借金の返済が困難になった場合に、解決するための方法の一つとして「自己破産」が挙げられます。
よく耳にする言葉ですが、自己破産をすると財産が全て差し押さえられてしまう、と思っている方も多いのではないでしょうか。
ここでお伝えしておくと、自己破産における差押えとは、「破産管財人によって財産を処分される」という意味合いになります。
確かに、自己破産をすることで住宅や自動車など価値のあるものは処分対象となってしまうことはあります。
しかし、必ずしもすべての財産が処分対象となる訳ではありませんし、家族の名義のものまで影響するものではありません。
自己破産は借金問題を解決するために有効な方法の一つである為、その内容を正しく理解し、検討することが大切になります。
そこで、本記事では、自己破産を行うと財産はどうなってしまうのか、その気になる内容を解説していきます。
自己破産における差押え
差押えの意味
まずは「差し押さえ」の意味について解説します。
借金をした者が一定期間以上支払いをしないで借金を滞納し続けると、債権者は貸し付けているお金を回収するために「訴訟を起こす」ことになります。
裁判の目的は、「いくら貸し付けたか」「〇年〇月以降、約束通りの支払いがない」「該当者は借金の返済義務を負っている」などの権利と義務の関係を裁判所に確認してもらうことです。
通常、裁判を起こされた債務者は「これは大変だ」と考え、支払いを約束したり、返済計画を立て直したりすることで、債権者と和解をすることとなります。
これによって、債権者にとっては、貸したお金を回収する目途が立つこととなります。
しかし、一部の債務者は、確定判決が出ているにもかかわらず、支払いを行わない場合があります。
この場合、債権者は裁判所に債務者の財産を強制的に差し押さえる手続きを申し立てることができます。
この手続きでは、預金口座や給与、動産(貴金属や株式などの有価物)や不動産(土地や建物など)も差し押さえの対象となります。
これが法的な意味での「差押え」です。
自己破産における差押えの意味
では、自己破産でも前述した通り、給与や預金などが差し押さえられるのでしょうか?
これは、明確に「NO」だと言えます。
自己破産の手続きでは、このような強制執行の手続きがあるわけではないので、自己破産をしたからといって何かを差し押さえられるというわけではないのです。
では、なぜこのような誤解が生じたかと言うと、自己破産の場合には「価値のある財産を清算して、債権者に配当すること」が求められることがあるからです。
具体的には、自己破産を行うと、裁判所の指示に基づき特定の価値のある財産を手放さなければなりません。
この点が「差押え」と混同され、誤解が広まった原因と考えられます。
簡潔に言えば、自己破産では「財産の清算」が必要となることがありますが、これは「差し押さえ」とは直接関係がないものです。
反対に、自己破産の前に裁判や強制執行が行われた場合は、自己破産手続きを進めることで、裁判所が手続きを認めた際に給与や口座の差し押さえを無効化することも可能です。
自己破産は差し押さえを引き起こすものではなく、むしろ差押えを停止させる手段となるのです。
自己破産で処分対象になる財産
自己破産手続きは、債務者が一般的かつ継続的に債務を返済できない支払不能な状態にあるときに開始され、手元に残った財産を債権者に平等に配当し、残った債務については免責されます。
そのため、債務者の手持ちの財産は基本的に全て現金に換算されます。
土地・住宅などの不動産
不動産に関しては、通常その多くが20万円を越える価値を有しているため、これらは原則として処分対象とされます。
不動産があるからこそ生活が成り立つという観点から、「住む場所がなくなるのでは?」と考える方もいるでしょう。
しかし、住む場所については賃貸住宅などを利用することで確保できるため、現在所有している不動産は破産手続きにおいて処分されることになります。
ただし、もし住宅ローンが完済されていない場合、住宅ローンの債権者は抵当権などの特定の権利を有しています。
そのため、不動産を競売にかけることが可能であり、この権利を優先して行使することができます。
したがって、自宅を失う点においては、破産手続きとは別に、住宅ローン債権者が特定の権利を行使する可能性があります。
現金・預貯金
手元にある現金や預貯金は、その価値が金銭そのものにあるため、通常は配当や清算の対象とされます。
ただし、口座にわずかな金額しかない場合や、おおよそ20万円未満の金額の場合は、裁判所によっては清算の対象外となることもあります。
裁判所の基準には違いがありますが、20万円を越える金額が手元にない場合、清算の対象外とされることが一般的です。
また、全額が没収されると、自己破産後に生活を維持することが難しくなります。
そのため、裁判所が認める範囲内では、一定の金額を手元に残すことが認められます。
これを「自由財産」と呼びます。
例えば、99万円以下の現金も自由財産と見なされています。
ここでの現金は、財布に入っている紙幣や硬貨、タンスにしまっているへそくりなどを指します。
また、裁判所によっては電子マネーも現金に準じる形で扱われることがあるため、具体的な取り決めについては裁判所の判断に従う必要があります。
20万円を越える価値があるもの
自己破産手続きにおいて、裁判所の取り扱いは一概に言えないものの、大まかな傾向として、20万円を越える価値がある財産は処分対象となることがあります。
これには、自動車、有価証券、生命保険の解約返戻金、退職金、売掛金などが含まれます。
具体的には、自動車やバイクはその価値が20万円以上であれば処分される可能性があります。
生活に欠かせないものとされる自動車やバイクであっても、公共交通機関の利用が可能であるなどの理由からです。
自動車の場合、法定耐用年数を超えていれば通常は価値がないとされますが、市場での需要により20万円を越える価格がつく場合は処分の対象となります。
ただし、所有権留保がローンで購入した場合に存在する場合は、破産手続きよりも先に所有権留保者が処分を進めることができる点に留意が必要です。
同様に、有価証券などの金融商品も20万円を越える価値があれば金銭に換えることができ、この際には弁護士との相談が重要です。
また、株式やFX、仮想通貨なども20万円を越える価値がある場合には金銭に換えられ、これらの金融資産が債権を構成している場合も、回収が行われて金銭化されます。
その他
その他にも、清算の可能性がある対象が複数存在します。
貸付金、生命保険の解約返戻金や退職金、売掛金や商品在庫などがこれに該当します。
美術品や骨とう品なども、価値が見込める場合には鑑定が行われることがありますが、鑑定費用も考慮すべきですので、慎重に対応が必要です。
生命保険や個人年金の中で、解約返戻金が発生するタイプのものは金融資産として扱われます。
そのため、解約返戻金が20万円以上ある保険については、これをお金に換えることができます。
もし、自己破産を理由にして解約を避ける行為を行った場合、財産隠匿と見なされ、破産管財人によって取り戻しの対象とされ、免責不許可の理由にもなりますので、注意が必要です。
貴金属やブランド品などの資産もお金に換えることができますが、売却しても価値がつかない場合は除外されることもあります。
分割で購入している場合には、所有権がローン会社にある場合があり、その場合はローン会社が引き上げてお金に換えることができることもありますが、これは破産手続きとは別に処分されます。
また、退職金も法的には給与の後払いとみなされ、退職をしていない段階でも現時点での退職金から特定の基準に従って計算した金額が20万円を越えている場合には、資産として処分されることがあります。
退職金には複数の区分があり、それに応じて取り扱いが異なります。
裁判所によって取り扱いが異なることはありますが、基本的に20万円を越える価値がある財産は清算対象とされることが一般的です。
自己破産で処分対象にならない財産
自由財産とは
上記の通り、自己破産をする場合は、原則として、すべての財産を清算してもなお、借金が完済できないことを裁判所に認めてもらう必要があります。
ただし、財産が完全に没収されると、破産者は生計を立てる手段を奪われ、破産手続きの本来の趣旨である破産者の生活再建を妨げることになります。
このため、破産法では、破産手続が始まっても破産管財人の管理下に入らず、破産者が自身で自由に処分できる財産の範囲が定義されており、これを「自由財産」と呼んでいます。
つまり、自由財産とは、自己破産手続において破産財団に帰属しない、つまり自己破産後も所有が許可されている財産を指すのです。
具体的には、以下のようなものが該当します。
・99万円以下の現金
・破産手続き後に取得した財産
・法律で差し押さえが禁止されている財産
・「自由財産の拡張」が承認された財産
・破産管財人によって「破産財団」から放棄された財産
上記のようなものが自由財産に含まれます。
自由財産の拡張が認められた財産
自由財産の拡張が認められる財産は、基本的には合計で99万円までの範囲に限られます。
ただし、この99万円以内の金額に基づき、具体的な条件に基づいて自由財産の拡張が認めるべきかを裁判所が判断することとなります。
自由財産の拡張が認められる条件は、裁判所が破産者の生活状況や手続き開始時の財産、収入などを総合的に考慮して決めるため、個別のケースによって条件や理由が異なります。
裁判所は「自由財産の拡張をしないと自己破産後に破産者が生活の立て直しをすることが難しくなるか」といった要因を考慮して、自由財産の拡張が認められる場合があります。
裁判所が通常認める自由財産の拡張対象には、次のようなものがあります。
定型的拡張財産
・預貯金
・生命保険解約返戻金
・自動車
・居住用家屋の敷金債権
・電話加入権
・退職金債権
これらは生計に必要な財産であり、自由財産の拡張が認められることがあります。
ただし、趣味や不要な財産は除外されることもあります。
・財産評価額の合計99万円までの財産
定型的拡張財産に該当しても、評価額の合計が99万円までの財産に限り、自由財産に組み込むことが認められます。
例えば、預貯金50万円、自動車50万円、生命保険解約返戻金20万円の場合、総額が99万円を超えると選択が必要です。
ただし、この自由財産の拡張は例外的で難しい場合があります。
破産管財人が破産財団から放棄した財産
破産管財人は、債権者に対する支払いを増やす一方で、迅速な破産手続きを進める必要があります。
このためには、財産の早期処分も求められます。
通常、破産管財人は破産者と協議し、裁判所の承認を得て「権利の放棄」を行います(破産法78条2項12号)。
これには以下のような事例があります。
・債権の放棄による債務免除
・財産の所有権の放棄
・裁判の取り下げ
・訴えの放棄
しかし、財産処分には時間がかかる場合や、配当率の向上に寄与しない場合などがあります。
そのため、実益が乏しいと判断され、財産処分の対象から外す「財団放棄」が行われることもあります。
破産管財人が「財団放棄」を実施すると、個人破産者の場合、財産の処分権が再び破産者に戻ります。
ただし、裁判所の許可を得ずに権利を放棄した場合、この行為は無効とされます(破産法78条5項)。
この場合は、破産者が知らないことであっても、行為が無効となります。
「放棄」の中には、破産管財人が特定の財産について管理や処分をする権利を放棄する場合も含まれます。
このような「財団からの放棄」によって、元々破産財団に属していた財産が自由財産となり、破産者が自己破産後も手元に残せることとなります。
財産がない時はどうなる?
これまで、財産がある場合、自己破産をするとその財産がどうなるのかを見てきましたが、自己破産を申し立てる方々は、通常、大きな財産を所有しておらず、ほとんどの場合、清算しなければならない資産が存在しません。
では、財産がごくわずかしかない場合はどうなるでしょうか?
裁判所の基準は異なることがありますが、一般的には20万円を越える価値があるものが「高額な財産」と見なされることがあります。
たとえば、預金や保険解約金が20万円以上ある場合、これらの財産は清算の対象となり得ます。
もっとも、手元の財産が大きくなく、かつ借入の理由や経緯に問題がない場合、財産の処分が行われないことが一般的です。
つまり、清算価値のある財産を持っていないのであれば、自己破産の際に清算、配当の対象とならない可能性が高く、処分する必要はないと言えます。
最後に
自己破産を検討する方には、早期に弁護士に相談することが重要です。
以下に、その理由やメリットについて詳しくまとめます。
手続きの複雑さ
自己破産手続きは任意整理と異なり、裁判所に申し立てる必要があります。
複雑な手続きに必要な多くの書類がありますが、これらを正確かつ効果的に準備することが求められます。
弁護士は手続きの詳細を理解し、必要な書類の説明やサポートを提供します。
専門家のアドバイスとリスク回避
自己破産には成功する保証はありません。
破産法には免責不許可事由が存在し、それに当てはまる場合は免責が認められない可能性があります。
弁護士は免責の条件やリスクを理解し、個別のケースに合わせたアドバイスを提供します。
失敗や免責不許可のリスクを最小限に抑えるために弁護士のサポートが重要です。
書類作成のサポート
自己破産には裁判所へ提出するための様々な書類が必要です。
弁護士はこれらの書類の作成をサポートし、有効期限や必要事項の把握を助けます。
スムーズかつ正確な書類作成は手続きを円滑に進めるために不可欠です。
免責に向けた戦略立案
弁護士は個々のケースに合わせて免責を得るための戦略を立案します。
借金が膨れ上がった原因や改善すべき点についてアドバイスを受け、将来的な債務管理についても考慮されます。
裁判所への代理人としての機能
弁護士は裁判所での手続きにおいて代理人として機能し、法的なプロセスを円滑に進めます。
裁判所や破産管財人とのコミュニケーションを円滑に行うことで、手続きが効果的に進展します。
以上からも、自己破産の際には、弁護士の専門的なアドバイスを受けることで、より良い結果を得ることができると言えるでしょう。