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債務整理

自己破産をしたら財産は残せない?自己破産しても残せる自由財産を解説

自己破産をすると、原則として全ての財産を失うことになります。
しかし、身の回り品など生活に最低限必要なものは「自由財産」として手元に残せるほか、裁判所の判断で「自由財産の拡張」が認められれば、より多くの財産を守ることができます。
一方で、財産を隠して自己破産の手続きを進めるのは、免責が下りなくなったり、刑事罰の対象になったりと大変危険です。
そこで今回は、自己破産で財産が残せるケースと、財産が残せない場合の対処法について解説します。

自由財産とはどんなもの?

自己破産では原則すべての財産を失う

自己破産は他の債務整理(任意整理・個人再生)と比べ、失うものは多いといえます。

破産法第34条第1項、同法第2項では、

(破産財団の範囲)
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。

破産法第34条(破産財団の範囲)(e-GOV法令検索より引用)

と定められています。

具体的には以下のようなものが該当します。
・不動産
・自動車やオートバイ
・宝石や貴金属類
・生命保険の解約返戻金

つまり、自己破産をすると、マイホームやマイカーを手放すことになり、生命保険も解約返戻金が換価財産に含まれるため、解約が必要になってくるのです。

例外的に残せる財産もある

しかし、いくら自己破産をするにしても、すべてを失ってしまっては破産後の生活ができません。これでは、破産法の目的のひとつである破産者の経済的再生をより困難にしてしまうでしょう。

そのため、破産法第34条第3項では、手元に残せる財産「自由財産」というものを規定し、破産者の手元に残せる財産を定めたのです。

  • (破産財団の範囲)
  • 3第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
  • 一 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号※に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
  • 二 差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号※に規定する金銭を除く。)(後略)
  • ※民事執行法第百三十一条第三号とは「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」のこと
破産法第34条(破産財団の範囲)(e-GOV法令検索より引用)

「自由財産」とは、破産者が破産後であっても自由に管理することのできる財産のことです。

自由財産に該当するものとしては、例えば以下のようなものがあります。

  • ・生活に必要不可欠な家具や家電製品
  • ・収入を得るために必要な仕事の道具類
  • ・先祖の遺影や仏壇など、祭祀に関連するもの
  • ・一定額以下の現金

以下に詳しく見ていきましょう。

自由財産の対象になるもの

①破産手続開始の後に得た財産「新得財産」

「新得財産」とは、読んで字のごとく、破産手続開始後に得た財産です。破産手続き開始後に振り込まれた給与や贈与された財産がこれにあたります。

上でご紹介した破産法第34条第1項では「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産」と定められていましたが、逆に言うと「破産後に得た財産は破産財団を構成しない」ということです。

②差押禁止財産・動産

破産法第34条第3項では、民事執行法第131条に定める差し押さえることができない財産については、自由財産とすると規定されています。

これは、手放してしまうと生活に支障の出る不可欠なものが該当します。

このように、民事執行法その他の特別法により差押ができない財産のことを、差押禁止財産と言います。

(差押禁止動産)
第百三十一条次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

民事執行法第131条「差押禁止動産」(e-GOV法令検索より)

例えば

  • 食料品や家具
  • 必要最低限の現金
  • 仕事や学校に通うのに必要な道具
  • 義手、義足などの身体的な装具や衣服
  • 仏壇や神棚のような祭祀に使うもの

などがこの差し押さえ禁止動産に該当します。

「自由財産の拡張」が認められた拡張財産

他にも、裁判所が「破産財団に組み込まなくてもいい」と判断した財産についても手元に残せます。

裁判所では、破産管財人の意見と破産者の事情に基づいて、「自由財産の拡張」を認めるか判断します。

例えば、20万円以下の自家用車や、20万円以下の生命保険の解約返戻金などが該当する場合がありますが、これは裁判所によって対応は違います。自由財産の拡張については、後で詳しく述べます。

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④「破産財団が放棄」した財産

破産財団に入れられた財産でも、処分にかかる費用が高額になってしまう、買い手がつかないなど、換価が困難なものは、破産財団から放棄されることがあります。

たとえば、過疎の進んだ地域にある不動産など、売却が進まないことがあり、破産の手続きもなかなか完了しません。

そのような場合、破産財団からその財産は放棄され、破産者が自分の財産として保有し続けることが出来ます。

ただし、これらは裁判所や破産管財人が価値の付かないと判断したものですので、維持管理にお金がかかる可能性がある可能性はあります。保有を続けるメリットがあるかは慎重に検討するべきでしょう。

裁判所が認めれば財産を残せる!自由財産の拡張とは?

ここまでは、破産法第34条第1~3項で認められる自由財産について解説をしてきました。

しかし、上記以外にも自由財産として裁判所が認めたものについては、自由財産として扱うことが出来るのです。

つまり、「自由財産の拡張」とは、裁判所の判断で、破産者の生活の保障のため自由財産の範囲を拡張することです。

では、具体的にはどのようなものが手元に残せるのか、どのような流れなのか解説していきます。

自由財産の拡張とは?

自由財産の拡張とは、裁判所が破産者の生活の状況や保有財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みなどの事情を考慮して、自由財産に組み入れることを認める制度のことを言います。

自由財産の拡張は、破産法第34条第4項に定められています。

  • (破産財団の範囲)
  • 4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
破産法第34条(破産財団の範囲)(e-GOV法令検索より引用)

例えば、タクシードライバーをされている方が、価値のある車を保有していた場合、これを失ってしまうと生計を立てることは困難です。また、身体が不自由な方で、自動車が必須の地域で住んでいる方にとっても、車を失えば生活基盤を喪失してしまいます。

にもかかわらず、車を処分、清算してしまえば、破産法の目的の一つである「破産者の経済的自立の回復」という目的を達成できなくなってしまうでしょう。

そのため、裁判所が様々な要素を考慮したうえで、財産を手元に残すことを認められるのが、この自由財産の拡張という制度なのです。

自由財産の対象は?

では、どのようなものが自由財産の拡張の対象となるのでしょうか?

まず、自己破産の申立て時に、財産目録に記載していなかった財産については、自由財産の拡張が認められないのが原則です。載し忘れていた場合も、故意に記載しなかった場合も、同様に認められないことが多いため、財産の報告漏れに気付いたら、速やかに追加報告することが重要です。

また、自由財産の拡張の判断基準としては、経済的更生に必要不可欠な財産であるかどうかや、財産が拡張の対象として適切かどうかが判断の重要なポイントとなります。

例えば、通常、不動産は拡張の対象とはみなされません。
また、株式や債権、投資信託などの投資金も、対象外と考えておく必要があります。
これらは生活再建に必須の財産とは認められにくいからです。

自動車の場合、仕事に関係をしているかが重要になります。例えば、単に通勤に使っているだけであったり、趣味目的の自動車は対象外となることが多いようです。
保険は、投資性の強いものでない限り対象となりやすいですが、その妥当性について意見を求められる場合があります。

自由財産の拡張が、どの程度の金額まで認められるかについても問題となります。
これについては、本来的自由財産である現金の上限が99万円であることから、一般的には99万円までの拡張が認められることが多いです。

ただし、無条件で99万円まで残せるわけではなく、自由財産の拡張は、あくまでも経済的更生に必要かつ相当と認められる範囲に限定されます。

そのため、99万円を超える拡張が不可欠だと判断される場合、その範囲で認められる可能性もありますが、実際には99万円を超える自由財産の拡張が認められるのは非常に難しいことには注意が必要です。

自由財産の拡張の申立権者やタイミング

次に、申立は誰が行えるかですが、これは破産者の申立てにより又は職権と定められています。つまり、破産者が裁判所にお願いをするか、裁判所が権限の範囲で認めるということです。

また、そのタイミングは、「破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間」と定められています。いつまでも自由財産の拡張の申し立てが認められるわけではないことには注意が必要です。

なお、裁判所の運用によって流れが異なる場合があるので、裁判所に確認が必要です。

自由財産の拡張が認められなかった場合

自由財産については裁判所の判断であるため、認められないことも、もちろんあります。

では、自由財産に該当せず、自由財産の拡張も認められなかったときにはどうすればいいのでしょうか?

方法としては

  • ・他の債務整理手続をする
  • ・財産を諦める

という方法があります。

一方で、財産を申告せずにバレないようにするという方法を取ればいいのではないか?と思うか漏れませんが、これは破産を失敗させる原因になるほか、最悪の場合は刑事罰の対象となり得ることから決して行うべきではないでしょう。

①他の債務整理手続をする

どうしても手放したくない財産がある場合、自己破産以外の債務整理の方法を検討してみるのも一つの選択肢です。

自己破産とは異なり、「任意整理」や「個人再生」という手続きでは、財産を処分する必要がないこともあり、結果として財産を多く残すことができます。

特に住宅ローンや自動車ローンを払いながら、その他の借金を整理したいという場合、任意整理や個人再生が適しているかもしれません。「どうしても家は手放したくない」「どうしても車は手元に残しておきたい」というニーズに応えられる可能性が高いからです。

ただし、これらの手続きでは自己破産とは違い、手続き後も返済を継続する必要があります。つまり、任意整理や個人再生の場合は、自己破産よりは財産を多く手元に残せますが、その分返済の負担は残るということです。

半面、自己破産の場合は財産を手元に残せないことも多いですが、借金返済の負担は他の手続よりも小さいのです。

このように、自己破産、任意整理、個人再生、それぞれにメリットとデメリットがあるため、自分の状況に合わせて、最も適した方法を見極める必要があるのです。

こうしたケースでは、弁護士や司法書士に相談し、自分に最適な債務整理の方法を選択していくことが大切です。

②財産を諦める

財産を残しながら自己破産をしたいのであれば、他の手続もありますが、他の手続での返済の負担に耐えられないのであれば、財産を諦めることも考えなければなりません。

せっかく購入した資産や財産を手放すのは口惜しい気持ちもあるでしょうが、返済が不能なほどの借金を背負い続けながら、自己破産をせずに生活を続けるよりは、財産類を清算したうえで人生をやり直した方がはるかに健全といえます。

破産をしたから人生が終わりと言うことはありません。

車やバイクなどが必要であれば、安価なものを一括で購入したり、レンタカーを借りたりという手もあります。

財産隠しをしたらどうなる?

では、財産を残して自己破産をするために、財産を隠して手続きをするのはどうでしょうか?

結論から言うと、これは絶対にやるべきではありません。

「財産隠し」をした場合、免責不許可事由に該当し、免責が認められなくなるリスクがあるだけでなく、悪質なケースでは、詐欺破産罪として、1ヶ月以上10年以下の懲役、1000万円以下の罰金が科されることがあるためです。

「財産隠し」には様々な種類があり、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • 破産者が存在する自分名義の財産を隠す(申告しない)
  • 破産者が存在する自分名義の財産を故意に破壊、損壊する
  • 破産者が自分名義の財産を第三者に譲渡する、または譲り渡したように偽装する
  • タンス預金をする
  • 現金を家族などに預ける

これは破産法で定められた「免責不許可事由」の一つであり、こうした行為が発覚すれば、免責が認められない可能性があるのです。(破産法第252条「免責許可の決定の要件等」e GOV法令検索より)

例えば、破産の手続きをする際には、口座や通帳と言った取引履歴を提出することを義務付けられています。

送金や引き出しの記録は当然、銀行の記録として残っていることから、不審な金銭の動きがあれば、こうした財産隠しは、管財人の調査ですぐに発覚してしまいます。

破産法では、以下のような行為を処罰する「破産詐欺罪」という規定があります。

加えて、破産法では、以下のような行為を処罰する「破産詐欺罪」という規定があります。

  • 債権者に損害を与える目的で債務者の財産を隠したり損壊したりする行為
  • 破産手続開始決定後や保全管理命令後に債務者の財産を取得する行為

破産詐欺罪が成立すると、破産手続開始決定が確定した時点で、その行為者(破産法第265条「詐欺破産罪e GOV法令検索より)は、1ヶ月以上10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられます。場合によっては、懲役と罰金の両方が科されることもあるのです。

このように、意図的な秘匿や手続き前の財産移転が発覚すれば、財産隠しとみなされ、最悪の場合、自己破産手続きでの免責が許可されなくなるだけでなく、刑事罰を科されるリスクもあるのです。
絶対にやってはいけない行為だと肝に銘じておきましょう。

まとめ

自己破産では原則として全ての財産を失うことになりますが、生活に必要不可欠なものは「自由財産」として手元に残せる場合があります。
また、裁判所が破産者の生活状況などを考慮し、「自由財産の拡張」を認めることで、より多くの財産を残せる可能性もあります。
ただし、自由財産の拡張が認められるかどうかは、裁判所の判断次第です。
経済的更生に必要不可欠な財産かどうかが重要なポイントとなります。
どうしても手放したくない財産がある場合は、自己破産以外の債務整理手続きを検討するのも一つの選択肢です。
一方で、財産を隠して自己破産の手続きを進めるのは絶対にNGです。
「財産隠し」は免責が認められなくなるリスクがあるだけでなく、刑事罰の対象にもなり得るからです。
自己破産の手続きを進める際は、弁護士や司法書士など専門家に相談し、適切な方法を選択することが何より大切です。

  • 記事監修者
  • 弁護士 近藤 裕之
  • 翔躍法律事務所 所属
  • 第一東京弁護士会 所属
  • ※法律問題に関するテキスト監修に限る