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債務整理

債務整理中の転職は危険|就職に及ぼす影響と手続き失敗のリスクについて解説

仕事選びや転職は、その後、長期間に渡りその会社や職場で働くことを考えると、人生を決定づける重大な転機となります。

そして、その転機やチャンスが訪れるタイミングは人それぞれであり、予想が出来るというものではありません。

ただし、債務整理中は、借金を抱えている状態であり、当然のことながら、毎月の借金の返済や積み立てを行わななければならないことが通常です。

特に任意整理、民事再生手続きにおいては、計画的に月々決められた返済額を支払っていく必要があります。

転職により、収入がアップするのであれば問題はありませんが、収入が減る、一時的に収入がなくなるということも珍しくありません。

債務整理中に転職をすることによって、人生設計や債務整理の返済計画が大きく狂ってしまい、自己破産以外の選択肢を選べなくなるというリスクがあることも忘れてはいけないのです。

以下では、転職による収入減少や各種の債務整理手続きに与える影響、問題点などを解説したうえで、転職をしたいと思ったときに債務整理の視点から考慮すべき事項について詳しく解説していきます。

そもそも債務整理中には転職はできるのか?

結論から言いますと、転職が出来なくなることはありません。

債務整理を弁護士に頼んで手続きを進めている人や、まだ手続きをしていないけれど債務整理を考えている人の中には、将来的には転職を考えている方もいるかもしれません。

実は、債務整理中であっても、就職活動や転職活動は可能ですし、もし新しい仕事に就くことができた場合も、問題ありません。

債務整理には、任意整理、個人再生、自己破産などの方法がありますが、どの方法を選んだとしても、転職に影響はありません。

つまり、自己破産手続きを進めている最中であっても、基本的には自由に就職活動をして、新しい仕事を始めることができるのです。

どのような人を採用するかはそれぞれの企業の裁量に任されている

前提として、企業が採用する人物の選定は企業自体の裁量によるものです。

債務整理をしているからといって、必ずしも就職が不可能というわけではありません。

ただし、一部の企業では債務整理の経験を重視する場合もあります。

たとえば、銀行などお金を扱う仕事では信用面が非常に重要視されますので、債務整理の経験があることが判明した場合、不採用になる可能性もありえるでしょう。

一方で、金銭面よりも実際の勤務態度や能力を重視する企業では、債務整理の経験を気にしない場合もあります。

採用先に債務整理を調べられることはほとんどない

債務整理を行うと、個人信用情報機関に「異動情報」として登録されます。

ただし、信用情報は本人の同意の下でカードの作成やローンの契約などに参照されます。

他人が勝手に信用情報を参照することは絶対にありません

また、債務整理の依頼を受けた弁護士・司法書士は、依頼者の秘密を保持する権利と義務を負っています。依頼者の情報を債務整理に無関係な第三者に漏らすことはありません。

就職・転職先に債務整理したことを言う必要はない

他にも「債務整理をした場合に、そのことを相手の企業に告げる必要があるのか」という点についても疑問があるかもしれません。

大多数の会社への転職の場合、実際に借金があるとしても、その事実をわざわざ伝える必要はありません。

面接の際にも、借金の有無や債務整理について質問されない限り、自ら申告する必要はなく、後で債務整理の事実が明らかになっても、そのことでクビになる可能性はありません

個人再生や自己破産は刑事罰ではなく、法律で認められた手続きですので、履歴書に記入する必要がないためです。

借金がないことや、採用の条件に債務整理をしていないことが挙げられているような特殊な会社でない限り、自ら借金があることや債務整理をしていることを会社に告げる必要はありません。

債務整理中の転職にはリスクもある

債務整理中に転職をすることは問題ありません。ただし、全くリスクがないわけではありません。

例えば、自己破産によって職業制限や資格制限がある場合、その期間中に該当する業務に就くことはできません。

また、個人再生や任意整理では、借金の返済が必須ですが、それが滞るリスクも考えなくてはなりません。

さらに、転職をすることが債務整理手続きそのものに悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。

以下で詳細に解説します。

任意整理と個人再生の場合、返済は必須

債務整理には大きく分けて3種類があります。

任意整理と個人再生では借金を減額したうえで、裁判所に認めてもらった返済計画や、債権者と合意した内容通りに返済することが必須となります。

この計画の変更が認められるには大変高いハードルがあるため、転職をして収入が減ったからと言って、返済額の変更に応じてもらえることは少ないです。

給与が発生しない時期が生じる

次の仕事を決めないで前職を退職し、転職活動を始めた場合、当然のことながら給与が発生しない時期が生じます。

例えば、前職を4月に退職したとして、5月に転職が決まり、6月から働き始めたが、最初の給与の発生が7月というケースも珍しくありません。

そのため、この4~7月の約4か月間、全く収入がない状態で生活しなければならないということもあり得ます。

数か月間も無給で生活するのは、普通の人にはかなり困難です。

そこに債務整理の費用や返済が重なってきたら、どうなるでしょうか。支払いが滞ってしまうのは目に見えているのではないでしょうか。

もちろん、失業手当などが発生したり、アルバイトをして食いつなぐことも考えられます。

ただ、それも本業と比べてたら決して十分と言えない金額であることが一般的で、「失業保険をもらって返済に充てる予定だったが、生活費ですべて消えてしまった」という事例も聞きます。

債務整理の期間中は、給与が出なくなるリスクを考えて転職をする必要があると言えるでしょう。

債権者との交渉が難航する原因になることもある

債務整理における債権者とは、平たく言うと「お金を貸してくれた人や会社」のことです。

任意整理は債務者と債権者との話し合いですから、当然、相手に返済額や利息の減額などを交渉する必要があります。

また、個人再生の場合でも、「この再生計画に反対します」という債権者の反対決議が多いと、裁判所が再生計画を認めることが出来なくなってしまいます。

この交渉や決議の際に、重要な要素になるのは、債務者の収入です。

「この人は減額すればお金を返せる人だから、任意整理や個人再生を認めていい」と考える債権者は当然いますし、「この収入では、債務整理を認めたとしても、失敗するのは目に見えているだろう」と考えられてしまっては、交渉はスムーズには進みません。

転職することによって、収入が上がるのであればいいのですが、収入が下がったり、無職の期間が長くなってしまったら、債権者との交渉が難航する原因となりえるのです。

返済計画が続行できないような転職はまずい

任意整理や個人再生では、「継続的な返済ができる収入がある」という条件を満たすことが重要ですから、収入が大幅に減少したり、転職に失敗して無収入になってしまうと、任意整理や個人再生の成功が難しくなる可能性があります。

転職を考える場合は、現在の収入と同程度またはそれ以上の収入が見込める場合に限定した方が良いかもしれません。

返済計画を継続できないような転職先は避けるべきですし、決まった返済計画に従って返済ができないような転職はおすすめできません。

もし返済ができないような転職をしてしまうと、任意整理の場合は交渉を打ち切られて訴訟に発展したり、個人再生の場合は、手続きがスタートしなかったり(棄却される場合もあります)、個人再生が認められても後から取り消されてしまう可能性があり、結果的に失敗に終わってしまいます。

支払いが出来なくなると、様々なペナルティを受ける

債務整理の手続きに失敗しても、そこで終わりにはなりません。

ただでさえ支払いが難しいから債務整理をしていたのに、手続きが失敗したため、自力で返済しなければなりません。

その場合、債権者からの督促が届く可能性があります。

返済をすぐに行えば問題ありませんが、その滞納を放置しておくと、最終的には裁判所に訴えられてしまい、給料の差し押さえという厳しい措置を受けることがあります。

また、住宅ローンがある人であれば、債権者により家の競売を行われ、強制的に家から追い出されるということになります。

他にも、銀行口座に入っている預貯金を差し押さえる口座差し押さえや、自宅に裁判所の人が来て、自宅にある価値のありそうなものを差し押さえる動産執行などを受けてしまう可能性があります。

行きつく先は自己破産

さらに悪いことに、このような状態になったら、もはやどこの債権者も交渉するより差し押さえをした方が早いですから、再度個人再生や任意整理をしても交渉に応じてもらえないこともかなり多く、行きつく先は自己破産のみということになりかねません。

語弊がないように申し上げますが、自己破産は決して悪いことではありません。

自己破産はすべての借金の支払いの義務が免除される、債務整理の中では最も大きな借金の減額が出来る手続きです。

たとえ、1000万円の借金でも、1億円の借金でも、支払いは0円に出来るというのは、非常に大きなメリットと言えるでしょう。

ただ、もしもあなたが

「自宅を持っているけれど、それを売却したくない」

「過去に妻に借金で怒られたことがあり、『これ以上借りたら離婚だ」ともいわれているので、借金をしていることを絶対に秘密にしないとならない」

「地方に住んでいるため、どうしても車を保有し続けたい」

と考えているのであれば、それを自己破産で回避するのは困難です。

自己破産は制約が大きく、持ち家や車、価値の付きそうな家財道具から仕事道具まで、様々な資産を売却しないといけなくなります。

また、信用情報への影響も大きく、最大10年、事故情報が残ってしまいます。

よくある債務整理中の転職の失敗事例

下記の内容は、実際にあった事例を基に作成しています。

自分にも当てはまると思ったら、注意してください。

転職で逆に収入が減ってしまった

Aさんは債務整理中に転職を考えました。

返済計画をしっかりと立てていましたので、いまより収入が減らないように気をつけるつもりでした。

しかし、転職先での給料は、Aさんが思っていたよりも低かったのです。

というのも、Aさんの仕事は、資格がないとできない業務が多く、資格取得をしたら手当がつくため収入は増えるが、基本給は安いという会社だったのです。

その結果、Aさんは返済に必要なお金を十分に集めることができなくなってしまい、返済が滞るようになってしまいました。

返済計画が守れなくなると、債権者に約束を破ったのだからお金を一括で返すように言われたり、裁判を起こすと言われたりするようになってしまいます。

Aさんは、債務整理中の転職をするときに、収入や返済のことをもっとじっくり考えたうえで計画的に行動すべきだったのです。

もっと情報を集めて転職先の給料や待遇もよく考えることで、収入が減らないような良い転職先を見つけることが大切でした。

何か月も仕事が決まらない

Bさんは借金の問題を解決するために任意整理の手続きを始めました。

各社との和解は無事に済み、いざ返済が再開するというタイミングで、Bさんは返済に苦慮してました。

その原因は、Bさんが前職を退職するタイミングにありました。

彼はまだ転職先が決まっていないのに、前職を辞めてしまったのです。

もともと、Bさんは会社に不満を持つことが多く、「仕事がきつい」「仕事にやりがいがない」としばしば転職を繰り返していましたが、今回もまたそのパターンでした。

当初は「まだ若いので3か月くらいで新しい仕事が見つかる」と楽観的に考えていたものの、気づけば半年以上も無職のまま時間が過ぎていました。

今までは手元に多少残っていた前職の給料や失業保険でやりくりをしていましたが、いよいよ手持ちが尽きてしまい、返済が滞るようになったのです。

転職活動は思った以上に時間がかかるものです。求人情報を探し、応募書類を作成し、面接を受けるという一連の手続きが必要です。

そして、内定をもらってから実際に転職するまでにも時間がかかるのです。

転職先がまだ決まっていないのに前職を辞めてしまうと、収入が途絶えてしまい生活に困ることもあります。

結論として、債務整理中に転職先がまだ決まっていないのに前職を辞めることは避けるべきです。

給料日がずれてしまい、返済が出来なくなった

Cさんは借金問題を解決するために債務整理の手続きを進めていました。

そして、新たな職場への転職を考えました。

しかし、前職では15日支払だった給与が、転職先での給料日は月末払いだったため、支払い予定日とズレが生じてしまったのです。

Cさんは給料日がずれることにより、支払いが出来るのはいつも月末。

常に返済スケジュールから半月ほど遅れた状態で返済計画を履行していたものの、「また遅れている」と債権者から催促の連絡は止みませんでした。

そしてある時、急な出費によってさらに返済が困難になり、結局、返済計画は無効となってしまいました。

この事例からわかるように、債務整理中に転職をする際は、給料日や支払い予定日に関する認識の齟齬に注意が必要です。

給料日がずれることで返済計画の遂行が困難になり、遅れ遅れの返済になったり、急な出費に対応できなくなったりすることがあります。

転職先で必須の資格が自己破産により使えない

Dさんは自己破産の手続きの最中に転職を考え、前職を離職しました。

その際に問題が発生しました。

なぜなら、転職先で必要な資格が職業制限により使えなくなってしまったからです。

このDさんは保険の外交員でしたが、保険業法の307条では、保険募集人(外交員)が自己破産すると「登録を取り消すことができる」と規定されています。

もちろん、自己破産したからと言って必ずしも資格が取り消されるわけではありません。

しかし、一部の会社では自己破産を解雇事由にしている場合もあるため、自己破産の手続き中のDさんの転職活動は上手く運びませんでした。

この事例からわかるように、自己破産をすると職業制限が生じる可能性があることが分かります。

転職を考える際には、自己破産による職業制限があるかどうかを確認する必要があります。

自己破産を行った場合には職業制限が発生する可能性があるため、転職先で必要とされる資格や免許を持っている場合は慎重に考える必要があります。

自己破産によって資格が無効化されることで、望む職業に就くことが難しくなる場合もあります。

借金問題を解決するためには自己破産を選択することもありますが、将来の職業選択にも影響を及ぼすことを念頭に置いておく必要があります。

債務整理中に転職をしたらどうなるのか?手続きごとに解説

前にも述べましたが、債務整理手続きには大きく分けて3種類の手続きがあります。

任意整理、自己破産、個人再生はそれぞれ別種の手続きですので、債務整理中に転職をすると、それぞれの手続きに異なる影響が出ます。

また、債務整理の効力が、転職活動に悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。

まず任意整理ですが、転職活動には大きな支障はほとんどないと言えます。しかし、転職によって収入が変わる場合には、返済計画が遂行できないおそれがあります。

次に自己破産です。転職によって収入に変動がある場合には、免責の期間や条件に影響が出ることがあります。

また、自己破産は法的な拘束が多く、資格制限や職業制限の対象になるため、選ぶ業種や職種によっては、就職しても働けない、もしくはそれが原因で採用されなかったり、採用を取り消されたりするということもあり得るでしょう。

最後に個人再生です。個人再生も転職によって収入が変わる場合には、再生計画の遂行が困難になる可能性があります。

再生計画通りの返済ができないと、再生計画が取り消され、減額前の借金が復活することになります。

以下で、各手続きごとに詳細に解説します。

任意整理中に転職したらどうなるか?

原則として支障はない

任意整理は裁判所を通さずに進めることができる債務整理の方法であり、通常、転職や就職活動に支障をきたすことはありません。

任意整理の手続き中でも転職や就職活動を行うことが可能であり、弁護士や債権者から希望する企業に連絡が行くこともなく、企業からの調査を受ける心配もありません。

転職において、任意整理をしていることが制約となる職種は存在しません。

ですので、任意整理をしている最中でも自由に転職することができます。

支払遅延や支払い不能のリスクはある

ただし、転職によって収入に変動が生じる場合、返済計画に影響が出る可能性があります。

任意整理の場合は、転職後も返済が継続されるため、毎月の返済額に支障が出ない収入が確保できるかが重要なポイントとなります。

転職によって収入が増える場合は特に問題はありません。

通常は返済可能額も増加するため、任意整理には悪影響はないからです。

問題なのは、転職によって収入が減少したり、収入の安定性が低下したりする場合です。

この場合、当初の返済計画を維持することが難しくなる可能性があります。

また、転職活動期間が長引くことによっても、同様に収入減による当初の返済計画を維持することが難しくなるリスクがあり得ます。

任意整理中であることを知られると事実上の不利益を受ける可能性がある

任意整理であることが、転職の不利益になることはほとんどありません。

前にも述べた通り、会社が調べることもないし、自ら申告する義務があるわけでもないためです。

ただし、任意整理中であることを就職前に知られた場合は、採用が見送られる可能性は否定できません。

特に銀行などの金融業界では個人の信用情報を重視する傾向があり、採用に対するマイナスの影響を与えることがあります。

また、業務上お金を取り扱うことが多い業種や職種への就労も難しくなるかもしれません。

例えば、経理などの採用を目指す場合は、任意整理中であることを知られてもメリットはないでしょう。

これらはいずれも、お金を取り扱う業界であったり、職種、業種であることが共通しています。

自己破産手続中に転職したらどうなるか?

資格制限による転職への影響

資格制限とは、自己破産の手続き中に特定の職業に就けなくなる制約のことです。

自己破産をする場合には、一部の仕事に一時的に制限がかかることになります。

しかし、資格制限があるのは一部の職業であり、それ以外の仕事には通常通り就くことができますので、大きな問題にはなりにくいです。

資格制限は、自己破産手続きの開始時から適用されます。そして、免責が認められた時点で制限が解除されます。

具体的な期間は、自己破産手続きのタイプによって異なります。

同時廃止と呼ばれる手続きでは、約2〜3ヶ月で免責が得られることが一般的です。

一方、管財事件と呼ばれる手続きでは、約6ヶ月〜1年程度の期間がかかる場合があります。

したがって、自己破産による資格制限によって一時的に就職できない職業が発生しても、制限は数ヶ月で解除されるということになります。

そのため、自己破産の資格制限が就職に与える影響については、あまり心配する必要がないことがわかります。

資格制限がある職業の一例

資格制限がある職業は法令により様々ですが、一例をご紹介いたします。

弁護士

司法書士

不動産鑑定士

税理士

行政書士

警備員

保険外交員

不動産の宅建業者

旅行業者

貸金業者

測量業者

通関業者

卸売業者

風俗営業

また、後見人として認知症の人などの財産を管理する仕事にも就くことができません。

なお、自己破産をすると公務員になれないという噂がありますが、これは真実ではありません。

公務員には欠格事由があり、前科がある場合などには公務員になることができないとされていますが、借金があることや債務整理(自己破産)の経験があることは欠格事由には該当しません。

ただし、自己破産をすると一時的に資格制限があり、公証人や国家公安委員会の委員、教育委員会の委員、人事院の人事官などの職業に就くことが制限されます。

しかし、その他の一般的な公務員職については問題ありませんし、資格制限のある職業についても、免責が認められれば資格が回復します。

また、公務員の採用時には通常、過去の自己破産や債務整理の経歴を調査されることはありません。

官報を調べられる可能性

自己破産や個人再生をすると、政府の発行する公式機関誌である「官報」に個人の住所や氏名が掲載されることになります。

官報は、政府が日々発行している新聞のようなものです。

「新聞に掲載される」と聞くと、一気に広く知られてしまうような印象を持つかもしれません。

しかし、官報を読んでいるのは、一般的に、公務員や金融機関、法律事務所の職員あたりで、一般企業ではほとんど購読されていません。

また、官報に記載されるのは法令の公布や、国会の議案や議事に関する日程、政府の人事異動、政府関連機関の入札情報、自己破産や失踪宣言、会社の組織変更や解散など多種多様で、実際には個々の情報を細かくチェックしている人はほとんどいません。

そのため、自己破産や個人再生の情報が官報から広く知られることはほぼありえないといえるでしょう。

収入が上がりすぎると自己破産が出来なくなる場合も

自己破産は、簡単に言うと「今ある資産を売ったり、頑張って働いても借金が返しきれない」ということを、裁判所に認めてもらう手続きと言えます。

つまり、財産(収入+手持ちの物品や資産等)を借金が上回ってる必要があるということです。

ここで、就職活動で収入が大幅に上がってしまった場合「あなたは頑張って働けば借金を返せるでしょう」と判断され、自己破産の許可が下りないということも考えられます。

自己破産は、お金を貸してくれた人たちに泣いてもらう手続きですから、返済ができるかもしれないのに、安易に認めてしまって債権者に損をさせてはいけないためです。

したがって、収入が上がりすぎるということにも、注意をしなくてはならないことは念頭に置いておく方が良いでしょう。

個人再生手続中に転職したらどうなるか?

官報を調べられる可能性

これは自己破産と同様で、官報から知られるリスクはあり得ます。

ただし、先述のとおり、実際には個々の情報を細かくチェックしている人はほとんどいません。

そのため、自己破産や個人再生の情報が官報から広く知られることはほぼありえないといえるでしょう。

ただし、金融機関や不動産会社などの業種によっては、官報の情報を重要視することがあるかもしれません。

したがって、転職を考えている場合は、それらの業種での就職先を選ぶ際には官報の情報が関与する可能性を念頭に入れておくことが重要です。

再生計画が守れない場合、個人再生失敗のリスクがある

大幅な収入減によって継続的な返済が困難になる場合、個人再生の申し立ては棄却されてしまいます。

棄却とは、裁判所が申し立てを認めないという判断を下すことです。

そのため、個人再生の手続き自体が開始されず、希望していた個人再生が実現できなくなってしまいます。

また、個人再生の手続き中に転職し、継続的な返済が見込めないと判断されると、再生手続きは廃止されます。

廃止されると、手続きが進んでいた段階で中止されることになります。

この場合、個人再生を諦めて任意整理や自己破産へ手続の進め方を変更するか、再び最初から個人再生の手続きをやり直す必要があります。

個人再生が認められるまでに時間がかかる

個人再生手続中に転職してしまうと、個人再生の手続き中に提出した書類を修正する必要が生じます。

申立て時に転職前の状況を基に書類を作成している場合、職場や収入が変われば、それに応じて書類も修正しなければなりません。

また、転職前の状況を前提として個人再生の承認を受けていた場合は、債権者や裁判所は再度状況を判断し直す必要があります。

そのため、書類の修正や裁判所の判断が遅くなることによって個人再生の認定までの時間が延びることになります。

ただし、個人再生においては、転職をした事実よりも、収入の方が大きなファクターになると言えます。

また、書類の修正が必要な場合でも、弁護士・司法書士の指示に従って修正すれば、書面自体が個人再生に大きな影響を及ぼすことはあまりありません。

もっとも、これまでの手続きが無駄になるわけではありませんが、同様の手続きを再度行う必要があるため、時間がかかることになります。

個人再生では継続的な返済が見込める収入がない転職はNG

転職後に再生計画通りの返済ができないと、個人再生は失敗します。

再生計画が取り消されると、減額された借金が復活し、再び高額な返済が必要になります。

また、再生計画が取り消されると、借金の減額効果がなくなるだけでなく、債権者からの取り立てや督促が再開される可能性もあります。

債権者は、個人再生が失敗した場合に自己破産を考える可能性があると判断し、督促を強めたり、訴訟手続きを早めることも考えられます。

このように、債務整理のおかげで取り立てや督促から解放されたのに、個人再生の失敗により、債務整理以前と同等、またはそれ以下の状況に戻ることになるため、収入が減るような転職はNGです。

債務整理中に転職したいときに考えるべきポイント

最後に、債務整理中に転職がしたいと考えたとき、債務整理の視点からどのようなポイントに注意する必要があるのかについて解説していきます。

債務整理の計画に則った支払いが維持可能か

既に何度も言ってきたように、任意整理と個人再生では、借金を減額してもらう手続きです。

そのため、減額後の金額での返済を継続できるかどうかが重要なポイントです。

任意整理では、債務者と債権者が話し合って返済条件を再調整します。

そのため、転職によって収入が変動する場合、返済計画に影響が出る可能性があります。

転職先での収入が減少したり、退職によって収入が不安定になったりすると、減額後の返済計画が破綻するおそれがあります。

個人再生でも同様です。

個人再生では減額された金額での返済を継続することが求められます。

転職によって収入が減ったり、不安定になったりする場合には、再生計画通りの返済が難しくなる可能性があります。

再生計画通りに返済できないと、再生計画が取り消され、減額前の借金が復活してしまいます。

以上のことから、転職してもしばらくは返済に困らないくらいの手持ちがない限りは転職は控えるべきでしょう。

前職との間に空白期間が生じないか

債務整理中に転職をするときは、前の仕事を退職してから新しい仕事が始まり、給与が発生するまでの間に空白期間が生じることがあります。

この間、お金をもらえない可能性があることを忘れないでください。

返済が滞ってしまうと、債権者から督促の連絡が増えたり、厳しい取り立てが行われ、場合によっては返済計画が破棄され、訴訟や一括請求を受ける可能性があります。

ですから、転職を考えるときは、前の仕事と新しい仕事の間にできるだけ空白期間がないようにすることが大切です。

前職に在籍中に転職先が決まっている状態で退職をするのが理想的だと言えます。

それが難しい場合でも、転職の計画を立てるときには、前の仕事をいつ退職し、新しい仕事がいつ始まるかをしっかりと調べて、スムーズに移り変われるようにすることが重要だと言えるでしょう。

失業保険や前職の有給消化などの手配はできるか

もし空白期間が生じてしまう場合でも、お金の収入がない期間や返済計画への影響を予め考えておくことが重要になります。

有給消化の手配ができるかや、失業保険の給付を受けることで、返済の問題を避けることができる可能性がありえます。

失業保険は、前職を辞めた後に一定の条件を満たすと受け取ることができるお金の支援です。

転職するときには、この失業保険を活用することで、収入の一部をカバーすることができるかもしれません。

また、前職で未使用の有給休暇がある場合には、それを利用することも考えましょう。

自分の状況が条件に合致しているかどうかを把握することが重要です。

また、失業保険や有給休暇の手続きは、転職前にしっかりと行っておく必要があります。

期限を守って手続きを進め、受給や利用できるように準備しておきましょう。

給与額や支払日などに認識の齟齬がないか

債務整理中に転職を検討する際には、もう一つ重要なポイントがあります。

それは、新たな職場での給与額や支払日など、収入に関する情報が正確に把握できているかどうかです。

転職によって収入が変動する場合があります。新しい職場での給与額が前職よりも高くなる場合もあれば、逆に低くなる場合もあります。

債務整理中は、継続的な返済が求められるため、収入の変化によって返済計画に影響が出る可能性があります。

また、給与の支払日や支払い方法も重要な要素です。

返済計画では、決まったスケジュールに従って返済を行うことが求められます。

そのため、新たな職場での支払日や給与の振込方法が、現在の返済計画と整合しているかどうかを確認する必要があります。

もし給与額や支払日に認識の齟齬がある場合は、返済計画の見直しや債権者との交渉が必要になるかもしれません。

新たな職場での収入を考慮に入れ、返済計画の修正や支払い方法の変更を行うことで、返済の継続性を確保することが重要です。

何を目的にして転職するのか、債務整理中にすべきなのか

最後のポイントですが、「そもそも、何を目的にして転職するのか」を考えることです。

自分の人生設計の中で、どうしても転職が必要になることはあり得ます。

例えば、収入がすくないフリーターが、債務整理のために収入が安定している正社員として登用される職場へ転職をするといった前向きな理由であれば、それは債務整理中であっても咎められるような理由ではないでしょう。

ただし、前向きな理由で退職をするという人は普通はあまりいません。

退職理由としてよく上げられるのは、

「人間関係が悪い」

「仕事内容が合わなかった」

「求人票と実際の条件が違った」

といったような理由が多いです。

もっとも、それは借金がない人や退職してもしばらくは生活できる程度の余裕のある人であれば、という前提の下で成り立つ理屈ではないでしょうか。

それであれば、誰にも迷惑はかかりません。

一方、債務整理中の人や、既に借金がある人が仕事を辞めれば、返済が滞るのは目に見えています。

転職をすることで収入が下がるリスクがあるかもしれません。

そのような状況にもかかわらず、自分の不満や気持ちを優先して、自ら収入源を絶った上で、せっかく債権者や裁判所が飲んでくれた返済計画を破るというのは、いささか無責任が過ぎるとは感じませんか?

仕事を辞めるのはあくまで自由ですが、返済の約束を破っていい理由にはなりません。

法律的にも道義的にも、債務整理中の転職、退職は推奨されるようなものではないのです。