別除権
債務整理に関する問い合わせは
- 「借金が払えない」
- 「借金を減額したい」
- 「自己破産をしたい」
というように、借りた金をどうにかしたい側の方から頂くことがほとんどです。
一方、借りた側がいるということは、貸した側がいると言うことです。
そのため、あまり多くはありませんが、
別除権
「お金を貸してあげた人が自己破産をするようなのですが、
どうにかしてお金を回収できないか?」
というように、お金を貸した側の方からお悩みを伺うことがあります。
この点については、すべての債権者は平等に扱うと言う原則がある以上、
ほかの人に先んじて、弁済を受けることは本来はできません。
ですが、債権者平等の原則には別除権という例外があります。
この権利を行使することで、他の人に先んじて返済を受けられる場合があります。
本記事では
別除権
- 債権者平等の原則とその例外である別除権とは何か
- どのような場合に別除権が認められるのかについて
詳しく解説していきます。
債権者平等の原則と別除権とは?
債権者平等の原則とは
別除権
民法の一般原則の一つに、「債権者平等の原則」というものがあります。
つまり、債務者に対して債権を有する各債権者は、債権の発生時期や発生原因に関わらず、債権額に応じて平等に取り扱われ、債務者の全財産から平等に債権額に基づく按分(比例配分)で弁済を受けるという原則です。
例えば、自己破産をした場合、借金がAさんから500万円、Bさんから300万円、Cさんから200万円の合計1000万円あるとします。
そして、配当できるお金が100万円あるとすれば、
- Aさんに50万円
- Bさんに30万円
- Cさんに20万円
と配当されることになります。
これが、債権者平等の原則の現れです。
この原則は、自己破産や個人再生の際に強く求められます。
債務者が破産をすると、全ての債権者は債務者に借金返済を求められなくなります。
にもかかわらず、特定の債権者だけが優先的に返済を受けたり、逆に全く返済を受けられない債権者がいることは「不公平」だからです。
そのため、法律では、債権者を平等に取り扱うことで、少しでも納得感のある形で自己破産や個人再生を進めることを大事にしているのです。
別除権とは何か?
債権者平等の原則があることから、お金を貸す会社は、破産のリスクを考えます。
そして、借り手の信用情報を調査し、貸付リスクを回避しようとします。
ただ、あまりにも厳しい貸付条件は、貸す側も借りる側も不利に働きます。
たとえば、
100万円を貸してほしいなら、100万円を預けてください
と言われたらどうでしょうか?
確かに、返済不能のリスクはなくなりますので、お金を貸す側には安心ではあります。
ですが、この条件でお金を借りる人はいないでしょう。
このように、安全性を高めようとすると、今度は借りてくれる人がいなくなります。
そこで、リスクを低減するための方法として、担保権という制度があるのです。
担保権とは?
担保権とは、お金を借りる人が財産や権利を担保として差し出して、借金の返済が滞った場合には、担保をお金に換えることで、優先的に返済を受けられるようにする権利です。
担保制度があることで、債権者は回収の見込みが立つので、安全にお金を貸せます。
一方、借りる方も、財産を売ることなく、お金を借りることができるようになります。
そして、この担保と言う制度が債務整理の手続きの中では、別除権として現れます。
別除権は、自己破産や個人再生の手続きの中で、特定の担保権を行使して、優先的にお金を受け取る権利のことです。
例えば、自己破産をする人が、住宅を保有していたとします。
この住宅は自己破産の手続で売却処分されて、売買代金は全員に平等に分配されることとなります。
ですが、この住宅が抵当に入っている、担保として差し入れられているなどの事情で、担保権を有する債権者がいた場合は、この債権者は他の債権者に優先して、売買代金を受け取ることが出来るのです。
別除権は債権者平等の原則の数少ない例外
まとめると、担保権とは借金の返済を担保するための財産や権利を差し入れることで、返済を確保するための制度です。
債権者がお金を貸すときに担保権をつけていた場合、担保権をつけなかった場合と同じように返済してもらうことは、むしろ「不公平」ですから、担保権がついている借金については、「債権者平等の原則」の対象にはならず、担保権を行使することで、他の人に優先して借金を返してもらうことができます。
担保権は債権者平等の原則の例外と言うことになります。
そして、担保権は破産や個人再生の手続きの中では別除権と言う形で行使可能で、保護されることとなります。
つまり、別除権を持っている債権者は他の債権者よりも優先して借金の回収ができたり、弁済を受けることが可能になります。
別除権が認められるケースとは
別除権が認められるケース(1)先取特権
先取特権(さきどりとっけん せんしゅとっけんとも読む)とは、特定の種類の債権を有する者に与えられる権利であり、他の債権者よりも先に自身の債権を優先して受け取ることができる権利を指します(民法第303条)
この権利は、民法や特別法に定められた要件を満たすと、債務者との合意がなくても発生し、債務者の特定の財産から債権を回収することが可能です。
先取特権には、
全員の利益になる費用の支出や雇用関係により生じたお金を担保する「一般先取特権」
賃貸物件の家具や売買した物品などの特定の物に生じる「動産先取特権」
不動産の工事や売却によって生じる「不動産先取特権」
の3種類があります。
先取特権の種類
先取特権の種類 | |
一般先取特権 | ・共益の費用 各債権者の共同利益のためになした、 債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用(307条1項) ・雇用関係 給料その他債務者と使用人との間の 雇用関係に基づいて生じた債権(308条) ・葬式の費用 債務者のためにされた 葬式の費用の内、相当の額(309条1項、2項) ・日用品の供給 債務者等の生活に 必要な食事や光熱費等の供給(310条)。 |
動産先取特権 | ・不動産の賃貸借(312条〜316条、319条) ・旅館の宿泊(317条、319条) ・旅客又は荷物の運輸(318条、319条) ・動産の保存(320条) ・動産の売買(321条) ・種苗又は肥料の供給(322条) ・農業の労役(323条) ・工業の労務(324条) |
不動産先取特権 | ・不動産の保存のために要した費用 又は不動産に関する権利の保存、 承認若しくは実行のために要した費用(326条) ・不動産の工事 不動産の工事の設計、施工又は監理をする者が 債務者の不動産に関してした工事の費用(327条1項) ・不動産の売買 不動産の代価とその利息等(328条)。 |
別除権が認められるケース(2)質権
質権とは、債権を保証するために債務者や第三者から受け取った物を債務が完済されるまで保管し、債務者が支払いを促す間接的手段として利用し、また支払われない場合にはその物を清算することで優先弁済を受ける権利です。
質権には、動産を対象とする動産質、不動産を担保にする不動産質、売掛金債権などを対象とする債権質などがあります。
中にはお金に困った際に、質屋を利用したことがある方がおられるかもしれません。
質屋さんというのは、物を預けることでそれを担保にお金を貸してもらうお店ですが、まさに動産質の典型的なパターンです。
質権の特徴は、「お金を返すまでは物を預かっていていい」という点にあります。
この点は、次に説明する抵当権との大きな違いです。
別除権が認められるケース(3)抵当権
さきほどまでご紹介してきました先取特権や質権と言うのは、民法上認められていますが、先取特権を主張する場面は一般の方には縁遠く、質権では物を預ける必要があるという性質から、一般に広く知られた権利ではないでしょう。
一方で、この抵当権というのは、ボードゲームに登場するほど有名な担保権ですから、聞いたことがある方もおられるかもしれません。
抵当権とは、住宅ローンなどを借りるときに、銀行などが家や土地を担保として差し入れてもらい、もし返済が滞った場合にはその家や土地を差押え、優先して弁済を受ける権利のことです。
抵当権はなぜ頻繁に利用されるのか?
質権とよく似ていますが、質権と比べて抵当権がよく利用されているのは、使いやすい担保の一つだからです。
抵当権のいいところは、家や土地を担保として差し入れた後も、自由に使えることです。
例えば、住宅ローンを組む際に
「完済できるまで30年間は自宅に住めません」
と言われたら、何のために住宅ローンを組んでいるのかわかりません。
それに、事業拡大のために工場を担保にしてお金を借りたいと思っても、
「貸したお金を完済するまで工場は操業できません」
と言われてしまったら、商売あがったりです。
ですが、抵当権なら、このような心配はありません。
住宅等の不動産を自由に利用しながら、借金を返していけます。
工場に関しても、操業しながら担保として、事業資金を借り入れられます。
このようなメリットがあることから使い勝手が良く、多くの方に利用されているのです。
別除権が認められるケース(4)その他の非典型担保
ここまで解説してきたのは、民法の規定がある担保権です。
他にも、民法には規定がないものの、広く認められた担保権があります。
譲渡担保権
譲渡担保権は、債権の保証として、債権者にあらかじめ目的物の所有権を譲渡し、①債権が返済されると所有権は債務者に戻り、②返済されない場合は債権者が処分する担保権です。
②の場合、換価価値が残債権額を超えていれば、債権者は清算義務を負います。
債権譲渡担保
誰かにお金を貸したり、物を買った場合、お金や物を受け取る権利があります。
これらの権利(債権)もまた、担保の対象になります。
これら債権を担保にすることを、債権譲渡担保と言います。
債権譲渡担保の対抗要件は、確定日付のある通知または第三者債務者の承諾です。
譲渡人が法人の場合は、登記を経ることで対抗要件を具備することもできます。
譲渡人が破産手続きを開始した場合、譲受人は債権全額を譲渡制限の意思表示を知っていたかどうかに関わらず、債務者に対し債権全額に相当する金額を供託するよう請求できます。
集合債権譲渡担保
集合債権譲渡担保では、多数の債権を一括して担保として設定することです。
破産手続開始前に対抗要件があれば、それは別除権と見なされます。
集合債権譲渡担保では、一定期間の喪失事由が生じるまで債務者は取立権を維持し、取立てた金額を費消することができます。債務者が取立権を失った後に破産管財人が債権を取り立てた場合、破産管財人は担保権者に不当利得返還義務を負います。
破産手続開始後、破産管財人が同種の債権を取得した場合、その債権に譲渡担保の効力が及ぶかどうかは問題となります。例えば、破産者が商品の販売代金債権を担保に供しており、破産管財人が在庫商品を売却して換価した場合に問題が生じます。
別除権の効果とは?具体的にどのような場合に認められる?
別除権の効果とは
破産手続においては、一定以上の価値のある財産は売却、清算をしなければなりません。
そして、清算されたお金は、債権者平等の原則に従い、平等に分配されます。
ですが、別除権の効果は、破産債権者よりも先に、取り立てや回収・弁済を受けることが出来るということです。
ただ、具体的なイメージがわかないかもしれないので、ここからは、別除権がどのように利用されるのか3つのケースに当てはめて解説します。
別除権が認められる具体的ケース①|リース契約のある車など
リース契約とは、リース会社が自動車や機械などを利用者の代わりに購入し、一定の期間有償で利用者に貸し出す契約です。
通常、高額な機械やパソコンなどがこの契約の対象となります。
リース契約が成立する場合、利用者が代金を完済するまでの間、目的物の所有権はリース会社が留保され、代金を完済した時に、利用者に所有権が移ると言う仕組みです。
利用者が自己破産の手続きを行った場合、このリース契約は解除され、リースしている車や機械などは本来の所有権者であるリース会社が引き揚げることが認められます。
別除権が認められる具体的ケース②|質屋に入れた品物の質流れ
質屋からお金を借りて、担保として物品を預け入れていた場合、自己破産や個人再生の手続きを取ると、質屋はその物品を処分することで優先的に弁済を受けることとなります。
質屋さんの前を通ったことのある方は、質屋の店頭で物品の販売をしているところを見たことがあるかもしれません。
あれは質流れと言って、
債務者がちゃんと借金の支払いが出来なかったので、
預け入れた物品を売って清算しよう
としているところなのです。
別除権が認められる具体的ケース③|抵当不動産の強制競売
住宅ローンを組む場合、通常、銀行などの金融機関は住宅に抵当権を設定します。
これにより、債務者が自己破産を申し立てても、金融機関が抵当権を行使して住宅を売却し、その売却額を自己の債権に充当できるのです。
そのため、金融機関は事前に抵当権を設定しておくことで、破産手続きに関わらず抵当権を実行し、住宅を売却して売却額を残債に充てることができるようにしています。
具体的には、裁判所に競売手続きを申し立てることで、裁判所を通じて競売が行われます。
ちなみにですが、この競売の様子は裁判所の運営する不動産競売物件サイト(通称:BIT)で見ることが出来ます。
まとめ
債権者平等の原則と別除権
債権者平等の原則は、債務者にお金を貸した人たちが、貸した金額に応じて平等に扱われるべきだというルールです。
借り手が自己破産などの法的手続をするときには、平等性や公平性の観点から、この原則が重視されます。
一方、別除権とは、借り手が借金を返すときに、特定の担保を持つ債権者が他の債権者よりも先にお金をもらえる権利のことです。
本来は、債権者は平等に取り扱われるのですが、別除権はこの原則の例外にあたり、担保を持つ債権者は他の債権者よりも優先してお金をもらうことができます。
別除権が認められるケース
(1) 先取特権
定義
法律上の要件を満たす債権を持つ人が、他の債権者よりも先に自分の債権を優先して受け取る権利です。
種類
- 一般先取特権 共益の費用や雇用関係から生じる債権など
- 動産先取特権 不動産や旅館の宿泊など、特定の物品に生じる債権
- 不動産先取特権 不動産の保存や工事によって生じる債権
(2) 質権
定義
債務者や第三者から物を受け取り、債務が完済されるまで保管し、優先して弁済を受ける権利です。
種類
- 動産質
- 不動産質
- 債権質
(3) 抵当権
定義
家や土地などの不動産を担保として差し入れ、返済が滞った場合にその不動産を差し押さえて優先して弁済を受ける権利です。
特徴
利用が容易で、不動産を担保にした後も自由に使用できる点が特徴的です。
(4) その他の非典型担保
譲渡担保権
債権者があらかじめ物を譲渡し、債権の保証とする権利
質権と異なり、物を預ける必要はありません。
集合債権譲渡担保
複数の債権を一括して担保とする権利
破産手続き開始前に対抗要件があれば、別除権とみなされます。
これらの担保権は、債務者や債権者が異なる状況に応じて利用され、債権者の権利を保護する役割を果たしています。