任意整理をすると、基本的には3〜5年をかけて分割での返済となりますが、返済方法を一括返済に変更することは可能です。
しかし、一括返済することによって他社への返済ができなくなったり、家計が成り立たなくなってしまうリスクがあります。
この記事では住宅ローンの一括返済とは異なる点やメリット・デメリット、注意点を詳しく解説します。
任意整理後に一括返済は可能

結論から申し上げると、任意整理後に残りの借金を一括返済することは可能です。
理由として、任意整理の手続きが終わり分割での和解が成立すると和解契約に「一括返済を禁止する」という規定がないからです。
債権者からすれば、早く返済してもらえるということなら願ってもないことで、一括返済できる場合はむしろ歓迎されます。
また、分割での返済を継続しつつ、ある程度債務の残高が少なくなってきたときに、残りの残債を一括返済してしまうことも可能です。
一括返済をして、「早く借金から解放されたい」と考えられている方は一括返済という方法を検討してみてはどうでしょうか。
債務整理後に一括返済をする方法
任意整理の手続きは裁判所を通さず、債権者との交渉によって行うものなので、和解後の一括返済を法律的に禁じるものではありません。
一括返済の方法は、金融業者への支払いを誰が行っているかで変わってきます。
債権者に自身で毎月返済している場合には、債権者へ「一括返済をしたい旨」を伝えましょう。
任意整理後に債権者への返済を、ご自身で返済口座に【直接銀行振り込み】で行っている場合は、その各債権者に連絡し「一括返済をしたい旨」を伝え、債権者の了承があれば、【指定された銀行口座】に一括返済すれば問題ありません。
債権者への支払いを、任意整理を依頼した専門家が代行で行っている場合は、前もって専門家に一括返済をする旨を伝えた上で、専門家を経由して一括返済を行います。
返済を弁護士や司法書士事務所などへ代行をお願いしている場合は、事前に依頼している事務所に申し出て、一括返済を代行してもらいます。
この代行による一括返済の場合は、依頼している事務所の口座に事前に振り込むことになると思われますので、その口座へ一括返済に必要な金額をまとめて入金すれば、あとは事務所側が毎月の返済期限までに振込をしてくれますので、本人としては一括返済したのと同じ結果になります。
専門家を通さず、ご自身で直接債権者に返済してしまうとあとからトラブルの原因に発展する可能性も0ではないので、必ず一度、専門家に相談することをお勧めします。
なお、一括返済ではなく、お金に余裕ができたときに多めに返済を考えている場合は「繰り上げ返済」を同じ方法ですることが出来ます。
ただし一括返済する際に少なからずリスクが伴いますので、このあと注意点をよく理解したうえで判断することをお勧めします。
一括返済のメリット

任意整理後に一括返済する一番大きなメリットとしては、分割払いの場合は期間が長く返済まで時間がかかるのに対して、借金から今すぐ解放されるということが挙げられます。
以下で詳しく解説していきます。
返済に追われなくなる
一括返済をする場合の最大のメリットとしては、もちろん「借金から解放」されるということです。
一括返済をすれば借金を早期解決することができますので、分割払いよりも当然早く借金から解放されます。
借金がなくなると、毎月の支払いから追われなくなり、何よりも精神面においてメリットになります。
また、金銭管理を長期的に行っていく自信がない方も、一括返済することで「今後、返済するための金銭管理が一切なくなる」という【安心感】を得ることができます。
今後もずっと収入が安定しているとは限りませんので、「ボーナスをもらった」「大きな収入が臨時で入った」「貯金ができた」といった【一括返済できる資金】が準備できる状況であれば、一括返済を考えるのも良いでしょう。
返済額を減額してくれる場合がある
任意整理の場合、ほとんどの業者において「遅延損害金」や「将来利息のカット」をすることが出来ますが、【元本の減額】は原則することができません。
「一括返済をする場合」もこれは同じことが言えます。
ただし、業者によっては、交渉次第で一括返済をすることを条件に、返済額の減額に応じてくれる可能性があり、結果として元本の減額になる場合があります。
理由として任意整理の場合、3年~5年の分割返済とすることが一般的に多く、債権者は、和解した内容通り約定日(支払い期限)までに返済がなされているかを確認し、支払いがない場合、支払いの督促をし、なお支払いがなければ法的手続へ移行と支払い管理のために、コストを負担する必要があります。
一括返済してもらえるのであれば、このようなコストの負担が無くなるため、業者によっては、一括返済の場合「元本の減額」にも応じてくれる可能性があります。
ただし、任意整理の手続きをする際、既に「将来利息をカット」しているので、さらに元本まで減額といった内容に応じてもらうことは簡単なことではありません。
結果として、元本の減額について大きな期待はできないので、一括返済のメリットとして総合的に考えれば、メリットとまでは言い難いといえます。
一括返済のデメリット

任意整理後に一括返済すること自体はそれほどハードルが高くはありませんが、メリットの項目で解説したように元本の減額について大きな期待ができないこともあり、どちらかと言えばデメリットに近いと言わざるを得ないかもしれません。
その他に一括返済をする場合、デメリットが付きものである程度のリスクが伴います。
特に注意が必要なことは以下の通りです。
・返済総額は変わらない。
・一括返済後に家計が成り立たなくなる。
・信用情報機関の登録は短縮されない。
・住宅ローンの一括返済とは異なる。
それぞれについて説明します。
返済総額は変わらない
住宅ローンのローン契約の場合は元金に対して利息が発生するため、仮に一括返済すると返済期間を当然短縮できるので、「短縮した期間分の利息」を抑えることが出来ます。
それに対して、任意整理後に分割払いで本来支払わなければならない「最終的な返済総額」と「一括返済する総額」は変わりません。
任意整理という手続きは、基本的に「将来利息をカット」して分割で返済する手続きです。
メリットの項目で「一括返済をすれば返済額を減額できる可能性がある」とお伝えしましたが、債務整理をすることで一度、将来利息をカットしているため、【さらに返済額を減額】となればなかなか簡単なことではありません。
債務整理後に一括返済をする場合は、減額できることを前提に考えるのではなく、【減額できたらラッキー】程度に考えるようにしましょう。
一括返済後に家計が成り立たなくなる
一括返済するには、当然ですがそれ相応の出費を覚悟しなければなりません。
もちろん任意整理の手続き後に分割払いで返済をどれくらいの期間続けたかにもよりますが、返済途中の借金額が多く残っていれば当然、一括返済で支払う金額も大きくなります。
臨時収入やボーナスまた、これまでの預貯金、月々の収入などを一括返済に充てるということはその分出費が増えてしまうことになるので、その後家計が圧迫され生活が成り立たなくなる懸念があります。
一括返済をすることで借金は無くなりますが、家計が成り立たなくなってしまっては元も子もありません。
最終的に返済総額が減額されない上に、生活をわざわざ苦しくする選択をすることにもなりかねないため、自身の「貯金」や「収入」の状況をまずはしっかり考えた上で、慎重に進めるようにしましょう。
信用情報機関の登録は短縮されない
任意整理をすると、事故情報として信用情報機関に登録され(いわゆるブラックリスト状態)ます。
「クレジットカードを早く作りたい」、「家や車などのローンを組みたい」といった理由で一括返済を無理にするのはやめましょう。
「借金を完済したら、ブラックリストは消える」とほとんどの方が思ってらっしゃいますが、完済したとしても、すぐにブラックリストは消えることはなく一定期間残ります。
また、任意整理後に一括返済をして、返済が早く終わったとしてもブラックリストの期間には影響せず、登録されている期間が短縮されるといったこともありません。
信用情報機関の登録機関(ブラックリスト状態の期間)は、「分割払いで完済」、「一括返済」に関係なく、【任意整理から約5年】です。
そのため、一括返済をすると完済日が早くなり結果、「登録が消える日」自体は早くなりますが、【5年】という期間が変わるわけではありません。
ただし、信用情報機関に登録されるタイミング(開始される時)は、【任意整理の開始時】または【完済時】で、カウントがどの時点から開始するかについては、登録される信用情報機関により異なります。
住宅ローンの一括返済とは異なる
「任意整理後の一括返済」というのは、「住宅ローンの一括返済」とは意味合いが異なります。
住宅ローンの場合、元金に対して利息が発生しますので、早期に一括返済をして返済期間を短縮できれば、短縮できた期間分だけの利息額をカットすることができます。
短縮できた期間分の利息額を抑えることができれば結果、返済総額を減額できます。
それに対して任意整理後の返済額というのは、【将来の利息はカット】した上で、換算した返済額になります。
結果、すでに将来利息をカットされた返済額を一括返済しても結果、返済期間は短縮できても返済総額は減額することは難しくなります。
まとめると下記のようになります。
【住宅ローンの一括返済】
一括返済すれば短縮できた期間分の利息をカットでき返済総額が減額されます。
【任意整理後の一括返済】
一括返済しても返済期間は短縮できるが返済総額は減額されないが、場合によっては減額に応じてくれることもあります。
任意整理後に一括返済する際の注意点

デメリットを把握し、「やはり一括返済をしたい」と考えているか方は次の注意点を押さえたうえで一括返済をするようにしましょう。
すべての業者に平等に返済しないといけない
債務整理後の一括返済は、返済しているどの業者にも平等に行う必要があります。
これを【債権者平等の原則】といいます。
具体的には、一括返済をする場合は借入した「すべての業者」に対し、「全額を返済」する必要があります。
支払不能状態=返済が全くできないにもかかわらず、ある特定の債権者(一社だけなど)に偏って借金返済することはできません。
これを【偏頗弁済(へんぱべんさい)】といいます。
これは「債権者平等の原則」に反しているため破産法という法律で禁じられています。
もし今後、返済が難しくなり「個人再生」や「自己破産」をする必要が出てきた場合、偏頗弁済をしてしまうと、個人再生の申し立てをしても借金が減額されない可能性や、自己破産の申し立てでは、免責不許可になり借金が免除されなかったりする可能性があります。
一括返済をする場合は、全ての業者に一括返済ができる見込みがある場合にしましょう。
専門家なら、偏頗弁済に配慮しながら手続きを進めることができますので、一度、専門家に相談することをお勧めします。
期限の利益を主張できなくなる
任意整理後に、和解で決められた支払い期日前に業者から支払いを請求されても、「支払い期限日まで返済しません」と主張することができる権利があります。
和解で決めた期日までは、たとえ業者から請求されたとしても返済する必要はありません。
これを【期限の利益】といいます。
しかし、任意整理後に自分から返済業者に一括返済の申し出をし、了承されると、「期限の利益を放棄(期限の利益を手放す)」することになります。
つまり、一括返済を申し出のあとに「やっぱり分割払いにしたい」と思っても、すでに期限の利益を手放しているため「一括返済は取り消します」と主張することが出来なくなります。
期限の利益を放棄した後、一括返済できないと業者は財産の差押えなど強制執行をする可能性があります。
差押えとなると日常の生活に支障が生じるので、一括返済は【確実に支払える場合】にしましょう。
一括返済する際は専門家に相談する

一括返済をすることで借金は無くなりますが大きなメリットは期待できません。
一括返済を検討する場合、独断で返済方法を一括返済に変更することはしないでください。
自分ひとりの判断の場合、一括返済の申し出による「期限の利益」を失うことに気付くことが出来ないといった懸念があります。
また、一括返済をする場合の判断を誤ってしまうと、一括返済した後、生活への見通しが立たなくなるリスクもあります。
ご自身で業者へ連絡すると、誤った判断の際、変更が出来ませんが、専門家が間に入れば、本当に一括返済しても大丈夫かどうかを判断してもらうことができます。
任意整理の経験が豊富な専門家は、様々な依頼者とやりとりをしていますので、任意整理後の返済について、まずは気になることを専門家に相談をしましょう。
一括返済する際のまとめ

・任意整理後に一括返済することは、債権者の了承があればできます。
ただし、一括返済することでその後の生活状況が苦しくなる懸念があります。
・任意整理後に一括返済をしても、返済総額は最終的に変わりません。
一括返済を申し出ると「期限の利益を喪失」するため、その後、分割返済に戻すことはできません。
・任意整理後に一括返済すれば、精神的負担からの解放というメリットがある反面、リスクが伴うことを考えれば大きなメリットの期待はできません。
一括返済をする場合は、間違った判断をしないためにも専門家に相談することをお勧めします。