与えます。事案によっては返済額があまり減額されないケースもありますので注意が必要です。

この記事では、個人再生の最低弁済額の基準について、わかりやすく解説します。

個人再生とは

個人再生の仕組み

個人再生とは、借金返済に苦しんでいる個人の方が利用できる民事再生手続きのことを指します。裁判所に申し立てて再生計画の認可決定を受けることで、借金を減額してもらい、その減額された借金を概ね3年かけて支払うことができるのです。

個人再生では、一定の条件を満たしていれば、借金の返済額を元金の5分の1程度まで、最大で10分の1まで減額することが可能です。また、自己破産のように財産の処分が必要ではないこと、住宅ローンを対象から外して手続きを進めることが認められています。

つまり、自己破産のように財産処分や職業・資格の制限等のデメリットを回避しつつ、借金の大幅な減額を認められ、借金返済義務から解放されるのが個人再生の大きなメリットだといえるのです。

しかし、債権者の利益を保護するために、最低限支払わなければならない金額が定められています。これを最低弁済額と呼びます。そして、個人再生における返済すべき金額は、債務者が作成した再生計画案が裁判所から認可決定を受けることにより決まります。

その基準は民事再生法で以下の3つが定められています。

  1. 最低弁済基準
  2. 清算価値保障基準
  3. 可処分所得基準

なお、後述する〈小規模個人再生〉と〈給与所得者等再生〉で、これらの基準の適用が異なります。

個人再生には2種類ある

個人再生には〈小規模個人再生〉と〈給与所得者等再生〉の2種類の手続きがあります。(民事再生法第十三章 小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則 第一節 「小規模個人再生」および同章第2節「給与所得者等再生」(引用:e-GOV法令検索))

〈小規模個人再生〉は主に自営業を営む個人事業主などが対象となります。この手続きでは、債務者が作成した再生計画案が債権者による書面決議に付されます。不同意の意見が一定数を超えた場合、再生計画案が否決され、個人再生が認められないという特徴があります。
一方、〈給与所得者等再生〉は会社員のように安定した収入がある人が対象です。この手続きを利用するには、月収の変動幅がおおむね2割以内であることが求められます。給与所得者等再生では、最低弁済額の基準が小規模個人再生より厳格に決められているため、再生計画案の書面決議は不要となっています。
このように、個人再生には対象者や手続きの特徴が異なる2種類の手続きがあります。自分がどちらの手続きに適しているのかを見極めることが重要です。

個人再生における最低弁済額の基準は?

【基準①】最低弁済額基準

最低弁済額とは、個人再生を行った人が債権者に対して最低限支払わないとならない金額のことで、最低額は100万円です。最低弁済額は民事再生法で基準が決められており、これを最低弁済額基準額といいます。(民事再生法第231条第2項第3号、同第4号(e-gov法令検索より))

最低弁済額は住宅ローンの残債務を除いた借金総額に応じて定められます。具体的には以下の表のとおりです。

借金総額最低弁済額
100万円未満 減額されない
100万円以上 500万円以下100万円
500万円超 1,500万円以下借金総額の1/5
1,500万円超 3,000万円以下300万円
3,000万円超 5,000万円以下借金総額の1/10

最低弁済基準による最低弁済額の例

最低弁済基準による減額後の金額は次のようになります。

借金総額80万円の場合

100万円未満に該当するため、減額はなし。最低弁済額80万円

借金総額300万円の場合

100万円以上 500万円以下に該当するため、100万円

借金総額700万円

500万円超 1,500万円以下に該当するため、700万円*1/5=140万円

借金総額1,000万円

500万円超 1,500万円以下に該当するため、1000万円*1/5=200万円

借金総額1,600万円

1,500万円超 3,000万円以下に該当するため、300万円

借金総額3100万円の場合

3,000万円超 5,000万円以下に該当するため、3100万円*1/10=310万円

【基準②】清算価値保障基準

続いて、清算価値補償基準について詳しく説明します。
先ほどご紹介した基準①は、借金額をベースとして最低弁済額を計算する方法でした。

しかし、債務者が車や住宅等の財産を所有している場合、最低弁済額の計算に〈清算価値保障基準〉が適用される可能性があります。
〈清算価値〉とは、一定額以上の価値がある財産をすべて処分し現金化した場合の金額のことを指します。つまり、高額な財産を所有している債務者は、清算価値が高くなり、最低弁済額が上がることで、借金の減額効果がなくなる可能性があるのです。
個人再生手続きにおいては、「再生債権者の一般の利益に反する」再生計画は認められないとされています(民事再生法230条2項174条2項4号等)。言い換えれば、裁判所に提出する再生計画案で定める返済額は、債務者が自己破産の手続きを行ったと仮定した場合に債権者へ支払う金額より高くなければならないのです。これを〈清算価値保障原則〉と呼びます。

この原則に基づき、清算価値が民事再生法で定めた最低弁済額を上回った場合、清算価値が最低弁済額となります。

清算価値として計上される財産の例

自己破産をする場合、財産をした場合、以下のような財産は売却、清算の対象となります。

  1. 99万円超の現金(100万円の場合は1万円)
  2. 20万円超の預貯金
  3. 見込額が20万円超の生命保険解約返戻金
  4. 退職金見込額の1/8(退職が確定している場合は1/4)
  5. 自動車(処分見込額が20万円を超えるものの全額)
  6. 高価な家財道具(生活必需品を除く)
  7. 不動産(評価額からローン残債務を控除した額がプラスになるとき)

清算価値保障基準の適用例

借金総額400万で、預貯金50万円と価値90万円の車を持っているケースでは次のとおりになります。

  • 借金総額:400万円
  • 財産価値:140万円
    • 内訳:預貯金50万円、車90万円

このケースでは資産価値が最低弁済基準額を上回っていますので、債務者が支払う最低弁済額は清算価値保障基準に基づく140万円となります。

住宅等の清算価値が高い所有財産がある場合の例

住宅ローンの残債務が少なく住宅の清算価値がローン残債務を上回っている場合は、差額が財産として扱われることになります。

例えば、住宅ローン残債務700万円で、住宅の清算価値1400万円だった場合、700万円のプラスがでていると評価され、財産として扱われる可能性があるということです。

以下は、住宅の清算価値700万円、住宅ローンを除く借金総額700万円、預貯金50万円を持っているケースの最低弁済額基準です。

  • 借金総額(住宅ローンを除く):700万円
  • 財産価値:プラス750万円
    • 内訳:預貯金50万円、住宅ローン残債務との差額700万円
  1. 最低弁済基準額:140万円(借金総額700万円の1/5
  2. 清算価値保障基準:750万円(財産価値と同額)

上記のように最低弁済基準額は140万円である一方、清算価値保障基準は750万円となっています。

そのため、借金を減らすことができません。住宅ローンを除く借金総額700万円の全額を支払う必要があるのです。

【基準③】可処分所得基準

最後に、可処分所得基準について解説をします。
小規模個人再生の場合、最低弁済額は〈最低弁済基準〉と〈清算価値保障基準〉の2つの基準で決まります。一方、給与所得者等再生では、これらに加えて〈可処分所得基準〉も適用されます。

つまり、給与所得者等再生では、この3つの基準のうち最も高額なものが最低弁済額となるのです。

〈可処分所得基準〉とは、可処分所得額の2年分以上の支払いを求める基準のことを指します。(民事再生法第第240条第2項第7号(e-gov法令検索より))

ここで注意が必要なのは、個人再生における可処分所得の定義です。一般的に可処分所得といえば手取り収入のことを指すと思われがちですが、個人再生では少し異なります。

個人再生における可処分所得とは、再生債務者の収入から所得税等と最低限度の生活費を控除した額(可処分所得額)の2年分以上を弁済に充てることを求める基準です。つまり、月収から所得税等を引いた手取り収入をベースにして、債務者本人と扶養家族が最低限度の生活を維持するために必要な費用(最低生活費)を差し引いた金額の2年分が可処分所得となるのです。

具体的には次の計算式で求められます。

可処分所得額 = 収入 - (所得税 + 住民税 + 社会保険料 + 最低生活費)

なお、最低生活費は、居住地域の自治体の生活保護基準に基づいて定められており、収入や年齢、家族構成等に応じて決まります。

可処分所得基準での支払い額は、一般的に最低弁済基準や清算価値保障基準での支払い額より高額になることが多いです。そのため、給与所得者等再生の場合、小規模個人再生よりも最低弁済額が高額になるケースが多く見られます。

ですので、給与所得者等再生の手続きは、小規模個人再生の手続きで必要とされる債権者の過半数の同意が不要である代わりに、最低弁済額が高額になりがちな点に注意が必要です。

可処分所得基準の適用例

借金総額700万円で、1年間の可処分所得:120万円、預貯金:120万円あるケースでは、最低弁済額基準、清算価値保障基準、可処分所得基準の金額を比較すると次のようになります。

  • 借金総額:700万円
  • 1年間の可処分所得:120万円
  • 保有財産:120万円
  1. 最低弁済額基準:140万円(借金総額700万円の1/5
  2. 清算価値保障基準:120万円(保有財産と同額)
  3. 可処分所得基準:240万円(1年間の可処分所得120万円×2年分)

上記の場合、可処分所得基準が清算価値保障基準・最低弁済基準の額を上回っていますので、債務者が支払う最低弁済額は可処分所得基準に基づく240万円になります。

可処分所得が高めの場合

借金総額700万円で、1年間の可処分所得が350万円、預貯金が120万円がある場合では、最低弁済額基準、清算価値保障基準、可処分所得基準の金額を比較すると次のようになります。

  • 借金総額:700万円
  • 1年間の可処分所得:350万円
  • 保有財産:120万
  1. 最低弁済額基準:140万円(借金総額700万円の1/5
  2. 清算価値保障基準:120万円(保有財産と同額)
  3. 可処分所得基準:700万円(1年間の可処分所得350万円×2年分)

上記の場合、債務者が支払う最低弁済額は可処分所得基準に基づいた700万円となります。、借金減額効果がなくなってしまいます。

個人再生の最低弁済額や手続き費用を抑えたいなら専門家に相談

個人再生は借金問題を解決する有効な手段ですが、最低弁済額の基準があるため、必ずしも大幅な借金の減額ができるわけではありません。

最低弁済額は、〈最低弁済基準〉、〈清算価値保障基準〉、〈可処分所得基準〉の3つの基準のうち、最も高い金額が適用されます。
小規模個人再生の場合は〈最低弁済基準〉と〈清算価値保障基準〉の2つの基準で最低弁済額が決まりますが、給与所得者等再生では〈可処分所得基準〉も加わります。

給与所得者等再生の場合、可処分所得基準での支払い額が他の基準よりも高額になることが多く、小規模個人再生よりも最低弁済額が高くなるケースが多いのです。

個人再生における最低弁済額が、どの基準になり、いくらになるかを自力で判断し計算することは難しいのではないでしょうか。

債務整理案件を数多く扱い解決してきた司法書士や弁護士等の専門家に相談することにより、最低弁済額を正しく計算してくれることはもちろん、最低弁済額を必要以上に高くしない方法等についてアドバイスを受けることができます。

また、個人再生は手続きや減額幅の計算が複雑であり、弁護士や司法書士を間に入れない場合は、再生委員の選任を原則としている裁判所も数多くあります。そのため、独力で判断をしてしまうのはおすすめが出来ません。

個人再生を検討しているけれども費用面で不安を抱えている方は、先ずは司法書士や弁護士事務所の無料相談を利用することをお勧めします。

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  • 記事監修者
  • 弁護士 近藤 裕之
  • 翔躍法律事務所 所属
  • 第一東京弁護士会 所属
  • ※法律問題に関するテキスト監修に限る