債務整理

大量広告事務所による債務整理二次被害とは?その特徴や対策を解説します

借金の悩みを抱える人にとって、債務整理は人生を立て直すための重要な選択肢の一つです。しかし、近年、インターネット広告を利用して全国から大量の債務整理案件を集める「大量広告事務所」による不適切な対応が問題視されています。

これらの事務所は、弁護士や司法書士が直接面談することなく依頼を受けたり、法外な費用を請求したりするなど、依頼者の利益よりも自身の利益を優先しているケースが少なくありません。

中には、預かり金を横領して破産に追い込まれた事務所や、無資格の事務員に法律事務を行わせていた事務所もあります。

本記事では、「大量広告事務所による債務整理二次被害」について、詳しく解説をしていきます。

司法書士法人赤瀬事務所 借金減額診断スタート

大量広告事務所による債務整理二次被害とは?

大量広告事務所とは

2024年3月2日、衝撃的なニュースが公表されました。それは、多重債務者が「借金を減額」「国公認の救済制度」などをうたう弁護士らに相談し、逆に借金が増えるといった二次被害に遭っているというものです。(産経新聞「「借金減額」ネット誇大広告のワナ 弁護士の貧困ビジネスか、対策団体発足」)

これらの弁護士事務所は、「借金を減額できる」「国公認の救済制度がある」などと、インターネット広告で大々的に宣伝しているのです。しかし実際は、相談者の借金が逆に増えてしまう二次被害が発生しているのです。

このようにネット広告を利用して、全国から大量の債務整理案件を集めているのが特徴の事務所は「大量広告事務所」と呼ばれています。

大量広告事務所の特徴や実態

これらの事務所は、どのような特徴があるのでしょうか。
まずは、集客方法に着目してみましょう。
大量広告事務所は、ネット広告で「国が認めた借金救済制度」などと宣伝しています。
あたかも債務整理に絶大な効果があるかのように見せかけ、全国から大量の相談や依頼を集めているのです。

しかし、事務所の対応には大きな問題があります。
弁護士や司法書士への依頼では、直接の面談が原則とされているのですが、大量広告事務所の中には面談を実施せずに依頼を受けるケースがあるのです。しかも、面談以外の方法で本人確認などを行うことが例外的に認められている場合でさえ、電話相談すら行わない事務所もあるそうです。

さらに、相談対応の対応方法にも疑問が残り、依頼者に合った債務整理の方法を提案しているのかどうかも不明瞭です。
自己破産申立てが適していると思われる事案なのに、無理に任意整理を勧め、任意整理の途中で依頼者が支払えなくなると、他の法テラスや弁護士事務所に自己破産を勧めることもあるとのこと。

結局、依頼者の利益よりも、事務所の利益を優先しているのではないかと疑われます。

以上のように、大量広告事務所の一部では、非常に不適切な債務整理が行われているのが実情なのです。

依頼者の立場に立った対応がなされていないことが大きな問題だと言えるでしょう。

大量広告事務所の手口や二次被害の具体例

ネット広告での過大な集客

まず挙げられるのが、ネット広告での集客をおこない、全国から債務整理の相談や依頼を大量に集めているのが特徴です。

最近、「国が認めた借金救済制度」などと宣伝する広告が増えています。特にYouTubeやSNSでよく目にします。これらの広告の多くは、弁護士事務所や司法書士事務所が出しているのですが、債務整理にはあたかも絶大な効果があるかのように宣伝しているのです。まるでサラ金の広告のようだと感じる方も多いのではないでしょうか。「怪しい」「詐欺ではないか」など、その信用性を疑う声もよく耳にします。
例えば、ある弁護士法人のサイトでは、借金の金額や期間を入力すると「減額できる可能性がある」と表示されるそうです。そしてさらに詳しい個人情報を入力させ、メールや電話で依頼者になるよう誘導しています。

しかも、それらの広告から問い合わせをした相談者に対して、弁護士が直接面談することなく依頼を受けているというのです。(共同通信「不適正な債務整理200件 誇大広告、相談会実施へ」

費用に関するトラブル(高額な費用、不透明な料金体系など)

大量広告事務所では、高額な費用や不透明な料金体系によるトラブルが多発しているのです。
まず問題なのが、異常に高い報酬額です。相場と比べても明らかに高額で、依頼する前よりも負担が増えてしまったという声も少なくありません。
しかも、報酬の分割払いを認めてもらえず、支払いが滞るとすぐに辞任されてしまうケースもあるそうです。
さらに、費用の内訳が不透明なことも大きな特徴です。
さきほどご紹介しました産経新聞「「借金減額」ネット誇大広告のワナ 弁護士の貧困ビジネスか、対策団体発足」では、「借金を減額します」というネット広告を見て、診断サイトで「減額の可能性がある」との結果が出たため、弁護士事務所に依頼したものの、約2年間で返済のために支払った87万円のうち、半分が弁護士費用として消えていたという事例も報告をされています。

このように、大量広告事務所では費用に関するトラブルが後を絶ちません。
依頼者の立場に立った丁寧な説明や、適正な料金設定がなされていないのが実情なのです。

面談が不十分

日本弁護士連合会の規程・指針では、弁護士が債務整理の依頼を受ける際には、依頼者との直接面談が求められています。この面談を経ないで依頼を受けることが出来るのは、「面談することに困難な特段の事情があるとき」などの例外的ケースのみが想定されており、原則としては直接面談をするように定めています。(日本弁護士連合会「債務整理事件処理の規律を定める規程」第3条第1項および同2項を参照)

また、司法書士事務所の場合も、依頼者(又はその法定代理人)と直接面談をすることを義務付けています。ただし、面談以外の方法で本人確認や債務整理の意思意思確認が出来る場合は例外とされています。(日本司法書士連合会「債務整理事件の処理に関する指針」第5条を参照)

いずれにせよ、「直接の面談」を原則としつつ、やむを得ない事情がある場合には一時的には代替手段を用いても良いという規定になっています。ところが大量広告事務所の中には、電話相談すらも実施せずに依頼を受けるケースがあるのです。

不適切な事件処理や依頼者の意向を無視した手続き

まず、電話相談の対応者が一般職員であることが問題視されています。
弁護士や司法書士が直接対応せずに、法律の専門知識がない職員が対応するのは不適切ですよね。
適切なアドバイスができるのか疑問です。
そして、依頼者に合った債務整理の方法を提案しているのかどうかも不透明だと指摘されています。
本来は自己破産申立てが適しているケースなのに、無理に任意整理を勧めるなんてあってはならないことです。
依頼者の利益よりも、事務所の利益を優先しているのではないかと疑われても仕方ありません。
さらに、任意整理の途中で依頼者が支払えなくなると、他の法テラスや弁護士事務所に自己破産を勧めるという対応も問題だと思います。
最初から依頼者の実情をしっかり把握せずに、機械的に返済計画を立てているからこそ、こうした事態を招くのでしょう。
ネットや電話の短いやり取りだけで債務整理を完結させるなんて、到底適切とは言えません。
依頼者の収入や生活実態を詳細に把握することなく、実態に合わない返済計画を立てれば、新たな借金を招くだけです。
それでも報酬だけは確保する、まさに”ビジネススタイル”の債務整理だと言わざるを得ません。
このように、大量広告事務所の一部では、非常に不適切な債務整理が行われているのが実情なのです。
債務者の立場に立った対応がなされていないことが大きな問題だと言えるでしょう。

問題となった大量広告事務所の事例

預り金を横領した東京ミネルヴァ法律事務所

東京都港区に拠点を構えていたミネルヴァ法律事務所は、過払い金請求や債務整理、B型肝炎給付金請求などの幅広い業務を手がけていた弁護士法人です。設立当初から、テレビCMや全国各地での無料相談会などを積極的に行い、多くの実績を上げてきました。

しかし、2020年6月24日、ミネルヴァ法律事務所は弁護士会の会費が支払われなかったことを理由に破産を申立て、事務所は過去最大規模となる約51億円の負債を抱える結果となりました。破産に至った背景には、過払い金を適切に取り扱うことができず、依頼者への返還が不可能になったことが大きな要因とされています。

ミネルヴァ法律事務所は、設立からわずか数年で大きな知名度を誇る事務所に成長しましたが、その内部での運営には問題がありました。特に、事務所は過払い金請求を行う過程で、預かり金(依頼者から振り込まれた弁済資金や金融業者から回収された過払金)の取り扱いが不適切だったことが破産の決定打となりました。

ミネルヴァ法律事務所は、設立から預金残高が預かり金額を割り込んでおり、その差額を補填することなく運営を続けていました。このような資金管理の不備は、信頼できる法律事務所としての運営を続ける上で大きな問題となり、最終的には依頼者への過払い金返還が困難な状況に陥りました。

ミネルヴァ法律事務所の破産事件には、外部の影響力も大きく関わっていました。それが、士業専門の広告代理店である「株式会社リーガルビジョン」です。

リーガルビジョンは、経営が苦しい法律事務所に広告を提供し、集客を行うことで知られていました。ミネルヴァ法律事務所も、リーガルビジョンから集客のサポートを受けていましたが、その結果として、事務所運営は次第にリーガルビジョンに支配されることとなります。

さらに、リーガルビジョンは、関連会社を通じて経理や事務員の派遣を行っており、事務所の運営はほぼ完全にアウトソーシングされる形となっていました。これにより、ミネルヴァ法律事務所は経営の自由度を失い、最終的には広告代理店に依存する状況に陥りました。リーガルビジョンによって流用された資金の一部は、少なくとも30億円にのぼると報じられています。このような状況が続いたことが、破産へと繋がった一因となったのです。(参照「過払い金CMの大手弁護士法人、「東京ミネルヴァ」破産の底知れぬ闇【2020年度上半期ベスト1】」「弁護士事務所の「乗っ取り」が相次ぐ深刻な背景 東京ミネルヴァ破綻で判明した弁護士事情」)

代表者が刑事罰の対象となったあゆみ共同法律事務所

無資格の事務員に法律事務を行わせる「非弁活動」を行ったとして、弁護士法人「あゆみ共同法律事務所」の代表弁護士である高砂あゆみ被告(33歳)と同事務所の弁護士、古川信博被告(31歳)が弁護士法違反罪で在宅起訴され、2月26日に大阪地裁で初公判が開かれました。高砂被告は起訴内容を認め、古川被告はその認否を留保しました。さらに、この事件において、法人としての同法律事務所も起訴されており、起訴内容を認めました。

西川篤志裁判長は、「犯行は組織的かつ職業的なものであり、その違法性は非常に大きい」と述べ、古川被告に懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡しました。また、弁護士法人「あゆみ共同法律事務所」には、求刑通りに罰金300万円が科せられました。

裁判長はまた、「事務員に名義を利用させるという重要な役割を担っていた」と認定しつつも、古川被告が「非弁行為に誘われて取り込まれた面もある」と述べました。

この事件は、インターネット関連企業「HIROKEN」の主導によるもので、検察側は公判で「高砂被告は非弁行為を行っていることに気づきながら、法律事務所代表として活動していた」と指摘しました。起訴状によると、高砂被告と古川被告は2017年1月から2018年8月頃にかけて、HIROKEN側から派遣された無資格の従業員に自分の弁護士名義を使用させたとされています。

また、HIROKEN側は同時期に、報酬を得る目的で非弁行為を行い、債務整理を依頼した顧客から約248万円を受け取ったとして、同社と元専務の山本健二被告(34歳)も在宅起訴されています。山本被告は今月15日の初公判で起訴内容を認め、同様の立場で審理が進んでいます。

今回の判決は、弁護士業務の適正な運営を促進し、無資格者による法律事務の実施に対する強い警告となったと言えます。(参照:産経新聞「職員に名義貸し認める 弁護士2人、大阪地裁で初公判」「「非弁活動」させた弁護士に有罪 大阪地裁判決」)

まとめ

近年、インターネット広告を利用して全国から大量の債務整理案件を集める「大量広告事務所」による債務整理の二次被害が社会問題化しています。これらの事務所では、依頼者との直接面談を行わず、高額な費用を請求するなど、不適切な債務整理が行われているケースが多数報告されています。

東京ミネルヴァ法律事務所では、預かり金の横領により破産に追い込まれ、あゆみ共同法律事務所では、無資格の事務員に法律事務を行わせる「非弁活動」が発覚しました。いずれも広告会社の関与が指摘されており、弁護士業務の適正な運営が求められています。

債務整理を検討する際は、このような大量広告事務所の問題点を理解し、依頼者の立場に立った丁寧な対応をしてくれる弁護士や司法書士を選ぶことが重要です。債務者の利益を最優先に考え、適切な債務整理を行ってくれる専門家に相談することをおすすめします。

  • 記事監修者
  • 弁護士 近藤 裕之
  • 翔躍法律事務所 所属
  • 第一東京弁護士会 所属
  • ※法律問題に関するテキスト監修に限る